17 / 40
第17話 囁かれる名と、避けられぬ立場
しおりを挟む
第17話 囁かれる名と、避けられぬ立場
王宮の再編が進むにつれ、ひとつの変化が、はっきりと形を取り始めていた。
――ルビー・エルヴェールの名が、公の場で囁かれ始めたのだ。
「最近の人事、顧問殿の意向が強く反映されているそうですわ」 「ええ、殿下も信頼なさっているとか……」 「まるで、もう――」
言葉の先は、誰も口にしない。
だが、沈黙が意味するところは明白だった。
その噂は、王宮の外にも広がっていく。
市場の商人。
地方の役人。
そして――貴族社会。
“追放された侯爵令嬢”という肩書きは、すでに過去のものだった。
「……状況が、想定より早いな」
レオニードは執務室で、低く呟いた。
「ええ。ですが、止めることはできませんわ」
ルビーは、落ち着いた声で答える。
「人は“顔”を求めます。
変化が起きたとき、その象徴となる存在を」
その日の午後、王宮に一通の正式な書簡が届いた。
差出人は――アレグランツ王国有力貴族連盟。
「……“意見交換の場”ですか」
表向きは穏やかな文面。
だが、その真意は、探りだ。
「彼らは、君の立場を測ろうとしている」
レオニードは、はっきりと言った。
「顧問としてか。
それとも――別の存在としてか」
ルビーは、一瞬だけ目を伏せた。
(ついに、ここまで来ましたのね)
数日後、王宮の応接間。
集められたのは、各派閥を代表する貴族たちだった。
「エルヴェール嬢」
年配の公爵が、穏やかな口調で切り出す。
「最近の改革、評価しておりますぞ。
王国のためを思えば、実に合理的だ」
「ありがとうございます」
礼を取りつつも、ルビーは油断しない。
「ただ――」
別の貴族が、含みを持たせて続けた。
「それほどの影響力を持つのであれば、
顧問という立場は、少々……曖昧ではありませんかな?」
空気が、張りつめる。
「立場とは、責任の所在を明確にするためにあります」
ルビーは、静かに言った。
「そして、責任はすでに負っております」
「ほう」 「成果と結果、その両方を」
一瞬の沈黙の後。
「……では、あなたは、ご自身をどう位置づけておられる?」
核心だった。
ルビーは、ゆっくりと顔を上げ、はっきりと答えた。
「私は、アレグランツ王国のために働く者ですわ」
それだけ。
王妃とも、顧問とも、未来の何かとも言わない。
だが、その言葉は、逆に重かった。
応接間を出た後。
「見事なかわし方だ」
レオニードが、低く言った。
「逃げたわけではありません」 「分かっている」
彼は、少しだけ表情を和らげた。
「だが――もう時間の問題だ」
その夜、ルビーは私室で一人、灯りを落として座っていた。
(立場が、私を追いかけてくる……)
かつては、与えられる側だった。
選ばれる側だった。
けれど今は違う。
(逃げ続けることは、できませんわね)
窓の外、王宮の塔に掲げられた旗が、夜風に揺れている。
その下で、彼女は静かに決意した。
(求められるなら――向き合いましょう)
王宮が、
国が、
そして――彼自身が。
ルビー・エルヴェールは、
自分の立つ場所を、自分で選ぶ覚悟を固め始めていた。
それは、次なる大きな転換への――
静かな序章だった。
王宮の再編が進むにつれ、ひとつの変化が、はっきりと形を取り始めていた。
――ルビー・エルヴェールの名が、公の場で囁かれ始めたのだ。
「最近の人事、顧問殿の意向が強く反映されているそうですわ」 「ええ、殿下も信頼なさっているとか……」 「まるで、もう――」
言葉の先は、誰も口にしない。
だが、沈黙が意味するところは明白だった。
その噂は、王宮の外にも広がっていく。
市場の商人。
地方の役人。
そして――貴族社会。
“追放された侯爵令嬢”という肩書きは、すでに過去のものだった。
「……状況が、想定より早いな」
レオニードは執務室で、低く呟いた。
「ええ。ですが、止めることはできませんわ」
ルビーは、落ち着いた声で答える。
「人は“顔”を求めます。
変化が起きたとき、その象徴となる存在を」
その日の午後、王宮に一通の正式な書簡が届いた。
差出人は――アレグランツ王国有力貴族連盟。
「……“意見交換の場”ですか」
表向きは穏やかな文面。
だが、その真意は、探りだ。
「彼らは、君の立場を測ろうとしている」
レオニードは、はっきりと言った。
「顧問としてか。
それとも――別の存在としてか」
ルビーは、一瞬だけ目を伏せた。
(ついに、ここまで来ましたのね)
数日後、王宮の応接間。
集められたのは、各派閥を代表する貴族たちだった。
「エルヴェール嬢」
年配の公爵が、穏やかな口調で切り出す。
「最近の改革、評価しておりますぞ。
王国のためを思えば、実に合理的だ」
「ありがとうございます」
礼を取りつつも、ルビーは油断しない。
「ただ――」
別の貴族が、含みを持たせて続けた。
「それほどの影響力を持つのであれば、
顧問という立場は、少々……曖昧ではありませんかな?」
空気が、張りつめる。
「立場とは、責任の所在を明確にするためにあります」
ルビーは、静かに言った。
「そして、責任はすでに負っております」
「ほう」 「成果と結果、その両方を」
一瞬の沈黙の後。
「……では、あなたは、ご自身をどう位置づけておられる?」
核心だった。
ルビーは、ゆっくりと顔を上げ、はっきりと答えた。
「私は、アレグランツ王国のために働く者ですわ」
それだけ。
王妃とも、顧問とも、未来の何かとも言わない。
だが、その言葉は、逆に重かった。
応接間を出た後。
「見事なかわし方だ」
レオニードが、低く言った。
「逃げたわけではありません」 「分かっている」
彼は、少しだけ表情を和らげた。
「だが――もう時間の問題だ」
その夜、ルビーは私室で一人、灯りを落として座っていた。
(立場が、私を追いかけてくる……)
かつては、与えられる側だった。
選ばれる側だった。
けれど今は違う。
(逃げ続けることは、できませんわね)
窓の外、王宮の塔に掲げられた旗が、夜風に揺れている。
その下で、彼女は静かに決意した。
(求められるなら――向き合いましょう)
王宮が、
国が、
そして――彼自身が。
ルビー・エルヴェールは、
自分の立つ場所を、自分で選ぶ覚悟を固め始めていた。
それは、次なる大きな転換への――
静かな序章だった。
0
あなたにおすすめの小説
大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。
でも貴方は私を嫌っています。
だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。
貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。
貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。
【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする
夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、
……つもりだった。
夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。
「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」
そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。
「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」
女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。
※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。
ヘンリック(王太子)が主役となります。
また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。
婚約者を交換ですか?いいですよ。ただし返品はできませんので悪しからず…
ゆずこしょう
恋愛
「メーティア!私にあなたの婚約者を譲ってちょうだい!!」
国王主催のパーティーの最中、すごい足音で近寄ってきたのはアーテリア・ジュアン侯爵令嬢(20)だ。
皆突然の声に唖然としている。勿論、私もだ。
「アーテリア様には婚約者いらっしゃるじゃないですか…」
20歳を超えて婚約者が居ない方がおかしいものだ…
「ではこうしましょう?私と婚約者を交換してちょうだい!」
「交換ですか…?」
果たしてメーティアはどうするのか…。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる