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第三十一話 評価
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「市井に行く!? ダメに決まってます! 絶対に許しません!」
「ちょっとだけだから。いつもの女将さんのとこに行ったらすぐに戻ってくるわよ」
「わざわざ花琳さまが行かなくても!」
「一応私が思いついた案だからちゃんと見ておきたいのよ」
先日、受け取った意見箱に関しての報告書に上層部の改竄箇所が見受けられると書かれていたのを発見した花琳。
よくよく調べると、予算や人員の補充などを上層部の都合のいいように根回しして本来発注する人ではない人に割り振られている件などがあった。
さらに、意見自体も上層部の都合がいいようなことに書き換えられて予算も割り振られているとの報告もあって、これは自分が動かねばと花琳が市井を調査しに行くと言い出したのだ。
「実際に見たら多少なりとも感覚がわかるだろうし、市井の人達がどう思っているのか知りたいの。最近ずっと城に籠りきりだったし、ほんのちょっとだけだから」
「そうおっしゃっても、命の危険があるのですから認めません!」
「ちゃんと明龍を連れて行くし」
「ですが、何かあってからでは遅いのですよ!?」
「わかってるけど……私は王としてやれることはやりたいの!」
話は平行線。
明龍は花琳と良蘭の言い争いにおろおろするだけだ。
「明龍も何か言って!」
この状況を打破したいと花琳が明龍に話を振るも、他人事のように話を聞いていた彼は突然のことに慌てふためく。
「えぇ!? えっと、僕にそんな、いきなり振られても……困るというか……」
「もう、ハッキリしないわね! 明龍的にはどう思うかって聞いてるの!」
「えーっと……そりゃ、市井の反応を聞いたほうがいいとは思いますよ? 色々と有益な意見や情報も聞けるでしょうし。けど、最近は仲考さまも何やら策謀されてるご様子ですから、気をつけるに越したことはないかとも思います」
結局、どっちつかずの言葉に振り出しに戻る。
花琳と良蘭はお互いずっと見つめ合って膠着状態だったが、先に折れたのは良蘭だった。
「あぁ、もう……わかりましたよ! 昼の間にだけですからね」
「ありがとう、良蘭愛してる!」
「もう、調子がいいんですから。絶対に危険なことはなさらないでくださいよ。何かあったら……」
「わかってるわかってる。何かあればすぐに逃げるから」
「絶対の絶対のぜーったいの約束ですからね!?」
良蘭から許可を取り、早速支度を始める。
前回はちょっといい布地で行ってしまったがために変な輩に絡まれてしまったが、今回はちゃんと学習して安物の布地で服を作っておいてあった。
「これでよーし!」
「もう、そういうときばかり用意周到なんですから」
「やる気に満ち溢れているのはいいことでしょう? 王の鑑じゃない?」
「そうですよ。だからこそ、気をつけないといけないのです。国民は民のための王を必要としてますが、上層部は自分達の利になる王を求めているのですから」
軽口を言ったはずが、真剣な眼差しで見つめられる。
まさかそんな返しが来るとは思わず調子が狂った。
「わかったから、そんなに圧力かけないでよ」
「こうでもしないと花琳さまの自覚が薄いので」
「悪かったわよ。とにかく行ってくるから留守を頼んだわ」
「承知しました。明龍、くれぐれも……」
「重々承知してますよ。この身に代えてでもお守りします」
「よろしい。では、いってらっしゃいませ」
良蘭に見送られて市井に下る。
思いのほか行くまでに時間はかかってしまったが、短時間で用は済ませる予定だからきっと大丈夫だろうと花琳は思いつつ、効率的に動けるように事前にある程度今後の動きを想定しておくことにした。
「どうします?」
「手短に済ませたいから女将さんのとこに行って主要な情報だけ聞くことにするわ。あまり長居しても良蘭が言うように危険だろうし」
「承知しました」
◇
「あら、久しぶりだねぇ。元気にしてた?」
「はい。おかげさまで」
「そういえば、見た? 秋王さま! 久々にお顔を見たけど、病気が治ったのかえらく美丈夫になったと思わないかい? 私があともうちょい若ければ雪梅さまの代わりになったかもしれないのに」
「はははは、カッコいいデスヨネー」
まさかあれが自分だなんて言えずに花琳は笑って誤魔化す。
城では容姿について特に言及されたことなどないので、一般的に見てカッコよく見えるのかとちょっと意外に思いつつも、好印象なのはよかったとホッと胸を撫で下ろした。
「今日お嬢ちゃんが来た理由当てようか?」
「え、わかります?」
「意見箱のことだろ? さすがにわかるさ」
女将はそう言うと最近の意見箱に関する情報を集めておいてくれたようで、色々と聞かせてくれる。
やはり地方によっては不正を働いている地域があるようで、そこでは火種が燻っているとのことだった。
その特定の地域などの名などを確認して手早く書き記しておく。
「さすが女将さん、頼りになります!」
「うふふふ、もっと褒めておくれ! でも、こうして意見箱とかやってくれたのはよかったと思うよ。この辺の治安もだいぶよくなって来たしねぇ。そうそう、この前来たときも一斉に違法賭博が摘発されてね、おかげで商売の邪魔だった人達も一掃されたのよ」
「そうなんだ! 父ちゃんにもそのこと伝えておくよ!!」
