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しもべカレン
しおりを挟むカレンとリーサは、しかし翌日には王宮にやってきていた。
その時、丁度悪い事に前国王が亡くなり、マールが弔いの為に引きこもっていて僕がマールの代役を務めていた。
「勇者カレンとリーサ、立つが良い」
僕はなるべく偉そうに言い、跪く2人を立たせた。
「は!」
「なんで!」
2人は僕の顔をそばで見て驚いていた。王の玉座に座ってこそいないが紛れもなく王の側近の最高責任者であることは間違いない。
2人は僕が軍師でマールの友人であることを知らなかった。
「口を慎みなさい」
近衛隊長から注意を受ける。
「はい、失礼いたしました」
「はい」
2人は素直に謝る。
「それで、本日はどんな用で来たのだ?」
「我々は帝国から逃れてきました」
すると謁見の間に居合わせた高位官職者や貴族達からどよめきが起こる。
「それはなぜか?」
「はい、恐れながらニース様を捕らえるという任務に失敗し、処刑の運命にあったからです」
更にどよめきが大きくなる。
「ははは、僕に勝てぬと悟ったか?」
「はい……」
「ではあの時の条件を飲むというのか?」
「……」
「カレン頑張って」
カレンが返答に詰まっているとリーサが小声で応援していて、僕は笑いそうになった。
「はい、飲みます」
「そうか、その条件を再度ここで言って欲しい」
「う、はぁぅ……」
「何だ?聞こえんぞ」
カレンのキリッとした美貌が崩れていって口がぱくぱくあわあわと開いて声になっていない。
「わ、わらひはニースしゃまのシモベになりまぁす」
「良い返事だ、良いだろう王国に滞在する事を許す」
再度大きなどよめきが起こり、ざわめく。
カレンは何とか言い切ると涙目になっていた。
僕はそれでカレンを許すことにして、僕のシモベとして滞在許可を与えた。
◆
その晩、僕が王宮を出て屋敷に戻るとセスがカレンとリーサの2人を連れて屋敷で待っていた。
「お帰りなさいませ、ニース様」
執事とその場に居た使用人が一斉に僕を出迎えてくれる。その中にカレンとリーサも居た。
「お帰り~」
階段の上からミニーの元気な声がして迎えてくれる。
「やあ、皆只今、セスさんご苦労さまでした」
「はい、では私はこれで」
僕はカレンとリーサを連れて2階に上がる。
「もう皆とは挨拶したかい?」
「はい、一応……」
カレンはしおらしくなって答えた。
それで2階で声を掛け、カッツ達に僕の私室に来るように言う。
「今日から新しい仲間を紹介する」
僕はそう言い、カッツ達にカレンとリーサを紹介した。
「ええ?下僕ではないのですか?」
「この屋敷の中では下僕ごっこはなしだよ」
雰囲気が暗くなるのが嫌だったので、屋敷内では主人と下僕の関係は無しにした。
「ニース、私は勘違いしていたようだ……」
「ニースさんと呼んでくれ、僕を呼び捨てにして良いのはリーサとマール国王だけだ」
カレンにしては真摯に詫びていたが、それでもカレンが僕を呼び捨てにするのだけは許さなかった。呼び捨ての習慣を持つといつの間にか相手を下に見るものだ。
「え!なんでリーサさんだけ?」
とミニー。
「それは……リーサにはどんな風に呼ばれても癒されるからだ」
「えええ~」
ミニーが驚いていた。
それは僕の告白とも受けとれる言葉だったが、リーサ本人はケロっとしている。
この関係はずっと以前からあったから、2人にとってそれはごく自然なことであるのだ。
「私判ります、だってリーサさんがそばに居るだけで和みますもの」
いつも口数が少ないマーシーがそういうと説得力がある。
「な、なるほど、判りましたニース様」
今度はカレンが自分から様付けで呼び始めた。
「うん、よろしくねカレンちゃん」
「う……はい」
「それから明日からは前国王の葬儀が始まるから、皆そのつもりで準備しておいてくれ」
「はい」
「はーい」
「招致しました」
「はい、ニースちゃん」
やはり、僕は癒された。
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