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15 ジュリアス、助けて……!
「ブラン、貴方、ここへ何をしに来たの?」
カタカタと全身を震わせ、尻餅をつきながらも必死に後ろに下がるマリーリ。
ブランの目は据わり、ふらふらと足下は覚束ない。
だが、それでも確実にマリーリのほうへ一歩、また一歩と近づいていた。
「……何を? オレがわざわざ婚約者のところに来るのに、何か理由が必要なのか?」
「今は元、婚約者でしょう? そもそも、貴方にはキューリスがいるんじゃないの? なぜ私のところにくるの……っ!?」
「キューリス? はっ! あの女はとっくにオレから離れたさ! 資産もない伯爵家には用がないらしい!」
ガン! バキィィィ!!
「キャッ!!」
ブランが壊れた椅子を思いきり踏みつけ、椅子の脚が折れる。
その様を見て、マリーリは自分も危害を加えられるのではないかとさらにガタガタと震え上がった。
「だから、ほら、マリーリ……邪魔な存在はいなくなったんだ! わざわざオレのために苦手な刺繍を入れてくれたハンカチをくれたのだろう!?」
掲げて見せられたのは、あの日ブランのために持っていったハンカチだった。
いつの間にか失くしていたと思ったが、どうやらあの騒ぎのときにグシュダン家で落としたらしい。
「それは、そのとき婚約してたからで……今とは」
「だったら、オレともう一度婚約しよう!」
「そんな、何を言ってるの。正気? この話はお父様とグシュダン伯爵との間で一度終わった話よ」
「終わった? キミが終わらせたんだろう! マリーリ!!」
マリーリは手首を掴まれ、ブランのほうに引っ張られる。
加減などなく、力任せに引かれてマリーリの細い手首は骨が軋み、「痛っ!!」とマリーリは悲鳴を上げた。
「ブラン、貴方お酒を飲んでいるの?」
「あぁ、飲んだら悪いか!?」
近づいたことでわかる猛烈な酒の臭い。
よく見ればブランの顔は紅潮し、どことなく視点は彷徨い、呂律が回っていないようだった。
「お前のせいで、何もかも失った! 父上にも大層叱られた! 全て、全て、お前のせいだ!!」
一方的な言い分に、カッとマリーリの頭にも血が上る。
自分の仕打ちを棚に上げ、自分に責任転嫁するブランに腹が立ってくる。
だからマリーリはつい反抗するように抗議の言葉を口にした。
「そんな! 浮気したのはブランでしょ!? それなのに……っ」
「黙れ!!」
バシンッ、と思いきり顔を平手で叩かれる。
両親にも誰にも殴られたことなどなかったマリーリにとって、初めての経験だった。
目の前が一瞬眩み、じわじわと頬が燃えるように熱くなってくる。
口の中が切れてしまったのか、鉄の味が口の中にじわっと広がり、マリーリは何も抵抗できない自分が恨めしかった。
泣きたくなどないのに、勝手に涙が滲んでくる。
キッと睨むようにブランを見つめるが、恐怖でマリーリの身体は動かなかった。
「何だ、その目は? うん? オレはお前のご主人さまになる男だぞ?」
「私は貴方の妻になどならないわ!」
「黙れ! 格下の女が口答えなどするんじゃない!!」
バシっ!
今度は反対の手で反対の頬を殴られる。
痛みでさらに視界が滲み、追い討ちをかけるかのように髪を引っ張られ、ベッドの上に叩きつけられた。
「痛っ! いやぁっ、何をするの!?」
「キューリスとこうしていたのが羨ましかったんだろう? 初めからそう言っていればよかったものを……」
「そんな、違っ……いやだ!!」
ビリィィィ、と思いきり服を引きちぎられる。
夕飯を済ませ、寝る前だったこともあり、服は簡素なチュニックだけであった。
そのため引きちぎられたことで、素肌がブランの眼下に晒され、マリーリは慌てて手で身体を隠す。
だが、ブランがそれを許してくれるはずもなく、腕を奪われ胸元が露出した状態になってしまった。
「ふん、じゃじゃ馬のわりにはいいものを持っているではないか。婚約解消したとはいえ、元々はオレのだっただろう? 味見をしたってバチは当たらない、そうだろう?」
恍惚とした表情で同意を求められ、必死に震えながらも涙目で首を横に振るマリーリ。
どうにか抵抗するも男に力で勝てるわけでもなく、ブランにされるがままだった。
「やだ、やめて……っ、お願いだから……っ、ブラン、ねぇ……」
「くく、その泣き顔そそるなぁ」
「ひぃ……っ」
そう言ってブランはマリーリの涙を舐めるように肌に舌を這わす。
マリーリはまるで食べられてしまうのではないかという恐怖で血の気がひく。
(ジュリアス、助けて……っ)
心の中で何度もジュリアスの名を呼ぶ。
ジュリアスがここに来てくれるわけがないとわかっていながらも、何度も何度も祈るように呼び続ける。
「こっちを見ろ、マリーリ!」
「いや! ジュリアス! 助けて!!」
「ジュリアス……? ほう、オレのことを散々浮気だなんだと責めておいて、お前にも既に男がいるのか?」
「やっ、やだ、ブラン、やめて!!」
「やめろと言われてやめるやつがいるか! ここまでコケにされて、このまま終わるわけがないだろう!!」
ガバッとマリーリの身体はひっくり返されてそのまま服を脱がされる。
必死に抵抗するも、バタバタと暴れるのが精一杯だった。
「くそっ、暴れるな!」
「やだ! やめて!!」
バスっ
手元にあった枕をブランに投げつけるも、効果などさほどない。
他に投げるもの、どうにか隙を見て逃げなければと思い、今度は花瓶を投げつける。
ガチャン!!
ブランの顔面に当たった花瓶は音を立てて割れる。
ブランは花瓶の欠片で顔を切ったのか、顔から血が流れていた。
「このくそアマ、いい気になりやがって!!」
「う、ぐ……っ」
マリーリの首を掴んだかと思うと、ブランがマリーリを勢いよく床に叩きつける。
「痛っ! げほっ、っぐ、……っ!」
「もう、許さないぞ……っ」
「ひっ、……もう、やめて……っやだ……っ」
「きっちりとご主人様を怒らせた仕置きをせねばなぁ?」
美しいと評されていたはずのブランの顔は醜く歪み、その形相はまるで怪物のようだった。
恐怖でガタガタと全身が震える。
「ジュリアス! ジュリアス……!!」
ジュリアスの名を必死に呼んだその時だった。
バタン……ッ!
「マリーリ!!!!」
大きな音を立ててドアが開き、マリーリが「え?」と顔を上げるとそこには全身ずぶ濡れで息を切らしたジュリアスがいた。
これは夢ではないのか、切望しすぎて幻でも見ているではないかとマリーリは自分の目を疑うも、その目に映るのはジュリアスその人だった。
「誰だ、お前は! 勝手に入ってくるんじゃねぇ!!」
「ジュ、ジュリアス……?」
「マリーリ……っ!? ……ブラン、貴様、よくも!!」
ジュリアスはマリーリのぼろぼろの姿を見るやいなや、カッと鬼の形相になりブランに勢いよく殴りかかる。
「っぐ、……がはっ……ぐふっ」
ジュリアスが何度も殴りつけ、最後の拳がブランの顔面に直撃するとそのまま吹っ飛び、大きな音と共に壁にぶつかると、そのままずるずると地面に落ちていく。
ブランはそれで意識を失ったのか、ぴくりとも動かなくなった。
「きゃあ!! マリーリさま!!」
「マリーリさま! ご無事ですか!?」
「こ、こちらを羽織りください」
ドアからゾロゾロと使用人達が入ってくる。
みんなマリーリの姿を見るや、メイド達が一斉に彼女を囲み、肌が人目に触れぬように隠した。
「あぁぁぁ、マリーリさまのお顔が……」
ミヤがマリーリの姿を見て涙をポロポロと溢す。
そして失神しているブランをキッと睨むと、持っていたハサミで斬りかかろうとするのを慌ててジュリアスが止めに入る。
「ミヤ、やめて!」
「ですが……っ! この外道はマリーリさまを……!!! 今すぐに殺してやる!!!」
