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第十八話 中心は名乗らない
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第十八話 中心は名乗らない
北方侯爵が去って三日。
今度は南部伯爵、東境辺境伯、さらに二家の子爵が相次いで訪れた。
偶然にしては多すぎる。
私は応接室に腰を下ろす。
豪奢ではない。
だが整然としている。
余計な装飾は排した。
ここは象徴ではなく、機能の場だ。
「司法監査院への参加を」
南部伯爵が最初に口を開く。
「我が家も加わりたい」
「理由を」
私は即座に問う。
「王家の裁定は遅い」
「贔屓がある」
「法の基準が揺らいでいる」
伯爵ははっきりと言った。
恐れが薄れている。
それ自体が時代の変化だ。
「我が家の商人が、西部二州半へ移り始めました」
辺境伯が続ける。
「税が明確で、裁きが早い」
「兵も規律がある」
私は淡々と答える。
「当然のことをしているだけです」
「それができていないのが問題なのです」
子爵が静かに言う。
部屋の空気が変わる。
これは相談ではない。
選択だ。
「参加条件は」
「法典遵守」
「監査の受諾」
「徴税透明化」
私は一枚の書面を差し出す。
「貴族であっても例外はございません」
沈黙。
南部伯爵が苦く笑う。
「つまり我々も監査される」
「当然です」
私は微笑む。
「制度は誰かのためではなく、全体のため」
辺境伯が頷く。
「……それができるのは、今はここだけだ」
私は否定しない。
肯定もしない。
「王家の許可は?」
子爵が問う。
「報告はしております」
「反対は?」
「ございません」
一拍。
「否定すれば、王家が秩序を拒む形になります」
南部伯爵が小さく息を吐く。
「うまい」
「感情ではなく、構造」
私はただ微笑む。
四家が署名した。
司法監査院は五家連名の制度となる。
王家を含まない。
だが反逆ではない。
形式上は“共同秩序機関”。
実態は。
王都を介さない法の中枢。
会談が終わり、騎士団長が言う。
「これで五家」
「はい」
「中心は公爵領だ」
「名乗りません」
私は静かに答える。
「中心は自然に決まります」
窓の外。
各家の馬車が並ぶ。
王城よりも、今はここに集まっている。
私は机に新たな地図を広げる。
五家の領地。
連なっている。
偶然ではない。
「経済圏が形成されます」
財務官が言う。
「物流、司法、徴税、軍規」
「王都を通らずに回ります」
一拍。
「事実上の中枢です」
私は首を振る。
「事実上、で十分」
「宣言は不要」
王家がまだ王家である限り。
形式は守る。
だが機能は移る。
ゆっくりと。
確実に。
騎士団長が低く問う。
「いずれ王家は気づきます」
「気づいております」
「動きますか」
「動けば正当性を失います」
一拍。
「動かねば、重心は移ります」
私はペンを置く。
王家は象徴。
だが。
秩序の中心は、もう少しずつ移っている。
誰も宣言していない。
旗もない。
だが人は集まる。
税が集まり。
法が集まり。
兵が整う。
中心は名乗らない。
気づいたときには、そこにある。
北方侯爵が去って三日。
今度は南部伯爵、東境辺境伯、さらに二家の子爵が相次いで訪れた。
偶然にしては多すぎる。
私は応接室に腰を下ろす。
豪奢ではない。
だが整然としている。
余計な装飾は排した。
ここは象徴ではなく、機能の場だ。
「司法監査院への参加を」
南部伯爵が最初に口を開く。
「我が家も加わりたい」
「理由を」
私は即座に問う。
「王家の裁定は遅い」
「贔屓がある」
「法の基準が揺らいでいる」
伯爵ははっきりと言った。
恐れが薄れている。
それ自体が時代の変化だ。
「我が家の商人が、西部二州半へ移り始めました」
辺境伯が続ける。
「税が明確で、裁きが早い」
「兵も規律がある」
私は淡々と答える。
「当然のことをしているだけです」
「それができていないのが問題なのです」
子爵が静かに言う。
部屋の空気が変わる。
これは相談ではない。
選択だ。
「参加条件は」
「法典遵守」
「監査の受諾」
「徴税透明化」
私は一枚の書面を差し出す。
「貴族であっても例外はございません」
沈黙。
南部伯爵が苦く笑う。
「つまり我々も監査される」
「当然です」
私は微笑む。
「制度は誰かのためではなく、全体のため」
辺境伯が頷く。
「……それができるのは、今はここだけだ」
私は否定しない。
肯定もしない。
「王家の許可は?」
子爵が問う。
「報告はしております」
「反対は?」
「ございません」
一拍。
「否定すれば、王家が秩序を拒む形になります」
南部伯爵が小さく息を吐く。
「うまい」
「感情ではなく、構造」
私はただ微笑む。
四家が署名した。
司法監査院は五家連名の制度となる。
王家を含まない。
だが反逆ではない。
形式上は“共同秩序機関”。
実態は。
王都を介さない法の中枢。
会談が終わり、騎士団長が言う。
「これで五家」
「はい」
「中心は公爵領だ」
「名乗りません」
私は静かに答える。
「中心は自然に決まります」
窓の外。
各家の馬車が並ぶ。
王城よりも、今はここに集まっている。
私は机に新たな地図を広げる。
五家の領地。
連なっている。
偶然ではない。
「経済圏が形成されます」
財務官が言う。
「物流、司法、徴税、軍規」
「王都を通らずに回ります」
一拍。
「事実上の中枢です」
私は首を振る。
「事実上、で十分」
「宣言は不要」
王家がまだ王家である限り。
形式は守る。
だが機能は移る。
ゆっくりと。
確実に。
騎士団長が低く問う。
「いずれ王家は気づきます」
「気づいております」
「動きますか」
「動けば正当性を失います」
一拍。
「動かねば、重心は移ります」
私はペンを置く。
王家は象徴。
だが。
秩序の中心は、もう少しずつ移っている。
誰も宣言していない。
旗もない。
だが人は集まる。
税が集まり。
法が集まり。
兵が整う。
中心は名乗らない。
気づいたときには、そこにある。
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