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第九十一話 静寂

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「勝った、の……?」

 先程までの魔力の渦が嘘のように静まり返る。

 パッと顔を上げると、ちょうどアイザックもこちらを見ていたようで唇と唇が触れそうなくらいの至近距離に彼の顔があった。
 あまりの近さに思わず私はガバッと離れる。

「あ、アイザック、ありがとう、助けてくれて……こうして生きていられるのはアイザックのおかげよ」

 羞恥で顔が熱く、赤らんだ顔を手で隠しながらも感謝をする。
 実際、未だに生きていられるのはアイザックのおかげであった。

「あぁ、いや。今度こそクラリスを守れてよかった。大丈夫か? どこも怪我はないか?」
「えぇ、おかげさまで、どこもないわ。ありがとう」
「そうか、それならよかった」

 なぜか離れたはずなのに、アイザックに頬に触れられながら至近距離で見つめられる。
 まるで今からキスでもするかのような雰囲気に、不慣れな私は固まってしまった。

「あ、アイザック?」
「よかった。クラリスを守れて……」

 安堵の表情を浮かべながら優しく笑い、再び私を抱きしめてくるアイザック。

 その表情に胸を高鳴らせ、彼の力強い鼓動に安堵しながらも、「み、ミナは、さすがにもう大丈夫かしら?」とこの状況が居た堪れなくて話題を振った。

「さすがにもう彼女の魔力も残ってないはずだろう」
「そう、よね? あれだけ魔力を使ったわけだし、これ以上やったら命の危険もあるものね」

 ミナに視線を向けると、彼女は俯きながら立ち尽くしていた。
 先程まで纏っていたはずの魔力はなくなり、今なら彼女を拘束できそうである。

「今のうちに拘束しておこう」
「えぇ。ちょっと心苦しいけど、また攻撃されても大変だし」

 離れるのを名残惜しく感じながらも、お互いに身体を離してゆっくりと彼女に近づこうとしたときだった。

「私が……この私が、誰かに負けるだなんて。あれだけ頑張ったのに。ずっと頑張ってきたのに。お母様との計画もバレてしまった。それなのにどうすることもできないだなんて……」
「ミナ……?」

 再び不安定な言動を始めるミナ。

 だが、それは先程の錯乱しているような状態とは違って酷く怯えているようだった。

「あぁぁあ、もうダメだわ……! 二度も失敗したと知ったらお母様のところに戻れない。今度こそ捨てられてしまう! 私は、ブランシェット家から追放されてしまう……っ! そうしたら私に生きる意味なんてない。私なんて、この世にいちゃいけないんだわ!!」
「ちょっとミナ、何を言ってるの?」
「来ないで!! 私はもうこの世にいらない存在なの。役立たずの私はお母様にとって不用品。だから私はここで……っ!!」
「ミナ!? 何を……っ!」
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