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5章【外交編・モットー国】
21 ステップ
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「〈お主の連れはだいぶ体調が良くなったようじゃな〉」
ある昼下がり、昼食の支度をしていると師匠からヒューベルトに関しての報告があった。
私は指名手配中であるため、慣れない土地で外出するのは危険だと、師匠から自粛するように言われていたので、市街地にある病院に運ばれているヒューベルトと会うのは禁じられていた。
そのため、その朗報はとても嬉しいものだった。
「〈それは良かった!てことは、そろそろ出立の準備をしなくてはね〉」
「〈あぁ、そうじゃな。……寂しくなるのう〉」
「〈師匠……〉」
「〈はは、冗談じゃよ。姦しいのがいなくなってせいせいするわ。老いぼれはゆっくりと余生を楽しむとするかの〉」
冗談だと言いながらも、寂しそうな雰囲気は隠せていない師匠。
なんだかんだここに2週間くらいは滞在しているから我ながら多少は馴染んだと思うし、そもそも私はともかく、メリッサもいなくなると思うとやはり寂しいのだろう。
(独りぼっちって、きっと寂しいわよね)
なんだかんだ、私は独りぼっちになったことがなかった。
ペンテレアにいたときはもちろん、あの帝国の手から逃れるために自国脱出後もマシュ族の人達と一緒にいたし、それから旧領主のときも迫害されていたとはいえ、同じ連れ去りにあった子たちとそれなりには接していた。
その後のクエリーシェルと出会ってからは言わずもがなだ。彼と常に一緒だったし、ここに来るまでの道中も誰かしらがいてくれる環境だった。
そう考えると、私は紆余曲折、波乱万丈な人生ではあるものの恵まれているのだと思う。
「〈ねぇ、せっかくだしお客の私が言うのもなんだけど、出発パーティーしましょうよ〉」
「〈パーティー?〉」
「〈旅路の無事を祝って。どう?〉」
「〈そうじゃな……。メリッサには初めてのパーティーになるだろうし、喜ぶかものう〉」
「〈なら、決まり!用意するものリストアップするから買ってきてもらえる?〉」
「〈全く、人遣いの荒い娘じゃ〉」
軽口を叩きながらもどこか嬉しそうな師匠。少しでも寂しい気持ちが紛れてくれたらいいな、と思いながら、さてパーティーでは何をしようと色々と思案し始めるのだった。
◇
「〈パーティー?〉」
「〈えぇ、メリッサは初めてだと聞いて。せっかくだし、無事にブライエに行くための祈願ということでやろうと思ってるんだけど〉」
善は急げとパーティーの話をすると、メリッサは聴き慣れない言葉に目を丸くしていた。
「〈パーティーってどんなことするの?〉」
「〈そうね……。美味しいもの食べたり、ダンスをしたり、かしら?〉」
「〈美味しいもの、ダンス……〉」
本当はもっと違うイメージはあるだろうが、私のイメージは主にそれだ。美味しいものが食べられて、ダンスを踊れる素敵な日。社交界や遊びももちろん大事だろうが、この2つは私にとって欠かせないものだった。
「〈美味しいもの食べたい〉」
「〈ふふ、よかった!せっかくだし、食材や調味料によっては各地の美味しい料理をご馳走するわ!〉」
「〈嬉しい。食べるの大好き〉」
嬉しい、と言いつつもどこかちょっぴりもじもじしているメリッサ。何かあるのだろうか?
「〈メリッサ?何か他にしたいこととかあるなら聞くわよ?〉」
「〈何かやりたいとかあるわけじゃなくて。あの……〉」
「〈ん……?何か言いたいことがあったら聞くわよ?〉」
「〈……ダンスってどうすればいいかわからない〉」
(そうか、メリッサはダンスすらも知らないのか)
彼女の生い立ちを失念していたことに気づいた。メリッサは傷ついてはいないようだが、彼女のことを慮れなかった自分を内心叱咤しながら、説明をする。
「〈そうね、ダンスの説明をしなかったわね。ごめんなさい。では、せっかくですし、当日までに練習するのはどう?〉」
「〈練習?〉」
「〈そう。手を貸して、私がリードするからゆっくりとついてきてごらん〉」
そう言って手を引いて、メリッサを小屋の外へと連れ出す。
「〈ダンスは色々なダンスがあるんだけど、とりあえず大体ステップが大事だからステップを覚えましょう〉」
「〈ステップ?〉」
「〈えぇ。1、2、3、1、2、3……ってリズムに合わせて脚を動かすの。まずは私がやってみるわ〉」
手を叩き、リズムを取りながらステップを踏む。まずは簡単なステップから始めると、途端にメリッサの目がキラキラと輝いた。
「〈どう?〉」
「〈面白そう!〉」
「〈じゃあ、まずはやってみましょう。見てるよりも身体で覚えたほうが早いわ〉」
