21 / 22
21 私の世界
しおりを挟む
とぷとぷとぷとぷ……
まるで深海にでも沈んでいくかのように身体が重い。だが、嫌な重さではなく、ゆっくりと静かに沈んでいくのがよくわかる。
(私はどこに向かっているのだろうか……)
(ここはどこ……?)
ゆっくりと目を開ける。そこは闇だけが覆っていて、自分の姿さえも見えない。真っ暗だ。でも恐くはない、不思議な感覚。
私が一体誰で、ここがどこかというのが曖昧になっていく。
(私は誰……?)
再び目を閉じる。ゆっくりと手探りで記憶の糸を辿っていく。かつての過去、この世界に来るまでの……
「君は◯◯◯◯さ」
「違う」
「いいや、君の本当の名は◯◯◯◯だよ」
「違う、私はその名を捨てた。いえ、私は捨てられた」
そう、だ。私は捨てられた、元の世界の父に、母に、家族に……。
「本当◯◯◯◯は本の虫ね」
「我が一族は創造主の一族。そのような空想の世界ばかりに浸っている者はいらぬ」
「姉さん、いい加減現実を見なよ。あぁ、恐くて見れないか、だって現実の世界で生きていくには無力だもんね」
「「「あははははは!!!」」」
あの頃は邪険にされてばかりで居場所などなかった。居場所が欲しくて、本の世界に浸れば浸るほど嘲笑され、貶された。だから……
「逃げたんだよね、姉さんは。何もかもから」
「……キース」
闇が晴れ、色が戻る。そこにはかつての弟の姿があった。
そうだ。私は元の世界から追放され、逃げたのだ。追放、つまり死から逃れるため、自らの世界を構築し、ここに逃げ込んだのだ。
「父さんも母さんも探してたんだよ」
「嘘つき。……今更、何の用?」
「おぉ、こわいこわい。せっかく遠路遥々弟がやってきたというのに、その言い草?」
「家族だなんて思ってないくせに」
「そういう被害妄想?やめてよね、本当面倒くさい。ま、いいや、とりあえず早く帰ってきてよ。あんたがいないと困るんだよね」
「勝手なことを言わないで。貴方達が私を外へ追いやったんでしょ?!」
「そうだったんだけど、事情が変わったんだ。元の世界の危機でね、創造主の力が必要なんだって。すっごく不本意だけど、ご当主様が一番の適任者にあんたを指名したんだ。良かったね、これで僕達の役に立てるよ?」
はは、と嘲笑するように顔を歪めるかつての弟。その瞳には私を人としてではなく、利用できるモノとしてしか映っていない。
「それにしてもちょっと見せてもらったけど、随分とまぁ歪な世界だよね、作者が歪んでいるのがよくわかる」
「煩い」
「ここでの生活が幸せすぎて、不安になっちゃったんでしょ?わざと自傷行為みたいな真似してバカみたい」
「煩い」
「で、今は逆ハーレム構築中?彼らにそれぞれ設定を割り振ってイチャイチャする感じ?本当ウケる」
「煩い」
「もういい加減楽しみ尽くしたでしょ?はい、ハッピーエンド。ってことで、撤収ー」
「煩い、黙れ」
「は?誰が僕にそんな口聞いてんの?」
見下すような目。あぁ、私はこの目を知っている。今まで恐怖の象徴だったもの。私を苛むもの。でも、今は……
強く彼を見つめ返す。目を逸らさず、ジッとその瞳だけを射抜く。
「もう今の私は、あんた達が知ってる私じゃない。弱さも苦しみも、全部受け止める強さを身につけた。みんなのおかげで、逃げることの大切さも、向き合うことの大切さも知ることができた。ここは確かに私の作った世界。けれど、私は箱庭を構築しただけで、全ての行動は住人に委ねられている。つまり管理権は既に私の手から離れている。元の世界と同一。私にこの世界を操る権利などない!」
「な!自ら管理権を放棄するなんて馬鹿のすることだ!!」
「どうせあんた達は私のこの箱庭を手に入れたあと、都合よくいじくりまわして、神のごとくこの世界を征服しようとでもしたんでしょう?残念だったね。私は貴方達を拒絶する。この世界と共に私は生きて死ぬ!貴方達になんか渡さない!!」
「お前ごときにそんなことさせない!」
激しく衝撃波がぶつかる。キースの力は強い。確かに以前の世界では劣っていた。でも今は……!
「なっ!にーーーーーー??!!!!」
「あんたじゃ私を倒せない。私はあんたをあんた達を拒絶する。もう二度とこの世界に踏み込まないで!!!」
キースを思い切り世界から吹っ飛ばす。そして、バタンバタンバタンバタンと幾重にも重厚な扉が音を立てて閉まり、元の世界から隔離していく。この世界は絶海の孤島のごとく、もう誰も足を踏み入れることができない。そして誰も出られない。
はぁ……と大きく息を吐く。長い長い夢を見ているようだった。元の世界から逃げ、ゴードンから逃げ、逃げるばかりだった私。そんな私を受け入れてくれた彼ら。私は彼らがいてくれたから、こんなにも成長ができた。
私は私は……
「アリア」
フッと意識が浮上する。あぁ、私はアリアだ。ただのアリアだ。ゴードンとイミュとアレスという家族に囲まれたアリアだ。
「おかえりなさい、アリア」
まるで深海にでも沈んでいくかのように身体が重い。だが、嫌な重さではなく、ゆっくりと静かに沈んでいくのがよくわかる。
(私はどこに向かっているのだろうか……)
(ここはどこ……?)
