願い叶えたまえ

鳥柄ささみ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

願い叶えたまえ

しおりを挟む
4年に1度降ってくるという「願い叶えたまえ」

それを手に入れると、手にしたものの願いが1つだけ叶うらしい。誰が言い出したかは知らない。でも、この街ではそんな噂がまことしやかにささやかれていた。……のだが。

「いったたたたた……っ」
「もぅ、相変わらずおっちょこちょいなんだからぁ」
「ネガイ姉ちゃんはいい加減受け身を覚えたほうがよくなーい?」

目の前に落ちてきた3人の娘。空が鈍く光ったと思って見上げたのも束の間、気づいたら目の前に落下していた。

あと少しズレていたら自分の上に落ちていたかもしれないと思うと、冷や汗が一気に噴き出す。心臓が口から飛び出そうなほどバクバクと早鐘を打ち、脚がカクカクと笑っていた。

まさか自分が奇跡体験をするなんて、と思いながら、段々と冷静になっていく頭で考える。

まずは状況を確認しよう。

僕は塾帰り、1人で帰宅しようとしていた。空が鈍く光って、あれ?って思ったら目の前に3人の女の子が落っこちてきた。

うん、理解できない。我ながら理解できない。

(勉強のしすぎで妄想でもしているのか?それとも実は白昼夢?)

思いっきり自らの両頬を引っ張るが痛い。頬を両手でぺちんと引っ叩けば、痛い。……やはり、現実なのだろうか。

「あのぅ、今年の当選者はキミですかぁ?」
「は?」

いつの間にかこちらを見つめている3人。

大中小、大きい子から小さい子に連れて髪の長さが短く、また胸の大きさも身長に合わせて相応の大きさ、顔は……とても似ている気がするが、それぞれ個性豊かな女の子のようで表情が違う。

(って言うか、当選者?)

「あの、あのーぅ、大丈夫ですぅ?」

真ん中の少女が不安げにこちらを見ている。ふと視線をズラすと、隣の小さい子は呆れた表情をしていた。

「生きてるんだから大丈夫でしょー。てかさー、聞いてるんだからさっさと答えたらー?」
「あ、す、すみません。だ、大丈夫です……!てか、そちらの女性大丈夫ですか?」
「あー……、ネガイ姉ちゃんー!いい加減起きなさい、っよ!」

ネガイ姉ちゃんと呼ばれた女性は身体が半分地面に埋まってたものの、グイッと小さな少女が引っ張るとボコっと聞いたことない音と共に引き上げられた。

「ったー!痛かったー!死ぬかと思ったわー!!」
「だから、受け身あれだけ覚えろって言ったじゃーん」
「そう言うならそもそもたまえ・・・が先出ればいいでしょ」
「嫌だよー。下敷きになりたくないしー」
「何だとー!?」
「もう、2人共ぉ。当選者さんの前ですよぉ?」

(当選者ってなんだ。てか、この達は何なんだ)

「そだった、そだった。で、当選者さん。キミの願いは何?」
「ね、願い……!?きゅ、急に言われても……っ」
「え、願いないのに呼ばれちゃったんですかぁ?」
「もしかして、ネガイ姉ちゃんが照準間違えたとかじゃないのー?」
「違うし!私はちゃんと願いを探知してきたわよ!」
「もぅもぅ、喧嘩はやめてよぉ」

再び争い始める2人とおろおろする1人。一体なんなんだ。

「えっと、そもそも君たちは何なの?」
「え、私達を知らないの……?」
「まっさかー!」
「……は、はは……」
「……え、っとぉ。そのお顔から察するにぃ、本当に知らなそうですねぇ……」
「「マジか!?」」
「マジです……」

正直に思い当たるフシがないことを告げると、みんな同じ顔でドン引きしてる表情をしている。身長も雰囲気も違うのに、そこだけはそっくりすぎてなんだか居た堪れない。

「えー!!願い叶えたまえ知らないの!?」
「き、聞いたことはありますけど……」
「4年に1度の大チャンスですよぉ」
「あ、それも聞いたことが……」
「じゃー、何がわからないっていうのさー」
「えっと、もしかしてもしかするとキミ達が『願い叶えたまえ』ってこと……?」

まさかぁ、と思いながら尋ねれば「そうだけど」とあっさり答えられる。

「え!?は、はぁあああ!?」
「ちょ、急に大きな声出さないでよ!」
「びっくりするじゃーん!」

い、意味がわからない。「願い叶えたまえ」って何か隕石か物体かと思ったら女の子ー!??

「ちなみにぃ、こちらの長女が『ネガイ』私が「かなえ」、こっちの妹が『たまえ』ですぅ」
「あ、どうも。僕は街煮まちにキタです」
「で、願いは?」
「だから急に言われても……っ!」

ずいずいと長女だというネガイさんが距離を詰めてくる。こ、恐い……。

「あのぅ、私達は願いがある人のところに来ることになっててぇ……。何かさっき願いませんでしたぁ?」
「願い……?」

言われても逡巡して思い出す。そういえば、確かに願いをした。

「お、思い出しましたけど。もう叶いました」
「はぁー!?どういうこと!??」
「いや、えっと……僕の願いは誰かと話すことだったので……。僕、この街に越してきたばかりで友人も1人もいなくて……話す人も家族以外いなくて……」

そう、僕は1か月前にこの街に引っ越してきたばかりの人間だった。根っからの人見知りで友人がおらず、いつも1人でいたのだ。だから、つい塾帰りに「誰かと話したいなぁ……」とそんなことを思ったのだが。

「もっと、しゃきっとしろ」
「え?」
「背筋!ピシッと、胸張って」
「は、はい……っ」
「声はもうちょい張って。小さな声でボソボソと喋らない!」
「は、はい!」

急にネガイさんからビシビシと指示が飛ぶ。僕は訳もわからず、言われるがままに従う。

「挨拶大事!勇気を出して自分から声をかける!」
「は、で、でも……っ」
「でも、じゃない!」
「は、はい……っ!!」

それから、顔を上げろ、前髪切れ、洗顔しろ、ワックス使え、と指摘される。

「いい?変えられるのはまず自分。何でも自分から変えていかなくちゃ、周りは変わらないのよ?わかった!?」
「はい!」
「意識をまず後ろ向きではなく、前向きに変えなさい!常に前!後ろは見ない!!」
「はい!」
「相変わらずネガイ姉ちゃんはスパルタだなー。でも姉ちゃん言ってるのは正しいから、がんばー!」
「そうですよぅ。人間は何でも意識が大事ですからねぇ」
「はい!」

ネガイは言うだけ言うと、「頑張りなさいよ、街煮!じゃあね!!」と一瞬で打ち上げ花火のように3人まとめて空高く飛んでいく。

本当にあっという間の出来事で、僕はやっぱり白昼夢を見ているのかと思った。だが、いつもよりちょっとだけ、「前向きになろう」と思ったのは白昼夢のおかげだろうか。

俯き気味だった首の位置をしっかりと前に向ける。前髪をかきあげると、視界はとても明るくハッキリと見えるようになった。

「ありがとう、ネガイかなえたまえ」




ーー数日後、星野ネガイが転校してくるのはまた別の話である。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...