「ダメだ、キミはマリーリの大事な侍女なのだろう!? 咎を受けることになって傷つくのはマリーリだ」
「そうだとしても、こんなヤツをこのままには……っ!!」
「ねぇ、ミヤ! やめて! お願いだから……そんなことやめてちょうだい……っ!! 私にはミヤが必要なのだから、今ここで無駄に罪を背負う必要はないわ!!」
ミヤを止めるようにマリーリも切実に訴えれば、ゆっくりと彼女の手は下がり、カランと音を立ててハサミが床に落ちた。
「っ、わかりました……。すぐに洗顔用の湯を用意します」
「ありがとう、ミヤ……」
パタパタと部屋を出て行くミヤ。
それぞれの使用人達も部屋の片付けをしたり、動けなくなったブランを外に連れ出したりとひっきりなしに動いていた。
「マリーリ、無事か?」
「え、えぇ、おかげさまで大丈夫よ。……でも、どうしてジュリアスがここに? 晩餐会に行ったはずじゃ?」
「キミの侍女が俺に連絡を寄越したんだ。マリーリが危ない、と。だから急いで駆けつけた」
そう話すジュリアスは、この荒天のせいかずぶ濡れだった。
恐らく、相当急いできてくれたのだろう。
髪は乱れ、服には木の葉や泥がついている状態だった。
「あぁ、ジュリアス……っ!」
「マリーリ、こら、濡れるぞ!?」
「怖かった……とても怖かった……っ」
マリーリはジュリアスにしがみつくように抱きつくと、緊張の糸が切れたのか、堰を切ったようにポロポロと涙を流した。
そんなマリーリをジュリアスはギュっと強く抱き締める。
「もう大丈夫だ。俺がついている」
マリーリの背を摩りながら、落ち着かせるように耳元で囁く。
そうしてしばらくの間、マリーリはジュリアスから離れなかった。
カタカタと全身を震わせ、尻餅をつきながらも必死に後ろに下がるマリーリ。
ブランの目は据わり、ふらふらと足下は覚束ない。
だが、それでも確実にマリーリのほうへ一歩、また一歩と近づいていた。
「……何を? オレがわざわざ婚約者のところに来るのに、何か理由が必要なのか?」
「今は元、婚約者でしょう? そもそも、貴方にはキューリスがいるんじゃないの? なぜ私のところにくるの……っ!?」
「キューリス? はっ! あの女はとっくにオレから離れたさ! 資産もない伯爵家には用がないらしい!」
ガン! バキィィィ!!
「キャッ!!」
ブランが壊れた椅子を思いきり踏みつけ、椅子の脚が折れる。
その様を見て、マリーリは自分も危害を加えられるのではないかとさらにガタガタと震え上がった。
「だから、ほら、マリーリ……邪魔な存在はいなくなったんだ! わざわざオレのために苦手な刺繍を入れてくれたハンカチをくれたのだろう!?」
掲げて見せられたのは、あの日ブランのために持っていったハンカチだった。
いつの間にか失くしていたと思ったが、どうやらあの騒ぎのときにグシュダン家で落としたらしい。
「それは、そのとき婚約してたからで……今とは」
「だったら、オレともう一度婚約しよう!」
「そんな、何を言ってるの。正気? この話はお父様とグシュダン伯爵との間で一度終わった話よ」
「終わった? キミが終わらせたんだろう! マリーリ!!」
マリーリは手首を掴まれ、ブランのほうに引っ張られる。
加減などなく、力任せに引かれてマリーリの細い手首は骨が軋み、「痛っ!!」とマリーリは悲鳴を上げた。
「ブラン、貴方お酒を飲んでいるの?」
「あぁ、飲んだら悪いか!?」
近づいたことでわかる猛烈な酒の臭い。
よく見ればブランの顔は紅潮し、どことなく視点は彷徨い、呂律が回っていないようだった。
「お前のせいで、何もかも失った! 父上にも大層叱られた! 全て、全て、お前のせいだ!!」
一方的な言い分に、カッとマリーリの頭にも血が上る。
自分の仕打ちを棚に上げ、自分に責任転嫁するブランに腹が立ってくる。
だからマリーリはつい反抗するように抗議の言葉を口にした。
「そんな! 浮気したのはブランでしょ!? それなのに……っ」
「黙れ!!」
バシンッ、と思いきり顔を平手で叩かれる。
両親にも誰にも殴られたことなどなかったマリーリにとって、初めての経験だった。
目の前が一瞬眩み、じわじわと頬が燃えるように熱くなってくる。
口の中が切れてしまったのか、鉄の味が口の中にじわっと広がり、マリーリは何も抵抗できない自分が恨めしかった。
泣きたくなどないのに、勝手に涙が滲んでくる。
キッと睨むようにブランを見つめるが、恐怖でマリーリの身体は動かなかった。
「何だ、その目は? うん? オレはお前のご主人さまになる男だぞ?」
「私は貴方の妻になどならないわ!」
「黙れ! 格下の女が口答えなどするんじゃない!!」
バシっ!