ゆっくりと目を開ける。そこは闇だけが覆っていて、自分の姿さえも見えない。真っ暗だ。でも恐くはない、不思議な感覚。
私が一体誰で、ここがどこかというのが曖昧になっていく。
(私は誰……?)
再び目を閉じる。ゆっくりと手探りで記憶の糸を辿っていく。かつての過去、この世界に来るまでの……
「君は◯◯◯◯さ」
「違う」
「いいや、君の本当の名は◯◯◯◯だよ」
「違う、私はその名を捨てた。いえ、私は捨てられた」
そう、だ。私は捨てられた、元の世界の父に、母に、家族に……。
「本当◯◯◯◯は本の虫ね」
「我が一族は創造主の一族。そのような空想の世界ばかりに浸っている者はいらぬ」
「姉さん、いい加減現実を見なよ。あぁ、恐くて見れないか、だって現実の世界で生きていくには無力だもんね」
「「「あははははは!!!」」」
あの頃は邪険にされてばかりで居場所などなかった。居場所が欲しくて、本の世界に浸れば浸るほど嘲笑され、貶された。だから……
「逃げたんだよね、姉さんは。何もかもから」
「……キース」
闇が晴れ、色が戻る。そこにはかつての弟の姿があった。
そうだ。私は元の世界から追放され、逃げたのだ。追放、つまり死から逃れるため、自らの世界を構築し、ここに逃げ込んだのだ。
「父さんも母さんも探してたんだよ」
「嘘つき。……今更、何の用?」
「おぉ、こわいこわい。せっかく遠路遥々弟がやってきたというのに、その言い草?」
「家族だなんて思ってないくせに」
「そういう被害妄想?やめてよね、本当面倒くさい。ま、いいや、とりあえず早く帰ってきてよ。あんたがいないと困るんだよね」
「勝手なことを言わないで。貴方達が私を外へ追いやったんでしょ?!」
「そうだったんだけど、事情が変わったんだ。元の世界の危機でね、創造主の力が必要なんだって。すっごく不本意だけど、ご当主様が一番の適任者にあんたを指名したんだ。良かったね、これで僕達の役に立てるよ?」
はは、と嘲笑するように顔を歪めるかつての弟。その瞳には私を人としてではなく、利用できるモノとしてしか映っていない。
「それにしてもちょっと見せてもらったけど、随分とまぁ歪な世界だよね、作者が歪んでいるのがよくわかる」
「煩い」
「ここでの生活が幸せすぎて、不安になっちゃったんでしょ?わざと自傷行為みたいな真似してバカみたい」
「煩い」
「で、今は逆ハーレム構築中?彼らにそれぞれ設定を割り振ってイチャイチャする感じ?本当ウケる」
「煩い」
「もういい加減楽しみ尽くしたでしょ?はい、ハッピーエンド。ってことで、撤収ー」
「煩い、黙れ」
「は?誰が僕にそんな口聞いてんの?」
見下すような目。あぁ、私はこの目を知っている。今まで恐怖の象徴だったもの。私を苛むもの。でも、今は……
強く彼を見つめ返す。目を逸らさず、ジッとその瞳だけを射抜く。
「もう今の私は、あんた達が知ってる私じゃない。弱さも苦しみも、全部受け止める強さを身につけた。みんなのおかげで、逃げることの大切さも、向き合うことの大切さも知ることができた。ここは確かに私の作った世界。けれど、私は箱庭を構築しただけで、全ての行動は住人に委ねられている。つまり管理権は既に私の手から離れている。元の世界と同一。私にこの世界を操る権利などない!」
「な!自ら管理権を放棄するなんて馬鹿のすることだ!!」
「どうせあんた達は私のこの箱庭を手に入れたあと、都合よくいじくりまわして、神のごとくこの世界を征服しようとでもしたんでしょう?残念だったね。私は貴方達を拒絶する。この世界と共に私は生きて死ぬ!貴方達になんか渡さない!!」
「お前ごときにそんなことさせない!」
激しく衝撃波がぶつかる。キースの力は強い。確かに以前の世界では劣っていた。でも今は……!
「なっ!にーーーーーー??!!!!」
「あんたじゃ私を倒せない。私はあんたをあんた達を拒絶する。もう二度とこの世界に踏み込まないで!!!」
キースを思い切り世界から吹っ飛ばす。そして、バタンバタンバタンバタンと幾重にも重厚な扉が音を立てて閉まり、元の世界から隔離していく。この世界は絶海の孤島のごとく、もう誰も足を踏み入れることができない。そして誰も出られない。
はぁ……と大きく息を吐く。長い長い夢を見ているようだった。元の世界から逃げ、ゴードンから逃げ、逃げるばかりだった私。そんな私を受け入れてくれた彼ら。私は彼らがいてくれたから、こんなにも成長ができた。
私は私は……
「アリア」
フッと意識が浮上する。あぁ、私はアリアだ。ただのアリアだ。ゴードンとイミュとアレスという家族に囲まれたアリアだ。
「おかえりなさい、アリア」
0
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜
ソニエッタ
ファンタジー
森のはずれで花屋を営むオルガ。
草花を咲かせる不思議な力《エルバの手》を使い、今日ものんびり畑をたがやす。
そんな彼女のもとに、ある日突然やってきた帝国騎士団。
「皇子が呪いにかけられた。魔法が効かない」
は? それ、なんでウチに言いに来る?
天然で楽天的、敬語が使えない花屋の娘が、“咲かせる力”で事件を解決していく
―異世界・草花ファンタジー
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる