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第百九話 緊張

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「ようこそ、生徒諸君。今宵はホリデー前の特別な舞踏会です。まずは代表者の皆さん! よろしくお願いします!!」

 学園長の合図を皮切りに代表者が前に出る。

 私もアイザックにエスコートされながらメインホールに出ると、妖精達によって頭上から加護を降り注がれた。

 曲がかかると、アイザックにリードしてもらいながらゆっくりとステップを踏み始める。
 けれど、緊張で身体はガチガチで、まるで凍結魔法でもかけられたようなぎこちなさだ。

「緊張してるか?」
「えぇ、人前だし。それにやっぱりステップを間違えないか不安で」

 散々二人で寮内の空き部屋を使ってダンスの練習をしたのに、どうしても慣れてないせいかステップが上手く踏めない。
 アイザックがリードしてくれるものの、彼が恥ずかしい思いをしないようにとつい気負ってしまい、いつもミスしてばかりだった。
 今日も無駄に周りやアイザックを意識してしまって、思った通りに動けない。

「別に公式の舞踏会ではないのだから気にするな」
「そう? でも、みんなに見られるならやっぱりちゃんとしておきたいし。アイザックはどう? 緊張しないの?」
「俺か? 俺はあまり緊張するタイプではないからな。それに、俺としてはこうした舞台でクラリスと踊れることが嬉しい。新入生歓迎会のダンスはエディにペアを取られてしまったからな」

 まさかそのときのことを覚えているとは思わなかった。
 そして、「実はあのとき、私はアイザックに声をかけようとしてたのよ?」と言うと今度はアイザックが驚いた表情をする。

「そうだったのか?」
「えぇ。でも、エディオンに先に誘われてしまったからエディオンと一緒に踊ったけど……私のこと気にかけてくれてたの?」
「まぁな。出会いから印象的だったしな」
「それはもう忘れて」

 NMAに来て早々アイザックに抱きついたことを思い出し、恥ずかしくて俯くと「嫌だ」と耳元で囁かれた。
 その声があまりに色っぽくて、カッと頬が熱くなるのが自分でもわかる。

「照れているのか? 可愛いな」
「恥ずかしいからそれ以上言わないで」
「なぜだ? せっかくダンスを踊っているのだから、間近でクラリスのことを見ていたい」
「たまにアイザックって恥ずかしいことを臆面もなく言うわよね」
「そうか? 言いたいと思ったときに言ったほうがいいだろう? 俺としてもそのほうが嬉しい」
「ほら、そういうところ」

 素直すぎるのもどうなのか、と思いつつもアイザックが素直だからこそ好きなわけで。
 恥ずかしく思いつつも、アイザックによって色々な感情を知ることができて嬉しかった。

 彼と一緒にいることで今まで知らなかった感情が次々と生まれてくる。
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