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第4話 辺境公爵の招待
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第4話 辺境公爵の招待◆
翌朝――。
私は、フローレス家の馬車に揺られながら、昨日の出来事を反芻していた。
(アルト公爵様との“お話”。
いったい何についてなのかしら……?)
睡眠不足なのは言うまでもない。
殿下の泥沼劇と、アルト公爵の言葉が頭から離れなかったのだ。
(興味がある、なんて……
そんな直球で言われたことありませんわ……!)
いつもなら冷静な私も、思わず顔を覆ってしまった。
「お嬢様、着きました」
御者の声で我に返る。
降り立った先は――王都郊外にある、アルト公爵の別邸だった。
衛兵たちはきっちり整列し、私を見るなり敬礼する。
「フローレス嬢をお迎えしろ、と公爵様より命じられております」
(……すごい歓迎されてる?)
少し緊張しながら応接室へ通されると――
静寂の中、窓際にアルト公爵が立っていた。
「来てくれたか。待っていた」
「お、お待たせいたしました……」
昨日よりも距離が近い。
雰囲気が柔らかすぎて、緊張で膝が震える。
「まずは君の時間を奪ってしまったことを詫びよう。だが……どうしても話したいことがあった」
「……どのようなご用件でしょうか?」
アルト公爵は、机に置いてあった一冊の書類を差し出してきた。
「これだ」
「これは……領地改革案?」
「君が書いたものだな?」
「っ!?」
なんでバレてるんですの!?
私は慌てて問いただした。
「どうして、これを……!」
「王都の資料庫に、匿名で提出されていた。
“地方領地の再生案”としてな」
(あ、提出したのは私ですけれど……!匿名で出したのに!)
アルト公爵は真剣な瞳で続ける。
「この内容は、地方の現状を熟知していなければ書けない。
読み進めるほどに“書いた者の顔を見たい”と思わされた」
私は息を呑んだ。
まさか、自分が夜な夜な書いた計画が、この公爵の目に触れているなんて。
「フローレス嬢。
君は――ただの令嬢ではない」
「…………」
「私が君に興味を持った理由は、昨日の婚約破棄だけではない。
君の知識、判断力、そして……賢いのに驕らない姿勢だ」
その目は、からかいや軽い好意ではない。
ひどく真摯なものだった。
「そこで提案がある」
アルト公爵は、まっすぐこちらを見て口を開いた。
「――私の隣に立つ気はないか?」
「…………っ!?」
空気が止まった。
その言葉は、求婚にも聞こえるし、政治的な申し出にも聞こえる。
「も、申し訳ございません、私……昨日婚約破棄されたばかりで……!」
「だからこそだ」
アルト公爵は一歩近づく。
思わず後ずさると、その距離をさらに詰めてくる。
「君には支えてくれる者が必要だ。
私には、隣に並び立てるほどの才覚を持つ者が必要だ」
私は胸を押さえた。
(こんなにストレートに言われるなんて……
殿下との婚約期間は、なんだったの……?)
すると、扉を叩く音がした。
「公爵様、報告がございます」
「入れ」
部下が書状を持って入ってきた。
「王都にて……レオネル殿下が、国王陛下から叱責を受けたとのことです」
「ほう」
「また、殿下が“アリアーナ様は無実だった”と泣きながら供述したため……事態がより混乱しているとか」
私は思わず頭を抱える。
(何やってるんですの殿下……!?)
しかし、アルト公爵はわずかに笑った。
「君の選択は正しかったな」
「……え?」
「殿下では、到底君には釣り合わない」
甘さと評価が同時に胸を打ち抜く。
「さて、アリアーナ嬢。
――改めて返事を聞かせてくれるか?」
その瞳は逃げ場を与えない。
(わ、私……どうすれば……!?)
鼓動が早まり、声が出ない。
婚約破棄の翌日に訪れた、まさかの転機。
人生が、新しい方向へ静かに動き出していた。
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翌朝――。
私は、フローレス家の馬車に揺られながら、昨日の出来事を反芻していた。
(アルト公爵様との“お話”。
いったい何についてなのかしら……?)
睡眠不足なのは言うまでもない。
殿下の泥沼劇と、アルト公爵の言葉が頭から離れなかったのだ。
(興味がある、なんて……
そんな直球で言われたことありませんわ……!)
いつもなら冷静な私も、思わず顔を覆ってしまった。
「お嬢様、着きました」
御者の声で我に返る。
降り立った先は――王都郊外にある、アルト公爵の別邸だった。
衛兵たちはきっちり整列し、私を見るなり敬礼する。
「フローレス嬢をお迎えしろ、と公爵様より命じられております」
(……すごい歓迎されてる?)
少し緊張しながら応接室へ通されると――
静寂の中、窓際にアルト公爵が立っていた。
「来てくれたか。待っていた」
「お、お待たせいたしました……」
昨日よりも距離が近い。
雰囲気が柔らかすぎて、緊張で膝が震える。
「まずは君の時間を奪ってしまったことを詫びよう。だが……どうしても話したいことがあった」
「……どのようなご用件でしょうか?」
アルト公爵は、机に置いてあった一冊の書類を差し出してきた。
「これだ」
「これは……領地改革案?」
「君が書いたものだな?」
「っ!?」
なんでバレてるんですの!?
私は慌てて問いただした。
「どうして、これを……!」
「王都の資料庫に、匿名で提出されていた。
“地方領地の再生案”としてな」
(あ、提出したのは私ですけれど……!匿名で出したのに!)
アルト公爵は真剣な瞳で続ける。
「この内容は、地方の現状を熟知していなければ書けない。
読み進めるほどに“書いた者の顔を見たい”と思わされた」
私は息を呑んだ。
まさか、自分が夜な夜な書いた計画が、この公爵の目に触れているなんて。
「フローレス嬢。
君は――ただの令嬢ではない」
「…………」
「私が君に興味を持った理由は、昨日の婚約破棄だけではない。
君の知識、判断力、そして……賢いのに驕らない姿勢だ」
その目は、からかいや軽い好意ではない。
ひどく真摯なものだった。
「そこで提案がある」
アルト公爵は、まっすぐこちらを見て口を開いた。
「――私の隣に立つ気はないか?」
「…………っ!?」
空気が止まった。
その言葉は、求婚にも聞こえるし、政治的な申し出にも聞こえる。
「も、申し訳ございません、私……昨日婚約破棄されたばかりで……!」
「だからこそだ」
アルト公爵は一歩近づく。
思わず後ずさると、その距離をさらに詰めてくる。
「君には支えてくれる者が必要だ。
私には、隣に並び立てるほどの才覚を持つ者が必要だ」
私は胸を押さえた。
(こんなにストレートに言われるなんて……
殿下との婚約期間は、なんだったの……?)
すると、扉を叩く音がした。
「公爵様、報告がございます」
「入れ」
部下が書状を持って入ってきた。
「王都にて……レオネル殿下が、国王陛下から叱責を受けたとのことです」
「ほう」
「また、殿下が“アリアーナ様は無実だった”と泣きながら供述したため……事態がより混乱しているとか」
私は思わず頭を抱える。
(何やってるんですの殿下……!?)
しかし、アルト公爵はわずかに笑った。
「君の選択は正しかったな」
「……え?」
「殿下では、到底君には釣り合わない」
甘さと評価が同時に胸を打ち抜く。
「さて、アリアーナ嬢。
――改めて返事を聞かせてくれるか?」
その瞳は逃げ場を与えない。
(わ、私……どうすれば……!?)
鼓動が早まり、声が出ない。
婚約破棄の翌日に訪れた、まさかの転機。
人生が、新しい方向へ静かに動き出していた。
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