今度は反対の手で反対の頬を殴られる。
痛みでさらに視界が滲み、追い討ちをかけるかのように髪を引っ張られ、ベッドの上に叩きつけられた。
「痛っ! いやぁっ、何をするの!?」
「キューリスとこうしていたのが羨ましかったんだろう? 初めからそう言っていればよかったものを……」
「そんな、違っ……いやだ!!」
ビリィィィ、と思いきり服を引きちぎられる。
夕飯を済ませ、寝る前だったこともあり、服は簡素なチュニックだけであった。
そのため引きちぎられたことで、素肌がブランの眼下に晒され、マリーリは慌てて手で身体を隠す。
だが、ブランがそれを許してくれるはずもなく、腕を奪われ胸元が露出した状態になってしまった。
「ふん、じゃじゃ馬のわりにはいいものを持っているではないか。婚約解消したとはいえ、元々はオレのだっただろう? 味見をしたってバチは当たらない、そうだろう?」
恍惚とした表情で同意を求められ、必死に震えながらも涙目で首を横に振るマリーリ。
どうにか抵抗するも男に力で勝てるわけでもなく、ブランにされるがままだった。
「やだ、やめて……っ、お願いだから……っ、ブラン、ねぇ……」
「くく、その泣き顔そそるなぁ」
「ひぃ……っ」
そう言ってブランはマリーリの涙を舐めるように肌に舌を這わす。
マリーリはまるで食べられてしまうのではないかという恐怖で血の気がひく。
(ジュリアス、助けて……っ)
心の中で何度もジュリアスの名を呼ぶ。
ジュリアスがここに来てくれるわけがないとわかっていながらも、何度も何度も祈るように呼び続ける。
「こっちを見ろ、マリーリ!」
「いや! ジュリアス! 助けて!!」
「ジュリアス……? ほう、オレのことを散々浮気だなんだと責めておいて、お前にも既に男がいるのか?」
「やっ、やだ、ブラン、やめて!!」
「やめろと言われてやめるやつがいるか! ここまでコケにされて、このまま終わるわけがないだろう!!」
ガバッとマリーリの身体はひっくり返されてそのまま服を脱がされる。
必死に抵抗するも、バタバタと暴れるのが精一杯だった。
「くそっ、暴れるな!」
「やだ! やめて!!」
バスっ
手元にあった枕をブランに投げつけるも、効果などさほどない。
他に投げるもの、どうにか隙を見て逃げなければと思い、今度は花瓶を投げつける。
ガチャン!!
