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6章【外交編・ブライエ国】

31 仕掛けられた罠

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「キスします」
「はぁ!?」
「さすがリーシェさん、話がわかる」
「何を言っているかわかっているのか!?」
「わかってますよ。でも、こんなとこで命を落とすわけにもいかないですし、そもそもここで取り逃しても困ります。であれば、協力してもらうほかにないかと」
「だが……っ!!」
「おやおや、外野は黙ってていただけますか?そう決めたのなら、早速していただきましょうか。もちろん、リーシェさんから」
「リーシェからだと!?」

クエリーシェルが今にも爆発しそうになっているのはわかっていた。だが、背に腹はかえられない。リスクは避けたいし、今もこうして時間をロスしていることで、シオン達に負担をかけているのは間違いないだろう。

「ケリー様は見ないでください」
「だそうですよ?」
「くっ……!」

苦悶の表情をしながらクエリーシェルが背を向ける。私は申し訳なさでいっぱいになりながら、ギルデルに近づく。

「かがんだほうがよいですか?」
「そのままでいいです」

そうして、目を閉じるギルデルの服を掴むと背伸びをして自らの唇で彼の唇に触れる。そして、すぐに離れたのだが。

「んんんん……っ!んぅ……っ」

し終えたと思った瞬間に身体を抱え込まれたと思えば、そのまま再び口づけられる。まさかそんなことされると思っていなかった私は目を白黒とさせて抵抗した。

「貴様……っ!」

異変に気づいたらしいクエリーシェルがすぐさま私とギルデルを引き剥がす。そのまま彼がギルデルを殴りそうになるのを慌てて腕に捕まって止めた。

「リーシェ!」
「ダメです!ここで殴ったら意味がなくなってしまいます」
「くそっ!」
「懸命な判断ですね。では、参りましょうか。こちらです」

クエリーシェルが怒りでわなわなと震えているのをスルーしてギルデルはさっさと行ってしまう。

「ケリー様」
「……あとで、言いたいことがある。いいな?」
「わかってます。でも、とりあえず今は……」
「わかっている」

クエリーシェルの表情がなくなる。ゾッとするような殺気。その殺気を纏いながらギルデルのあとへと続く。そして私もクエリーシェルの殺気に怖気づきながらもそのあとを追いかけるのだった。







「よくもここまで罠を仕掛けたな……」

クエリーシェルが呆れるような声を溢す。実際に落とし穴から、毒矢が飛んできたり手を入れたら蛇が噛み付いてきたりと今まで見たこともないような罠の数々に驚いた。

(モットー国攻略は一筋縄じゃいかなそうね)

これは恐らく現国王のローグがやったのだろう。師匠がこんなことをするはずがない。まさか帝国と手を結んでいたのはこういうのも込みであったと思うと合点がいく。

不慣れな状態でこの中まで侵入し攻撃するのは至難のわざだ。きっとジャンスでこの規模なら、王城などもっと複雑怪奇なことになっていることだろう。

「ギルデル。ここの隊長のとこにはもうすぐ着くの?」
「さぁ、それはどうでしょう。彼もまた彼で移動してるでしょうから」
「貴様、謀ったらすぐさまその首叩き斬るぞ!」

ピリピリとしているクエリーシェルがすぐさま反応する。こんなに苛立っているクエリーシェルを見るのは貴重ではあるが、あまり心臓によくない。

「おぉ、怖い怖い。そんな無駄なことはしませんよ。ボクはあくまで導く者。リーシェさんがこの世界をどう変えるのかを見届けたいと思いまして」
「なんだと……?」
「リーシェさんか、皇帝か。この世界の行く末を握っているのがこの2人。それを間近で見られるだなんてこれほどのエンターテイメントはないと思いません?」
「貴様、リーシェの命をなんだと思っている!!」
「ケリー様」

剣に手をかけるクエリーシェル。だが、その手の上にすぐさま自分の手を重ねて、彼に思いとどまるように見つめた。

「ケリー様。ここで憤っても仕方ありません。とにかく先へと進みましょう。恐らくここまで入り組んでいるということは色々と隠しているものもあるはずです」
「さすがリーシェさん。ご明察。ここの拠点には各拠点のついての詳細録があります。きっと彼らはその資料を集めて逃げようとしているとは思いますが」
「燃やしたり破棄したりはしないの?」
「さすがにそこまで愚かではないかと。唯一無二のものですし、彼らはそれがなければここを出ることすら叶わないでしょうから」
「ならなぜ貴様はそれを見ずに進めている?」
「それはもちろん、彼らと頭の出来が違いますから」

そう言って微笑むギルデル。実際今まで何の罠にも掛かることなく来れているのは彼のおかげだ。

キスという代償は負ったが、このように案内してくれるところを見ると、動機はどうであれ我々に協力する気持ちはあることがわかる。

(使える手駒は使う)

帝国との格差が大きいぶん、我々は知恵と数で攻略せねばならない。そのためには例え信用できない相手だとしても利用できるものはするのが私の出した答えだ。

「さて、いよいよ迷宮も佳境です。ボクもそろそろ体力がキツいので、ささっと進んでしまいましょうか」

行く先に灯りが見える。私はギュッと棍を握ると彼のあとをついていった。
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