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第五十五話 自分の気持ち

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「とにかく、これで誤解は解けただろうか」
「え? えぇ、理由はわかったわ」
「なら、僕とお付き合いしてくれるかい?」
「え、と……それは……」
「あぁ、もしミナが僕の婚約者だと触れ回っていることが気に食わないなら、僕がきちんと彼女自身に訂正させるから大丈夫だ。心配はいらない。それにいつでも僕が近くにいたほうがきっとキミを守れると思う。いや、今後はずっと僕にクラリスを守らせて欲しい」

 再びまっすぐ見つめてくる瞳は真剣そのもので、この告白が冗談などでないことはすぐにわかった。

 だからこそ、戸惑う。

 エディオンはとても優しくて気遣いができるいい人だとは思う。

 ネックがあるとしたら、彼が王子であり、そのせいで前世のことがフラッシュバックしてしまうことくらいだ。
 だから彼が悪いわけではなく、あくまで自分の気持ちの問題である。

 とはいえ、やはりすぐにそのトラウマを払拭できるほどのメンタルを持ち合わせているわけでもなく、あまり積極的な人が得意ではないというのもあって、すぐさま「はい、喜んで!」とはどうしても言えなかった。

「ご、ごめんなさい。お付き合いはちょっと、今は考えられない、かな? ほら、まだ入学して間もないし、それにまだエディオンのことも私、よく知らないし……」

 我ながら非常に無難な答えをしたつもりである。

 実際、まだエディオンのことをよく知らないのは事実だ。

 イケメンで明るくて積極的、第三王子で水の寮生で同い年。
 私が知っている情報はそれくらいだ。

 それにエディオン自身もきっと私のことをよく知らないだろう。
 以前にアイザックが言っていたように私が虫が平気なのを引かれる可能性だってあるし、性格だって素の私を見せたら思ってたのと違う、ということになるかもしれない。
 だからこそ、もっとお互いをよく知ったほうがいいと思った。

 のだが、あからさまにエディオンはショックを受けた顔をしている。

 今まで見たことないようなしょんぼりとした顔。
 さながら叱られた犬のような表情である。

 エディオンってこんな顔もするんだ、とちょっと自分の中では意外ではあったが、だからといってやはりすぐには頷けない。

「そうだよね。確かに、まだ入学して間もないし、僕の一方的な片想いだ。よし、じゃあ、お友達からのお付き合いというのはどうだろうか?」
「お友達、から?」
「あぁ。まずは友達からで、それで交流して僕のことをいいな、と思えるようになったら付き合ってほしい。それでいいだろうか?」

 ギュッと手を握られる。
 思いのほかその握る手は強く、大きい。

 線は細いようでやっぱりエディオンも男の人なんだなぁと思いながら、アイザックはこの手よりも大きかったなぁとなんとなく考える。
 そして、「何で私ったら今アイザックのこと考えてるのよ」と自分自身に心の中でツッコミを入れた。

「クラリス? どうだろうか、ダメかな?」

 子犬のような潤んだ瞳で見つめられて、さすがにこれ以上拒絶することは私にはできなかった。
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