ブランの顔面に当たった花瓶は音を立てて割れる。
ブランは花瓶の欠片で顔を切ったのか、顔から血が流れていた。
「このくそアマ、いい気になりやがって!!」
「う、ぐ……っ」
マリーリの首を掴んだかと思うと、ブランがマリーリを勢いよく床に叩きつける。
「痛っ! げほっ、っぐ、……っ!」
「もう、許さないぞ……っ」
「ひっ、……もう、やめて……っやだ……っ」
「きっちりとご主人様を怒らせた仕置きをせねばなぁ?」
美しいと評されていたはずのブランの顔は醜く歪み、その形相はまるで怪物のようだった。
恐怖でガタガタと全身が震える。
「ジュリアス! ジュリアス……!!」
ジュリアスの名を必死に呼んだその時だった。
バタン……ッ!
「マリーリ!!!!」
大きな音を立ててドアが開き、マリーリが「え?」と顔を上げるとそこには全身ずぶ濡れで息を切らしたジュリアスがいた。
これは夢ではないのか、切望しすぎて幻でも見ているではないかとマリーリは自分の目を疑うも、その目に映るのはジュリアスその人だった。
「誰だ、お前は! 勝手に入ってくるんじゃねぇ!!」
「ジュ、ジュリアス……?」
「マリーリ……っ!? ……ブラン、貴様、よくも!!」
ジュリアスはマリーリのぼろぼろの姿を見るやいなや、カッと鬼の形相になりブランに勢いよく殴りかかる。
「っぐ、……がはっ……ぐふっ」
ジュリアスが何度も殴りつけ、最後の拳がブランの顔面に直撃するとそのまま吹っ飛び、大きな音と共に壁にぶつかると、そのままずるずると地面に落ちていく。
ブランはそれで意識を失ったのか、ぴくりとも動かなくなった。
「きゃあ!! マリーリさま!!」
「マリーリさま! ご無事ですか!?」
「こ、こちらを羽織りください」
ドアからゾロゾロと使用人達が入ってくる。
みんなマリーリの姿を見るや、メイド達が一斉に彼女を囲み、肌が人目に触れぬように隠した。
「あぁぁぁ、マリーリさまのお顔が……」
ミヤがマリーリの姿を見て涙をポロポロと溢す。
そして失神しているブランをキッと睨むと、持っていたハサミで斬りかかろうとするのを慌ててジュリアスが止めに入る。
「ミヤ、やめて!」
「ですが……っ! この外道はマリーリさまを……!!! 今すぐに殺してやる!!!」
「ダメだ、キミはマリーリの大事な侍女なのだろう!? 咎を受けることになって傷つくのはマリーリだ」
「そうだとしても、こんなヤツをこのままには……っ!!」
「ねぇ、ミヤ! やめて! お願いだから……そんなことやめてちょうだい……っ!! 私にはミヤが必要なのだから、今ここで無駄に罪を背負う必要はないわ!!」
ミヤを止めるようにマリーリも切実に訴えれば、ゆっくりと彼女の手は下がり、カランと音を立ててハサミが床に落ちた。
「っ、わかりました……。すぐに洗顔用の湯を用意します」
「ありがとう、ミヤ……」
パタパタと部屋を出て行くミヤ。
それぞれの使用人達も部屋の片付けをしたり、動けなくなったブランを外に連れ出したりとひっきりなしに動いていた。
「マリーリ、無事か?」
「え、えぇ、おかげさまで大丈夫よ。……でも、どうしてジュリアスがここに? 晩餐会に行ったはずじゃ?」
「キミの侍女が俺に連絡を寄越したんだ。マリーリが危ない、と。だから急いで駆けつけた」
そう話すジュリアスは、この荒天のせいかずぶ濡れだった。
恐らく、相当急いできてくれたのだろう。
髪は乱れ、服には木の葉や泥がついている状態だった。
「あぁ、ジュリアス……っ!」
「マリーリ、こら、濡れるぞ!?」
「怖かった……とても怖かった……っ」
マリーリはジュリアスにしがみつくように抱きつくと、緊張の糸が切れたのか、堰を切ったようにポロポロと涙を流した。
そんなマリーリをジュリアスはギュっと強く抱き締める。
「もう大丈夫だ。俺がついている」
マリーリの背を摩りながら、落ち着かせるように耳元で囁く。
そうしてしばらくの間、マリーリはジュリアスから離れなかった。
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