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第二十八話 猫被り
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「ということで、討伐してきました!」
「おぉ、まさか、本当に討伐してくださるとは……! さすが聖女様! どうもありがとうございます!! 村を代表してお礼申し上げます!!」
「なんとお礼を申し上げたらよいか! 本当に本当にどうもありがとうございます!!」
「いえいえ、お気になさらないでください。私は使命を果たしただけですから」
先程グリフォンを脅したときとは打って変わって愛想のよい笑顔で応対する。猫かぶりなら誰にも負けない自信があった。
背後から訝しむ視線を感じるが、あえてスルーする。
ちなみに、グリフォンは村の近くまで乗りつけたあと村人達を怖がらせないようにきちんと手の平サイズに縮小してもらっている。
このサイズだと持ち運びも便利なのと魔力も最小限に抑えていられるため、ヴィルが目立たぬようにポケットに忍ばせていた。
「なぁなぁ、さっきまでの態度とは大違いだとは思わぬか? ワシに対してあんなに悪意に満ちた笑みを浮かべて従うか死ぬかの選択を迫る脅迫をしていたというのに」
「あー、あまりそういうこと言わないほうがいいぞ。シオンは地獄耳だから」
パチンッ!
「熱っ!」
「ギャア!!」
「どうかされましたか!?」
「いえ、お気になさらず。恐らく静電気か何かが起きたのでしょう」
二人の悲鳴に村長が慌てるのを、にっこりと屈託ない笑みで鎮める。
背後から恨めしげな視線を二人分感じるが、くるっと振り返り「ねぇ?」と微笑めば、二人とも静かにぶんぶんと首を縦に振った。
「よかったな、ジュン。これで生け贄にされずに済むぞ!」
「えぇ、そうですね! これも全て聖女様のおかげです。本当にどうもありがとうございます!」
ジュンがはらはらと涙を流して歓喜している。
あぁ、泣いてる喜ぶ姿も素敵。美しい涙……とても絵になる光景だわ。ふふふ、これできっとジュンさんは私のことを……!
と思ったときだった。
「さぁ、早速ピュアに伝えてきておくれ。部屋で吉報を待っているだろうから」
「ありがとうございます、お義父さん! では、早速行ってきます!」
ジュンは最初に会ったときとは別人かと思うほど鬱々とした表情から一転、パッと顔を明るくさせると走ってこの家の奥に向かった。
取り残された私は、事実を確認するために村長を見つめる。
「あ、あのう。ピュアというのはどなたでしょうか? それと、村長がお義父さんとは?」
「あぁ、ピュアというのは我が娘です。実は、最初の生け贄の候補は我が娘ピュアだったのですが、婚約者であるジュンが自分が代わりになると申し出てくれましてな。誠に心優しき青年でして。自らを犠牲にしてまで我が娘を守ろうとしてくれまして」
「そ、そうなんですか。婚約者の代わりに……」
「えぇ、それからはお互い好き合っているものの、会うのはつらいと顔を合わせぬよう部屋に籠る日々を過ごしておりまして。ですが、聖女様のおかげで無事に二人は結婚することができます! 諦めていた二人の幸せな晴れ姿が見れるなんて、本当にありがとうございます!!」
「いえいえ、ドウイタシマシテ」
笑顔が張り付く。
遠くから、歓喜の声と「愛してる!」「私もよ!」というドラマチックな声が聞こえ、そんな私を慰めるように「まぁ、ドンマイ」とヴィルに肩を叩かれ、私はひっそりと心の中で涙を流すのだった。
「おぉ、まさか、本当に討伐してくださるとは……! さすが聖女様! どうもありがとうございます!! 村を代表してお礼申し上げます!!」
「なんとお礼を申し上げたらよいか! 本当に本当にどうもありがとうございます!!」
「いえいえ、お気になさらないでください。私は使命を果たしただけですから」
先程グリフォンを脅したときとは打って変わって愛想のよい笑顔で応対する。猫かぶりなら誰にも負けない自信があった。
背後から訝しむ視線を感じるが、あえてスルーする。
ちなみに、グリフォンは村の近くまで乗りつけたあと村人達を怖がらせないようにきちんと手の平サイズに縮小してもらっている。
このサイズだと持ち運びも便利なのと魔力も最小限に抑えていられるため、ヴィルが目立たぬようにポケットに忍ばせていた。
「なぁなぁ、さっきまでの態度とは大違いだとは思わぬか? ワシに対してあんなに悪意に満ちた笑みを浮かべて従うか死ぬかの選択を迫る脅迫をしていたというのに」
「あー、あまりそういうこと言わないほうがいいぞ。シオンは地獄耳だから」
パチンッ!
「熱っ!」
「ギャア!!」
「どうかされましたか!?」
「いえ、お気になさらず。恐らく静電気か何かが起きたのでしょう」
二人の悲鳴に村長が慌てるのを、にっこりと屈託ない笑みで鎮める。
背後から恨めしげな視線を二人分感じるが、くるっと振り返り「ねぇ?」と微笑めば、二人とも静かにぶんぶんと首を縦に振った。
「よかったな、ジュン。これで生け贄にされずに済むぞ!」
「えぇ、そうですね! これも全て聖女様のおかげです。本当にどうもありがとうございます!」
ジュンがはらはらと涙を流して歓喜している。
あぁ、泣いてる喜ぶ姿も素敵。美しい涙……とても絵になる光景だわ。ふふふ、これできっとジュンさんは私のことを……!
と思ったときだった。
「さぁ、早速ピュアに伝えてきておくれ。部屋で吉報を待っているだろうから」
「ありがとうございます、お義父さん! では、早速行ってきます!」
ジュンは最初に会ったときとは別人かと思うほど鬱々とした表情から一転、パッと顔を明るくさせると走ってこの家の奥に向かった。
取り残された私は、事実を確認するために村長を見つめる。
「あ、あのう。ピュアというのはどなたでしょうか? それと、村長がお義父さんとは?」
「あぁ、ピュアというのは我が娘です。実は、最初の生け贄の候補は我が娘ピュアだったのですが、婚約者であるジュンが自分が代わりになると申し出てくれましてな。誠に心優しき青年でして。自らを犠牲にしてまで我が娘を守ろうとしてくれまして」
「そ、そうなんですか。婚約者の代わりに……」
「えぇ、それからはお互い好き合っているものの、会うのはつらいと顔を合わせぬよう部屋に籠る日々を過ごしておりまして。ですが、聖女様のおかげで無事に二人は結婚することができます! 諦めていた二人の幸せな晴れ姿が見れるなんて、本当にありがとうございます!!」
「いえいえ、ドウイタシマシテ」
笑顔が張り付く。
遠くから、歓喜の声と「愛してる!」「私もよ!」というドラマチックな声が聞こえ、そんな私を慰めるように「まぁ、ドンマイ」とヴィルに肩を叩かれ、私はひっそりと心の中で涙を流すのだった。
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