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第十八話 切り離された中心
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第十八話 切り離された中心
王都は、何事もなかったかのように動いていた。
辺境行きの準備が整えられる間も、王宮では新たな調整案が次々と承認されていく。臨時負担は段階的に緩和され、商会との再契約が進み、軍需支払いの遅延も解消へ向かっている。
円卓は滑らかだ。
発言は順番に回り、反対意見も受け止められ、修正が入り、合意へ至る。
それは、かつてアルベルトが退屈だと感じていた“遅さ”だった。
だが今、その遅さが秩序を生んでいる。
執務室で報告を受ける彼は、すでにその場の中心ではない。
「元殿下、辺境伯領の館の準備が整いました」
「……そうか」
机の上に積まれた書類は、形式的なものばかりだ。
警護人数の確定。
随行者の一覧。
療養名目の布告文。
どれも整っている。
整いすぎている。
誰も彼を責めない。
誰も追い立てない。
だが確実に“中心”から切り離されている。
廊下を歩けば、視線は減った。
敵意はない。
無関心に近い。
それが一番重い。
リュシエラだけが、距離を縮める。
「辺境は静かでございます」
「王都も静かだ」
「違いますわ」
彼女は首を傾げる。
「王都は、殿下がいなくなって静かになったのです」
その言葉は甘い。
だが、胸に刺さる。
夜。
アルベルトは再び眠れない。
目を閉じると、広間の光景がよみがえる。
整然と上がる手。
無音の合意。
誰も怒らない。
誰も反対しない。
そして、白い衣。
返り血を浴びたまま微笑む幻影。
「どこまでも私がお供します」
目を開ける。
暗闇。
現実には、血もない。
ただ、悪夢が残る。
隣国。
エリシアは港の再整備完了報告を受けていた。
「移転商会は合計五社」
「予想より早いですね」
「王都の再調整が進む前に、拠点を確保したいとのことです」
彼女は頷く。
「合理的な判断です」
誰かの没落に歓喜はしない。
ただ構造を読む。
規範を守る者の元に、人は集まる。
規範を飛ばした者から、人は離れる。
単純な構図。
王宮。
出立の日が近づく。
馬車は準備され、護衛は最小限に絞られた。
父王は姿を見せない。
それが最後の距離。
円卓は既に次の後継候補の名を検討し始めている。
アルベルトは庭に立つ。
噴水の水音が響く。
かつては、この庭の中央に立つ自分が“中心”だった。
今は違う。
王都は、自分がいなくても回る。
むしろ、滑らかに。
リュシエラが隣に立つ。
「後悔なさいますか」
「……私は間違っていたか」
「いいえ」
迷いのない声。
「殿下は強かっただけ」
だが、強さは支持を生まなかった。
予測不能は、信頼を削った。
それが貴族社会の答え。
遠くで鐘が鳴る。
出立の時刻を告げる。
王都の灯は変わらず輝いている。
中心が抜けても、円は崩れない。
むしろ歪みが消えたかのように見える。
アルベルトは、初めてはっきりと理解する。
自分は排除されたのではない。
切り離されたのだ。
秩序を保つために。
そしてその秩序は、静かに正しく機能している。
隣国の港では、新たな船が入港する。
王都の庭では、馬車が待つ。
同じ朝。
別々の未来。
切り離された中心は、もう戻らない。
王都は、何事もなかったかのように動いていた。
辺境行きの準備が整えられる間も、王宮では新たな調整案が次々と承認されていく。臨時負担は段階的に緩和され、商会との再契約が進み、軍需支払いの遅延も解消へ向かっている。
円卓は滑らかだ。
発言は順番に回り、反対意見も受け止められ、修正が入り、合意へ至る。
それは、かつてアルベルトが退屈だと感じていた“遅さ”だった。
だが今、その遅さが秩序を生んでいる。
執務室で報告を受ける彼は、すでにその場の中心ではない。
「元殿下、辺境伯領の館の準備が整いました」
「……そうか」
机の上に積まれた書類は、形式的なものばかりだ。
警護人数の確定。
随行者の一覧。
療養名目の布告文。
どれも整っている。
整いすぎている。
誰も彼を責めない。
誰も追い立てない。
だが確実に“中心”から切り離されている。
廊下を歩けば、視線は減った。
敵意はない。
無関心に近い。
それが一番重い。
リュシエラだけが、距離を縮める。
「辺境は静かでございます」
「王都も静かだ」
「違いますわ」
彼女は首を傾げる。
「王都は、殿下がいなくなって静かになったのです」
その言葉は甘い。
だが、胸に刺さる。
夜。
アルベルトは再び眠れない。
目を閉じると、広間の光景がよみがえる。
整然と上がる手。
無音の合意。
誰も怒らない。
誰も反対しない。
そして、白い衣。
返り血を浴びたまま微笑む幻影。
「どこまでも私がお供します」
目を開ける。
暗闇。
現実には、血もない。
ただ、悪夢が残る。
隣国。
エリシアは港の再整備完了報告を受けていた。
「移転商会は合計五社」
「予想より早いですね」
「王都の再調整が進む前に、拠点を確保したいとのことです」
彼女は頷く。
「合理的な判断です」
誰かの没落に歓喜はしない。
ただ構造を読む。
規範を守る者の元に、人は集まる。
規範を飛ばした者から、人は離れる。
単純な構図。
王宮。
出立の日が近づく。
馬車は準備され、護衛は最小限に絞られた。
父王は姿を見せない。
それが最後の距離。
円卓は既に次の後継候補の名を検討し始めている。
アルベルトは庭に立つ。
噴水の水音が響く。
かつては、この庭の中央に立つ自分が“中心”だった。
今は違う。
王都は、自分がいなくても回る。
むしろ、滑らかに。
リュシエラが隣に立つ。
「後悔なさいますか」
「……私は間違っていたか」
「いいえ」
迷いのない声。
「殿下は強かっただけ」
だが、強さは支持を生まなかった。
予測不能は、信頼を削った。
それが貴族社会の答え。
遠くで鐘が鳴る。
出立の時刻を告げる。
王都の灯は変わらず輝いている。
中心が抜けても、円は崩れない。
むしろ歪みが消えたかのように見える。
アルベルトは、初めてはっきりと理解する。
自分は排除されたのではない。
切り離されたのだ。
秩序を保つために。
そしてその秩序は、静かに正しく機能している。
隣国の港では、新たな船が入港する。
王都の庭では、馬車が待つ。
同じ朝。
別々の未来。
切り離された中心は、もう戻らない。
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