そう言ってメリッサの隣に立って、ゆっくりとリズムを取りながらステップを踏む。それを真似し、嬉々として「〈できた!〉」と笑う彼女を可愛らしく思いながら、ダンスの練習を始めるのだった。
ある昼下がり、昼食の支度をしていると師匠からヒューベルトに関しての報告があった。
私は指名手配中であるため、慣れない土地で外出するのは危険だと、師匠から自粛するように言われていたので、市街地にある病院に運ばれているヒューベルトと会うのは禁じられていた。
そのため、その朗報はとても嬉しいものだった。
「〈それは良かった!てことは、そろそろ出立の準備をしなくてはね〉」
「〈あぁ、そうじゃな。……寂しくなるのう〉」
「〈師匠……〉」
「〈はは、冗談じゃよ。姦しいのがいなくなってせいせいするわ。老いぼれはゆっくりと余生を楽しむとするかの〉」
冗談だと言いながらも、寂しそうな雰囲気は隠せていない師匠。
なんだかんだここに2週間くらいは滞在しているから我ながら多少は馴染んだと思うし、そもそも私はともかく、メリッサもいなくなると思うとやはり寂しいのだろう。
(独りぼっちって、きっと寂しいわよね)
なんだかんだ、私は独りぼっちになったことがなかった。
ペンテレアにいたときはもちろん、あの帝国の手から逃れるために自国脱出後もマシュ族の人達と一緒にいたし、それから旧領主のときも迫害されていたとはいえ、同じ連れ去りにあった子たちとそれなりには接していた。
その後のクエリーシェルと出会ってからは言わずもがなだ。彼と常に一緒だったし、ここに来るまでの道中も誰かしらがいてくれる環境だった。
そう考えると、私は紆余曲折、波乱万丈な人生ではあるものの恵まれているのだと思う。
「〈ねぇ、せっかくだしお客の私が言うのもなんだけど、出発パーティーしましょうよ〉」
「〈パーティー?〉」
「〈旅路の無事を祝って。どう?〉」
「〈そうじゃな……。メリッサには初めてのパーティーになるだろうし、喜ぶかものう〉」
「〈なら、決まり!用意するものリストアップするから買ってきてもらえる?〉」
「〈全く、人遣いの荒い娘じゃ〉」
軽口を叩きながらもどこか嬉しそうな師匠。少しでも寂しい気持ちが紛れてくれたらいいな、と思いながら、さてパーティーでは何をしようと色々と思案し始めるのだった。
◇
「〈パーティー?〉」
「〈えぇ、メリッサは初めてだと聞いて。せっかくだし、無事にブライエに行くための祈願ということでやろうと思ってるんだけど〉」
善は急げとパーティーの話をすると、メリッサは聴き慣れない言葉に目を丸くしていた。
「〈パーティーってどんなことするの?〉」
「〈そうね……。美味しいもの食べたり、ダンスをしたり、かしら?〉」
「〈美味しいもの、ダンス……〉」
本当はもっと違うイメージはあるだろうが、私のイメージは主にそれだ。美味しいものが食べられて、ダンスを踊れる素敵な日。社交界や遊びももちろん大事だろうが、この2つは私にとって欠かせないものだった。
「〈美味しいもの食べたい〉」
「〈ふふ、よかった!せっかくだし、食材や調味料によっては各地の美味しい料理をご馳走するわ!〉」
「〈嬉しい。食べるの大好き〉」
嬉しい、と言いつつもどこかちょっぴりもじもじしているメリッサ。何かあるのだろうか?
「〈メリッサ?何か他にしたいこととかあるなら聞くわよ?〉」
「〈何かやりたいとかあるわけじゃなくて。あの……〉」
「〈ん……?何か言いたいことがあったら聞くわよ?〉」
「〈……ダンスってどうすればいいかわからない〉」
(そうか、メリッサはダンスすらも知らないのか)
彼女の生い立ちを失念していたことに気づいた。メリッサは傷ついてはいないようだが、彼女のことを慮れなかった自分を内心叱咤しながら、説明をする。
「〈そうね、ダンスの説明をしなかったわね。ごめんなさい。では、せっかくですし、当日までに練習するのはどう?〉」
「〈練習?〉」
「〈そう。手を貸して、私がリードするからゆっくりとついてきてごらん〉」
そう言って手を引いて、メリッサを小屋の外へと連れ出す。
「〈ダンスは色々なダンスがあるんだけど、とりあえず大体ステップが大事だからステップを覚えましょう〉」
「〈ステップ?〉」
「〈えぇ。1、2、3、1、2、3……ってリズムに合わせて脚を動かすの。まずは私がやってみるわ〉」
手を叩き、リズムを取りながらステップを踏む。まずは簡単なステップから始めると、途端にメリッサの目がキラキラと輝いた。
「〈どう?〉」
「〈面白そう!〉」
「〈じゃあ、まずはやってみましょう。見てるよりも身体で覚えたほうが早いわ〉」
そう言ってメリッサの隣に立って、ゆっくりとリズムを取りながらステップを踏む。それを真似し、嬉々として「〈できた!〉」と笑う彼女を可愛らしく思いながら、ダンスの練習を始めるのだった。
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