女将から褒められ、ニヤケそうになるのを噛み締める花琳。
仲考にかき回されたり峰葵や雪梅のことで悩んだり憂鬱な日々ばかりだったが、こうして評価されたことが花琳は何よりも嬉しかった。
「ちょっとだけだから。いつもの女将さんのとこに行ったらすぐに戻ってくるわよ」
「わざわざ花琳さまが行かなくても!」
「一応私が思いついた案だからちゃんと見ておきたいのよ」
先日、受け取った意見箱に関しての報告書に上層部の改竄箇所が見受けられると書かれていたのを発見した花琳。
よくよく調べると、予算や人員の補充などを上層部の都合のいいように根回しして本来発注する人ではない人に割り振られている件などがあった。
さらに、意見自体も上層部の都合がいいようなことに書き換えられて予算も割り振られているとの報告もあって、これは自分が動かねばと花琳が市井を調査しに行くと言い出したのだ。
「実際に見たら多少なりとも感覚がわかるだろうし、市井の人達がどう思っているのか知りたいの。最近ずっと城に籠りきりだったし、ほんのちょっとだけだから」
「そうおっしゃっても、命の危険があるのですから認めません!」
「ちゃんと明龍を連れて行くし」
「ですが、何かあってからでは遅いのですよ!?」
「わかってるけど……私は王としてやれることはやりたいの!」
話は平行線。
明龍は花琳と良蘭の言い争いにおろおろするだけだ。
「明龍も何か言って!」
この状況を打破したいと花琳が明龍に話を振るも、他人事のように話を聞いていた彼は突然のことに慌てふためく。
「えぇ!? えっと、僕にそんな、いきなり振られても……困るというか……」
「もう、ハッキリしないわね! 明龍的にはどう思うかって聞いてるの!」
「えーっと……そりゃ、市井の反応を聞いたほうがいいとは思いますよ? 色々と有益な意見や情報も聞けるでしょうし。けど、最近は仲考さまも何やら策謀されてるご様子ですから、気をつけるに越したことはないかとも思います」
結局、どっちつかずの言葉に振り出しに戻る。
花琳と良蘭はお互いずっと見つめ合って膠着状態だったが、先に折れたのは良蘭だった。
「あぁ、もう……わかりましたよ! 昼の間にだけですからね」
「ありがとう、良蘭愛してる!」
「もう、調子がいいんですから。絶対に危険なことはなさらないでくださいよ。何かあったら……」
「わかってるわかってる。何かあればすぐに逃げるから」
「絶対の絶対のぜーったいの約束ですからね!?」
良蘭から許可を取り、早速支度を始める。
前回はちょっといい布地で行ってしまったがために変な輩に絡まれてしまったが、今回はちゃんと学習して安物の布地で服を作っておいてあった。
「これでよーし!」
「もう、そういうときばかり用意周到なんですから」
「やる気に満ち溢れているのはいいことでしょう? 王の鑑じゃない?」
「そうですよ。だからこそ、気をつけないといけないのです。国民は民のための王を必要としてますが、上層部は自分達の利になる王を求めているのですから」
軽口を言ったはずが、真剣な眼差しで見つめられる。
まさかそんな返しが来るとは思わず調子が狂った。
「わかったから、そんなに圧力かけないでよ」
「こうでもしないと花琳さまの自覚が薄いので」
「悪かったわよ。とにかく行ってくるから留守を頼んだわ」
「承知しました。明龍、くれぐれも……」
「重々承知してますよ。この身に代えてでもお守りします」
「よろしい。では、いってらっしゃいませ」
良蘭に見送られて市井に下る。
思いのほか行くまでに時間はかかってしまったが、短時間で用は済ませる予定だからきっと大丈夫だろうと花琳は思いつつ、効率的に動けるように事前にある程度今後の動きを想定しておくことにした。
「どうします?」
「手短に済ませたいから女将さんのとこに行って主要な情報だけ聞くことにするわ。あまり長居しても良蘭が言うように危険だろうし」
「承知しました」
◇
「あら、久しぶりだねぇ。元気にしてた?」
「はい。おかげさまで」
「そういえば、見た? 秋王さま! 久々にお顔を見たけど、病気が治ったのかえらく美丈夫になったと思わないかい? 私があともうちょい若ければ雪梅さまの代わりになったかもしれないのに」
「はははは、カッコいいデスヨネー」
まさかあれが自分だなんて言えずに花琳は笑って誤魔化す。
城では容姿について特に言及されたことなどないので、一般的に見てカッコよく見えるのかとちょっと意外に思いつつも、好印象なのはよかったとホッと胸を撫で下ろした。
「今日お嬢ちゃんが来た理由当てようか?」
「え、わかります?」
「意見箱のことだろ? さすがにわかるさ」
女将はそう言うと最近の意見箱に関する情報を集めておいてくれたようで、色々と聞かせてくれる。
やはり地方によっては不正を働いている地域があるようで、そこでは火種が燻っているとのことだった。
その特定の地域などの名などを確認して手早く書き記しておく。
「さすが女将さん、頼りになります!」
「うふふふ、もっと褒めておくれ! でも、こうして意見箱とかやってくれたのはよかったと思うよ。この辺の治安もだいぶよくなって来たしねぇ。そうそう、この前来たときも一斉に違法賭博が摘発されてね、おかげで商売の邪魔だった人達も一掃されたのよ」
「そうなんだ! 父ちゃんにもそのこと伝えておくよ!!」
女将から褒められ、ニヤケそうになるのを噛み締める花琳。
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