ダメンズメーカー聖女 〜結婚したくて尽くしまくってたら最強の聖女になっちゃいました〜

鳥柄ささみ

文字の大きさ
74 / 95

第七十四話 チート

しおりを挟む
 やけにヴィルが弱気だ。
 やる気になってくれたのはいいことだけど、その分自分の力量が気になるらしい。

 まぁ、そういう時期って誰しもあるよね。
 誰だって自分のせいで戦況が悪くなるのって嫌だし。

 とはいえ、このメンタルで行ったら勝てるもんも勝てないし、どうしたものか。

 下手なことを言って気負わせてもダメだし、かと言って期待してないみたいなのもメンタルやられるし。

 元ギルマスとしてメンバーを鼓舞するためにはどうするかと頭を悩ませる。ここは元ギルマスとしての腕の見せ所であった。

「ヴィルはさ、何が得意?」
「何だ、突然」
「いや、ヴィルの武器を知っておこうと思って」
「オレの武器?」
「ほら、ここだけは自信ある的なもの」

 私が聞くと、ヴィルが顎に手をやりながら考える。パッと出ないということは、きっとそれくらい真剣に考えているということだろう。

「そうだなぁ。シオンの前で言うのもあれだが、火の魔法だろうか」
「なるほど、火の魔法ね。うんうん、いいと思う。じゃあ、それを伸ばそうか」
「うん?」
「全部の魔法を使えなくてもいいから、火の魔法だけしっかり強化していこうってこと。誰にも負けないって自負できるものがあると、心の支えになるから。ほら、いざというときに何かあったほうがいいでしょ?」
「そういうもんなのか?」
「そうそう、そういうもの。ちなみに、私は誰にも負けない魔力量が武器ね。だからやられてもやられても死ななきゃ永遠に回復して挑めるのが強み」
「それチートだよな」

 ヴィルが呆れたように笑う。どうやらいつものヴィルに戻ってきたらしい。

「チート上等よ。使えるもんは使わないと損でしょ。そういう意味ではヴィルもチート持ってるじゃない」
「オレが?」
「そうそう。ほら、顔と地位。魔物には通用しないかもしれないけど、人間相手ならイチコロでしょ」

 私が言うと途端に嫌そうな顔をするヴィル。……何か変なことを言っただろうか。

「顔も地位も使えるなら意味があるけどな。使っても通用しないヤツもいるから意味ない」
「え、そんな人いるの? ヴィルの顔と地位を使っても意味がない相手がいるなんて……」

 ヴィルの存在が通用しない相手がいることに驚く。
 ヴィルみたいにイケメンで地位もあったら最強だろうに。王子なんて確実に次期王様になるわけだし、しかもこんなにイケメンだったら子供も絶対美人かイケメンだろうし。お金もあるし、私ほどではないにしてもレベルもそこそこ上がってきて戦闘もできるようになってきたのに、そんなヴィルが通用しない人なんているのだろうか。

「あぁ。オレのことはタイプではないらしいし、オレのチートなんてそいつの前ではかたなしだ」
「へぇ。奇特な人もいるもんだ」

 一体どんな人なんだろうか。気になる。

「ねぇねぇ、それって身近な人?」
「あぁ、そうだな」
「もしかして、気になってる人とか?」
「そうとも言えるかもな」
「ふぅん。ヴィルにもそんな人がいるのね」

 そういえば以前、恋愛相談をしたときに身近にそういう話をする人がいたと言っていたのを思い出す。

 なるほど、その人か。

 恋愛もたくさん経験してると言っていたし、ヴィルの身近にいた人ならそういう部分が通用しないのも納得できた。

 ズキン

 急に胸が痛くなる。
 咄嗟にパチンと指を鳴らして回復すると痛みはなくなったが、何だかモヤモヤしたままだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

前世を越えてみせましょう

あんど もあ
ファンタジー
私には前世で殺された記憶がある。異世界転生し、前世とはまるで違う貴族令嬢として生きて来たのだが、前世を彷彿とさせる状況を見た私は……。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...