31 / 58
コイバナ
しおりを挟む酒場に戻るとアリアとリジーはすっかり酔って気分が良いらしく、ご機嫌で笑い合っていた。
「お待たせ」
僕が軽いノリで彼女達の隣に座る。その席がずっと空いているという事はつまり、男を寄せ付けないという意味でそれは僕にとっても都合が良かった。
「あれ?ニースさんじゃない!なんでさっき帰っちゃったのよ~」
「そうよそうよ!」
ご機嫌のアリアとリジーが僕を責める。
「あはは、ご機嫌ですね、何かあったの?」
「あったのよ!聞いてくださいよ~、この子の悲しい恋の話を!」
アリアがリジーの肩を抱きしめておどけて言う。
短時間の間に2人は仲直りしてしまっていた。
「それは大変だったね」
「聞いてくださる?ねぇ?聞いてくださるの?」
リジーが酔った目で僕に迫る。
「はいはい、聞きますよ」
「よっし、じゃぁ特別にお姉さんが告白しちゃうからね心して聞くように」
酔った勢いで振れ幅が大きいリジーが僕に言う。
「どうぞどうぞ」
「あの、王宮の男がね!私を振ったのよ!許せないでしょ!」
「うんうん」
「そうなの許せないの、あのセスって……えーと情報技官だってぇ」
「うんうん」
「セスったらね『私にはまだやらねばならない使命があるのだ』ってフザケてるわよねー」
リジーがセスの口真似をして男っぽく言って僕が笑った。少し似て居てお腹のそこからジワジワと笑いがこみあげてくる。
「プ……似てる、ごめん笑ってしまった」
「似てるでしょう!?似てるわよねぇ?」
「凄く似てる」
つまり、セスに告白をしたけどリジーが振られたという事なのだ。
「まだあるのよ!『私には思いを寄せる人がいるから、今は貴女との特定の関係には及べない、済まぬ!』とか言うのよ!」
「それで、リジーったらあたしがその相手だと勘違いしてたらしいわ」
「だってぇ、セスったら良く商業ギルドに行くのを皆が見ててアリアと親しそうに話してたっていうの!」
僕にはそれが何か大体予想がついた。
セスが鉱山開発の為に商業ギルドへ出向いて、職人の手配をしたりして奔走していたのだろう。
「でね、リジーったらあたしがセスを奪ったとか」
「なるほど、勘違いですね」
「ほんと嫌になっちゃうわよね、あはは」
でもリジーが振られたというのは事実だったので、僕は笑えなかった。
セスの思い人が誰かは知らないが、この王都界隈でそんな恋愛話があるとは世間は狭いものだと感じる。
「セスさんは、普通にただのお仕事で商業ギルドに通って来ていただけなのよねぇ~」
そこで話を変える。
「アリアさんとリジーさんは元々旧知なのかい?」
「そうよ」
旧知の仲の美女2人、酒場でそれは良い眺めだった。なんとも贅沢な存在だ。
「アリアさんは、誰か良い人は居ないのかい?」
「ええ~あたしは~、うーん居ない!」
「ええぇ!」
リジーがアリアの告白を聞いて驚いていた。
「本当の事をいいなさい!」
リジーがアリアに迫る。
「え~、怖いよ~」
アリアがおどけて言う。
「はぁん?さてはアリアはニースさんがお好きなのね!」
リジーが急に僕へ話を振る。
「ええ、マジですか?」
「あはは~」
僕が道化るとアリアも合わせる。
僕は真実がどうであれ今はそんな気分になれなかったのだ。
「でも、ニースさんはダメよ!アリア!ニースさんはミニーちゃんのものなのよ!」
「ええ!?そうなの?」
リジーが悪乗りで言うとアリアが半分真顔になっていた。
「そんな訳ないわ、っていうか僕はモノではないし」
「あはは~ごめんなさい……」
明らかに呑みすぎの2人に僕は少し手に負えなくなってきた。
「それじゃ、帰りますねー」
「えええ!もう帰っちゃうの?」
「うん、まぁ仕事もあるし」
僕は適当な事を言って誤魔化した。
「絶対に嘘よ!ミニーちゃんとチュッチュする為に帰るのよ!」
「あはは、それはした事もないよ、ではお休みなさい~」
「あら本当なの?」
「やだ、あたしったら!」
手を振って店を出ると、2人の声が聞こえて来てしまう。
「なーんだ、本当にミニーちゃんと何もないのね」
「だって、奥手も奥手だしぃ、一目見て判ったわ」
「なにそれー!」
彼女達の楽しい話のネタになった僕は家に帰った。
46
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。
あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」
長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。
だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。
困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。
長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。
それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。
その活躍は、まさに万能!
死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。
一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。
大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。
その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。
かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。
目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
追放された宮廷薬師、科学の力で不毛の地を救い、聡明な第二王子に溺愛される
希羽
ファンタジー
王国の土地が「灰色枯病」に蝕まれる中、若干25歳で宮廷薬師長に就任したばかりの天才リンは、その原因が「神の祟り」ではなく「土壌疲弊」であるという科学的真実を突き止める。しかし、錬金術による安易な「奇跡」にすがりたい国王と、彼女を妬む者たちの陰謀によって、リンは国を侮辱した反逆者の濡れ衣を着せられ、最も不毛な土地「灰の地」へ追放されてしまう。
すべてを奪われた彼女に残されたのは、膨大な科学知識だけだった。絶望の地で、リンは化学、物理学、植物学を駆使して生存基盤を確立し、やがて同じく見捨てられた者たちと共に、豊かな共同体「聖域」をゼロから築き上げていく。
その様子を影から見守り、心を痛めていたのは、第二王子アルジェント。宮廷で唯一リンの価値を理解しながらも、彼女の追放を止められなかった無力な王子だった。
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
追放先の辺境で前世の農業知識を思い出した悪役令嬢、奇跡の果実で大逆転。いつの間にか世界経済の中心になっていました。
緋村ルナ
ファンタジー
「お前のような女は王妃にふさわしくない!」――才色兼備でありながら“冷酷な野心家”のレッテルを貼られ、無能な王太子から婚約破棄されたアメリア。国外追放の末にたどり着いたのは、痩せた土地が広がる辺境の村だった。しかし、そこで彼女が見つけた一つの奇妙な種が、運命を、そして世界を根底から覆す。
前世である農業研究員の知識を武器に、新種の果物「ヴェリーナ」を誕生させたアメリア。それは甘美な味だけでなく、世界経済を揺るがすほどの価値を秘めていた。
これは、一人の追放された令嬢が、たった一つの果実で自らの運命を切り開き、かつて自分を捨てた者たちに痛快なリベンジを果たし、やがて世界の覇権を握るまでの物語。「食」と「経済」で世界を変える、壮大な逆転ファンタジー、開幕!
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる