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1章 転生勇者は追放される
第十三話:変転
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デビルワームの群れを渾身の『剣技』でなぎ払い、荒い息をついてアルスが膝をついたその瞬間だった。
「はぁ……はぁ……何とか、なったか……」
背後の岩影から、エルドラの密偵が音もなく躍り出た。
「……この化け物め。デビルワームの群れを単身で屠るとは」
密偵の男の顔は、冷や汗で濡れていた。彼は当初、アルスのスカウト、または暗殺の命を受けていた。だが、目の前で繰り広げられた「理を断つ剣技」を見て悟ったのだ。彼と戦えば、自分だけでなくエルドラの騎士団ですら壊滅させられると、恐怖していた。
「……何の、用だ。エルドラ……?」
アルスは彼がエルドラの紋章の入った黒装束を見て問うた。
聖鞘を杖代わりに立ち上がる。右腕の骨が軋み、魔力は底をつきかけていた。
「ご察しの通り、俺はエルドラの密使だ、一応確認しておきたいのだが……」
黒装束の男は目をギラギラとさせて言葉を続けた。
「……アルス殿とお見受けしたが?」
「そうだ」
アルスは突然の密使の出現に嫌な予感がして、改めて彼の周囲を確認したが彼一人のようだった。
「ふむ、唐突ではあるがエルドラの臣となる気はあるか?もし、その気があるなら高待遇を約束する、できればお二人とも……」
密使はアルスの周囲を見回して、彼が一人であることを確認し口ごもる。
「何!?」
アルスは言葉を失う。エルドラとパンデリアルは敵対関係にある。
その敵国の密使が突然やってきて国を裏切れと提案してきてアルスは少し混乱していた。
「我が国の魔導捜査にてパンデリアルに勇者が現れたと観測された、俺はそのあんたをスカウトせよ命じられている、もう一人の方の姿が見えないようだが?」
「……リィンのことか?」
「詳しくは知らない、が、二人とも我が国へ引き抜けと命じられていたのだ」
「それは……無理だ」
アルスはゼノスに誘拐されたリィンを思い浮かべ、苦々しく答えた。
「どうしても、か?」
「俺にはやるべきことがある」
アルスの固い決意のこもった言葉を聞いた密使は何事か考えながら少し沈黙した後に言う。
「そうか、お前を捕らえるのは諦めたよ、アルス。……だが、パンデリアルにも、我が国にも、お前という『脅威』を置いておくわけにはいかない」
男は懐から漆黒に輝く魔法石を取り出して高く掲げた。石の内部で、呪われたような闇の術式が猛烈な勢いで回転を始める。
「それは……転移魔法石か? 」
「これはエルドラが禁忌として封印していた『次元追放石(アビス・ゲート)』だ。……行き先など私にもわからん。だが、この世界(現世)からは確実にお前を消し去ってくれる!」
「くそ!!」
アルスが地を蹴り、聖鞘を振り上げる。だが、男はその聖鞘に向けてその魔法石を素早く投げつけた。
「あばよ、勇者!!」
キィン、バン!
反射的にアルスは『次元断絶』で魔法石を振り払うと魔法石は瞬時に爆散し周囲の空間がドロリと黒い沼のように溶け出した。全方位から押し寄せる闇の渦が、アルスの身体を容赦なく引きずり込む。
「が、あああああああッ!!」
アルスの視界から、パンデリアルの荒野が、デビルワームの骸が、密偵の姿が、急速に遠ざかっていく。
「はぁ……はぁ……何とか、なったか……」
背後の岩影から、エルドラの密偵が音もなく躍り出た。
「……この化け物め。デビルワームの群れを単身で屠るとは」
密偵の男の顔は、冷や汗で濡れていた。彼は当初、アルスのスカウト、または暗殺の命を受けていた。だが、目の前で繰り広げられた「理を断つ剣技」を見て悟ったのだ。彼と戦えば、自分だけでなくエルドラの騎士団ですら壊滅させられると、恐怖していた。
「……何の、用だ。エルドラ……?」
アルスは彼がエルドラの紋章の入った黒装束を見て問うた。
聖鞘を杖代わりに立ち上がる。右腕の骨が軋み、魔力は底をつきかけていた。
「ご察しの通り、俺はエルドラの密使だ、一応確認しておきたいのだが……」
黒装束の男は目をギラギラとさせて言葉を続けた。
「……アルス殿とお見受けしたが?」
「そうだ」
アルスは突然の密使の出現に嫌な予感がして、改めて彼の周囲を確認したが彼一人のようだった。
「ふむ、唐突ではあるがエルドラの臣となる気はあるか?もし、その気があるなら高待遇を約束する、できればお二人とも……」
密使はアルスの周囲を見回して、彼が一人であることを確認し口ごもる。
「何!?」
アルスは言葉を失う。エルドラとパンデリアルは敵対関係にある。
その敵国の密使が突然やってきて国を裏切れと提案してきてアルスは少し混乱していた。
「我が国の魔導捜査にてパンデリアルに勇者が現れたと観測された、俺はそのあんたをスカウトせよ命じられている、もう一人の方の姿が見えないようだが?」
「……リィンのことか?」
「詳しくは知らない、が、二人とも我が国へ引き抜けと命じられていたのだ」
「それは……無理だ」
アルスはゼノスに誘拐されたリィンを思い浮かべ、苦々しく答えた。
「どうしても、か?」
「俺にはやるべきことがある」
アルスの固い決意のこもった言葉を聞いた密使は何事か考えながら少し沈黙した後に言う。
「そうか、お前を捕らえるのは諦めたよ、アルス。……だが、パンデリアルにも、我が国にも、お前という『脅威』を置いておくわけにはいかない」
男は懐から漆黒に輝く魔法石を取り出して高く掲げた。石の内部で、呪われたような闇の術式が猛烈な勢いで回転を始める。
「それは……転移魔法石か? 」
「これはエルドラが禁忌として封印していた『次元追放石(アビス・ゲート)』だ。……行き先など私にもわからん。だが、この世界(現世)からは確実にお前を消し去ってくれる!」
「くそ!!」
アルスが地を蹴り、聖鞘を振り上げる。だが、男はその聖鞘に向けてその魔法石を素早く投げつけた。
「あばよ、勇者!!」
キィン、バン!
反射的にアルスは『次元断絶』で魔法石を振り払うと魔法石は瞬時に爆散し周囲の空間がドロリと黒い沼のように溶け出した。全方位から押し寄せる闇の渦が、アルスの身体を容赦なく引きずり込む。
「が、あああああああッ!!」
アルスの視界から、パンデリアルの荒野が、デビルワームの骸が、密偵の姿が、急速に遠ざかっていく。
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