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第百一話 意中の人

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「アイザック? どうしたの、こんな時間に」
「クラリスに話があってな。今いいだろうか?」
「えっと、今? いいけど……中で話す?」
「いや、さすがに女性の部屋に入るのは気が引ける。申し訳ないが、出てきてもらってもいいだろうか」

 言われて視線をマリアンヌに移すと、「いってらっしゃい」と手を振られる。
 私は既に寝間着のチュニック姿だったので、カーディガンを羽織って「じゃあ、行ってくるね」とマリアンヌに挨拶し、アイザックと一緒に寮を出た。

「えっと、どこに行くの?」
「そんなに遠くない。……冷えるか?」
「あぁ、うん。ちょっとだけね」

 季節は秋から冬に移り変わっていた。
 日中はまだ暖かいが、夜になるとひんやりとしていて肌寒い。
 すると、アイザックが私の腰に手を回して引き寄せる。

「暖かいか?」
「そ、そうかもしれないけど。でも魔法を使ったほうが早く暖まるんじゃ……」

 そう言うもアイザックは私の提案を華麗にスルーする。
 こうして密着するのはあの戦いのとき以来で、異性とくっつくというのは慣れていなくてドキドキした。

 そしてお目当ての場所に着いたのか、立ち止まるアイザック。

「ここだ」
「うわぁ、綺麗……」

 寮からさほど離れていない裏庭で、闇夜の中で月に照らされるように咲き誇った花々が煌々と輝いていた。

 どうやら夜にのみ輝きながら咲く花らしく、優しい光が花の奥から漏れていて、その上を妖精達が歌いながら舞い踊っている様子はとても幻想的だ。

「クラリスに見せたくてな」
「ありがとう。でも、よくこんな場所見つけたわね」
「あぁ、妖精達から聞いたんだ。意中の人と出歩くならここがよいと」

(うん? 今なんて言った?)

 自分にとって都合のいいような言葉が聞こえた気がしたが、聞く勇気がなくて聞き返さずにいると、腕を引かれて座るように促される。
 そのままアイザックの腕に包まれるようにすっぽりと抱かれながら、私はその場に腰を下ろした。

「えっと……アイザック、近くない?」
「嫌か?」
「……嫌じゃ、ないけど……」
「ならいいだろう?」

(いつになく強引だなぁ)

 エディオンに似てきたのだろうか、なんて思いつつも、こうして抱きしめられていることは気恥ずかしくも嬉しくてされるがまま。

 背中からアイザックの体温を感じて、この寒さの中ではちょうどよかった。
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