25 / 58
引っ越し
しおりを挟むそれから数日後、朝食後の時間にセスがアパートを訪ねてきた。
「ニース様」
「やぁ、セスさん」
セスは扉を開けるといつもの姿で、どことなく寂しそうにして立っていた。
「内に入りませんか?」
「いえ、ここで結構です……王からです」
セスはそう言うと王から僕への手紙を取り出して手渡す。
「へぇ珍しいね」
「では私はこれで」
セスは口数少なに帰っていった。セスが自分でやってくるとは何か大事に違いないと感じる。
「なんだろう……鑑定」
それは王の直筆の手紙だった。
それをリビングに持っていくと朝食後のお茶を飲んでいたミニーが興味深そうにする。
「なんですか?」
「王からの手紙みたいだ……えーと」
封印を解いて中を読むと王の優しい人柄を思わせる言葉で、今までの僕の王国への貢献に対する感謝の言葉が綴られていた。
そして、もう自分の寿命があまり残されていないので、王子をよろしく頼むと遺言のようなことが書かれている。
その為に僕を王宮の最高顧問として軍師に叙任し、同時に伯爵に封じるので今週末に王宮に来るように書いてあった。
「ふぅ……」
いきなり軍師だなんて言われてもピンとこないが、それ以上に王がもう長くないと知り僕は悲しくなった。
「……」
僕が深いため息をつくのを見たミニーがそっと後ろにやってきて、椅子に座っている僕の肩に抱き着く。
「あたしが付いてます」
「はは……ありがとうミニー」
僕はミニーに励まされていた。
手紙から推測すると今週に僕の伯爵と軍師叙任をしてその後、王子の王位継承の戴冠の儀を行うのだろうと考えられた。
「なんて書いてあるのです?」
「僕を伯爵にして王宮の軍師に任命するらしい」
「ええ!……そんなぁ」
ミニーに説明すると彼女は驚嘆と落胆が混じった声を上げる。
「……もうお別れなのですね」
ミニーが寂しそうに言う。
「ミニーが冒険者ならそういう事になるな」
「冒険者ですもの……」
ミニーは少し不思議そうな顔で答える。
「軍師で伯爵ならそれなりに権限があるから、その気になればミニーを僕の補佐役に着ける事もできるだろう」
「え!ほんとう!」
王や王子がそれを許さないなどと言う可能性はゼロだった。
僕は王国への貢献度が周辺の王国貴族を遥かに凌いでいるし、実績の面からしても反対できるものは存在しないだろう。たとえミニーが孤児院出身の冒険者であっても。
「いままで通りって事なのですか?」
「うん、もう少し大きな家に引っ越す事になるだろうけどね」
「やったぁ!」
ミニーが可愛らしく喜ぶ。
このアパートでは帝国の隠密やら工作員への防御が不可能に近いので、以前から引っ越しする事は考えていたのだ。
「よし、今日は買い物に行こうか」
◆
僕はミニーと一緒に王都の最高級の衣料店に向かい叙任式用の衣装を一揃い2人分注文し、その足で王都の不動産屋へ向かった。
「こんにちわ」
「これはどうもニース様」
僕が不動産屋に入ると店主はにこにこして立ち上がり店内に2人を招いた。
「王宮の側の家を買おうかと思っていてね」
「はい!?はい!多数ご紹介できますよ!」
僕のアパート暮らしを知っていた不動産屋の親父は、僕の言葉に一瞬疑問な顔をしてから言い直した。
親父はそう言うと、引き出しの奥から特別に装飾された豪華で大きな本を取り出して訊く。
「ご予算はいかほどでしょうか?」
「金貨1万枚まででお願いします」
「はは……1万ですか」
親父は愈々僕をおかしな顔で見る。
それはいくら何でも若造が手にできる金額ではないのだ。金貨1万枚は地方の城一個が買える金額だった。
でもそれは僕の予想どおりだったので大きなカバンをテーブルの上に置いて開いて見せた。
「では手付金として1000枚渡して置きますね」
カバンの中にぎっしりと詰まった金貨を見た親父は目を丸く見開いて言葉を失っている。
「こ……」
「数えますか?多分1000枚と少し入ってます」
それだけでこのあたりの家なら数軒が買える金だ。
「はい!いいえ!もう結構です」
すると親父は豪華本の最後の方のページを開いて僕に見せる。
「この辺りの家ですと、丁度ご要望どおりですが見に行きませんか?」
「良いですね、是非」
「あ、あとこの金は金庫にでも仕舞っておいてください」
「はい!」
親父はそういうとカバンを重そうに持ち店の奥に引っ込んで行った。
45
あなたにおすすめの小説
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる