満場一致で削除されましたが、世界は問題なく回っております』

鷹 綾

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第四十話 中心なき夜明け

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第四十話 中心なき夜明け

 王都では、即位から一年が過ぎていた。

 新王の治世は安定している。

 急進も、混乱もない。
 貴族全会は予定通り開かれ、商会は利益を伸ばし、教会も穏やかに祝福を与える。

 年代記には、整った文言が並ぶ。

 ――王政安定期、初年。
 ――改革、段階的に成功。
 ――国庫、回復基調。

 旧王太子の名は、もはや補足にも現れない。

 触れる必要がない。

 触れないことが、完全な終幕だ。

 辺境。

 アルベルトは朝の執務室で、静かに書類に目を通していた。

 農地拡張の承認。
 橋梁の補修予算。
 新たな商人の入植願い。

 小さな決裁。

 だが、確実に生活を動かす。

 窓の外では、陽が昇る。

 王都の朝も同じように始まっているはずだ。

 だが、その中心に自分はいない。

 それでも世界は回る。

 昼。

 辺境の広場では、子どもたちが新しい学校の前で笑っている。

 読み書きを覚えたばかりの少年が、誇らしげに本を掲げる。

 アルベルトはその様子を見つめる。

 かつて欲したのは、王冠だった。

 いま目の前にあるのは、生活だ。

 規模は小さい。

 だが、確実だ。

 夜。

 最後の夢が訪れる。

 王都の円卓。

 中央には新王が座る。

 議事は進み、手が上がる。

 満場一致。

 だが今回は、彼は遠くから見ているだけだ。

 白い衣の影も、血の幻もない。

 声もない。

 ただ静かな決議。

 自分は席にいない。

 だが、痛みはない。

 目が覚める。

 夜明け前の薄明かり。

 リュシエラが静かに立っている。

「夢は」

「……終わった」

 彼はゆっくりと息を吐く。

 恐れていたのは、彼女でも王都でもなかった。

 中心を失うことだった。

 だが中心とは、常に移るものだ。

 構造は個人を必要としない。

 だからこそ強い。

 隣国。

 エリシアは新たな交易協定に署名する。

「王都は安定しております」

「長期計画に支障はありません」

 彼女は頷く。

「それで十分です」

 婚約破棄は遠い過去。

 因果応報は、感情ではなく構造で完結した。

 辺境の丘。

 アルベルトは朝日を見上げる。

 光がゆっくりと地平を染める。

 王都の光ではない。

 辺境の夜明けだ。

 彼は理解している。

 自分のざまあは、破滅ではなかった。

 “中心ではなくなること”。

 満場一致で外され、語られなくなり、歴史の行間へ退く。

 だが、それは終わりではない。

 中心なき場所にも、現実はある。

 リュシエラが背後に立つ。

「寒うございます」

「……いいや」

 彼は静かに答える。

「夜は明けた」

 王都は安定している。

 隣国は発展している。

 世界は続く。

 そして彼は、中心なき夜明けの中で、静かに歩き出した。
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