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空飛ぶ車
しおりを挟むそれから1週間は前国王の葬儀が続き、その間僕はマール王の代理として日中は王宮に詰めていた。
朝から参内して夜に帰るという生活に慣れた頃、僕とカレンとの関係も微妙に変化していった。
初めは僕の事を「ニース様」とぎこちなく呼んでいたのだが、次第に「ニースさん」と呼ぶようになり、最後にはリーサと一緒に「ニースちゃん」と呼ばれるようになった。
僕をそう呼ぶカレンは徐々に男っぽさが消えて行き、女性らしい柔らかな物腰と可愛らしい雰囲気に変わって行った。
自らが発する言葉で自分自身が変化していっている、僕の鑑定ではそのように出た。
「最近、カレンちゃんが何か可愛くなっている気がするのだけど」
「ええ……」
夜、皆で夕食のテーブルを囲んでいる時に指摘するとカレン自身が意外そうに言う。
「そ、そんな事……ないわ、よ」
男言葉も女言葉になりつつあって僕はそれが好ましかった。
「そうよ~、変わったわ」
リーサが僕に同意する。
「あのう、カレンさんって帝国では一番強い勇者様だったのでしょう?」
「今でも強いわ、よ」
カッツが好奇心で訊くとカレンが照れながら少しぎこちない女言葉で返す。
以前だったらカッツのような少年を見下し、「気安く話しかけるな」と冷徹に言い放つに決まっていた。
「それに美人だし」
僕がダメ押しをするとカレンは顔が真っ赤になって固まってしまう。
面と向かって容姿を褒められるという事を今まで経験していないのだ。
それを相手に言わせない威圧感と威厳を湛えていたのだが、今はすっかり穏やかになっている。
「わ、わた、私は……そんな褒めらた事がないので、困るのだ……」
「うふふ、やっぱり可愛いわよねー」
リーサがそんなカレンを見て言う。
カレンは公然と謁見の間で僕にやり込められた時に。
自らしもべになるなどと言う宣言は、彼女の心に纏った鎧をはぎ取り、素の童心に戻していたのだ。
鑑定師の僕にはそれが判った。
それ以来リーサはずっとにこにこしていて、僕は癒されっぱなしだ。
「あー、またリーサちゃんの事見てる」
ミニーが鋭く指摘する。
「ふふふ、旨い飯と酒、そして……最高だろう?」
「マジ最高っす、師匠!」
「あーごまかしましたね」
ミニーが的確に突っ込んでくるが、そんな会話も今では定番になった。
◆
前国王の葬儀が終わると王宮全体が喪に服していて、少し暇が出来たカッツがカレンに頼んで剣の稽古をつけてもらっていた。
「そりゃ!」
ガィン!キシィ!
カッツが打ち込む剣をカレンは軽々と捌く。
「もっと身体の力を抜いてインパクトに集中しなさい」
「はい!先生!」
僕のアイテムを一切使用しない、自力の鍛錬はカッツにとっていい刺激になっている。
いかにアイテムが強力であっても、更なる高みを目指すには本人の基本的な練度を上げる事が必要なのだ。
午前中、ずっと打ち合いの稽古をつづけてカレンも少しくたびれて言う。
「もうそろそろ終わりにしよう?」
「え、あはい!有難うございました!カレンさん」
カレンもカッツ達と打ち解けあって今では子弟関係、友達関係のようになっていた。
少し長い休みを貰った僕は、彼らの稽古をバルコニーから眺めながらアイテムの製作にいそしんでいる。
「カッツもタフだなぁ」
汗だくになった2人が屋敷の中に入って来るのを見て、僕もアイテムの製作を一旦終えた。
そこには作りかけの飛翔魔車があった。丁度、下部と骨組みベースの部分の加工が終わり、あとはそれを籠部に取り付ければ一旦完成となる。
「あとは調整をして試運転だな……」
その運転手として誰か丁度いい相手がいないかと考えて居ると、執事のトーマスが部屋にやってきて昼食の用意が出来たという。
「旦那様、お昼の準備が整いました」
「お、良い所にきたね」
「は?」
「あとで、少しお願いがあるのだ」
「はい、どのような」
「あれを完成させて皆で乗って飛ばそうと思う、それで君に試運転をお願いしたい」
「は!私でありますか?」
トーマスは少し驚いていたが、特に魔力の訓練をしていない一般人のトーマスがテストには適任だと思った。
「頼むよ」
「はい」
◆
昼食を終えるとミニーとマーシーは王都に買い物に出かけると言って屋敷を出て行った。
僕はリーサとカレン、カッツに手伝ってもらい飛翔魔車のベースに本体のカバーを乗せてくみ上げる。
「出来た!」
一応綺麗に組みあがったそれを見て僕が喜ぶ。
「カッコいい!師匠、これって?」
「飛翔魔車だ」
「それって、もしかして……」
と何も知らないカレンが訊く。
「空飛ぶ馬車だ」
「ええ~~」
「スゴ~イ」
「流石師匠」
「さて、トーマスさん、お願いしますね」
僕はトーマスと共に二人掛けの御者の席に座り、操縦方法を教える。
「ここを握って、そう、それで集中して、上がれと念じて」
「はい……はい、では、上がれ!」
トーマスが上がれと言うと飛翔魔車が少し浮いて静止した。
「おおお!」
「うわああ!」
「カッコいい!」
そこで喜んでいる3人を呼び寄せて乗るように言う。
「よーし、では浮かんだまま乗車してみよう」
地面から50センチ浮かんだままで3人が扉から中に入ると、若干バランスを崩すが問題無く操縦出来ている。
「素晴らしい上出来だ!よし、このまま屋敷の中を階段を使って下に降りて行こう」
トーマスは僕の指示するままに操縦棒を握って念じ、飛翔魔車が滑るように動いて通路を通り、階段をスルスルと降りていく。
1階のホールから外に出て停車し、僕はトーマスを絶賛した。
「やったぞ!トーマス、君はなんて素晴らしいんだ!」
「あ、いや~そんなにお褒め頂くと困ります」
トーマスは自分の後頭部を撫でて照れている。
「よぅし!このまま納品に行こう」
飛翔魔車は目の前の王宮にそのまま飛んで行った。
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