婚約破棄された私を拾ったのは、冷徹領主様でした。——不器用なのに過保護で、どうしてそんなに愛してくるんですか!?

鷹 綾

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第10話 迫る正式訪問と、揺れる胸の内

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第10話 迫る正式訪問と、揺れる胸の内

 ヴァレンシア邸の茶会から戻った私は、
 自室でひとりベッドに腰を下ろしていた。

(あれ……私……なんで、こんなに胸が苦しいの……?)

 思い返せば、
 公爵は一つ一つの所作が丁寧で、
 好みをさりげなく調べてくれたり、
 言葉の端々に“尊重”が宿っていた。

(あんなの……惚れますわよ……誰だって……)

 頬に触れてみると、まだ熱が残っている。

(わたし……アルト公爵様のこと……)

 そこまで考えた瞬間、
 胸の奥がぎゅうっと締めつけられた。

「……はぁ……どうしてこんなに……」

 恋、なのだろうか。
 まだ完全に認められないけれど――
 心が傾いているのは確かだった。


---

◆◆◆

 その頃――フローレス邸・書斎

「旦那様! 王宮よりまた伝令が!」

 父は重い表情で書状を受け取り、開封した。

 やがて、信じられないという顔で呟く。

「……レオネル殿下、ついに“王太子候補から正式に除外”か……」

 執事が沈痛な声で説明を続ける。

「殿下は、度重なる虚偽証言と、
 アリアーナ様への強制的接触、
 王宮からの制止を無視した外出……
 罪状があまりにも多く……」

 父は深々とため息をついた。

「母后様の必死の嘆願にもかかわらず……
 議会が“庇いきれない”と判断したようだ」

「殿下の婚約破棄劇の影響が、ここまで……」

「自業自得、だが……哀れだな」

 父の言葉には、
 わずかに同情が含まれていた。


---

◆◆◆

 夕刻、私は居間で父と向かい合った。

「アリアーナ。少し話をしよう」

「はい、お父様」

 父は紅茶を飲み、一呼吸置いて言った。

「ヴァレンシア公爵家より――正式な書状が届いた」

「……っ!」

 胸が一気に跳ねた。

「“近日中に正式訪問したく、
 ご家族にも立ち会っていただきたい”
 ……だそうだ」

「そ、それって……!」

「求婚と断言はしていないが。
 内容から察するに……ほぼ間違いなく、そうだ」

 顔が一気に熱くなる。

「アリアーナ。
 本気で、ヴァレンシア公爵殿のことをどう思っている?」

「え……」

 言葉が詰まる。

 父は厳しくも優しい眼差しで続けた。

「殿下の件で傷ついたお前が、
 また無理をしないかと心配している。
 “誰かに選ばれた”からではなく、
 お前自身の意思で決めてほしい」

 その言葉が胸に染みて、
 目が熱くなった。

「わたし……公爵様のこと……」

 口に出すのが恥ずかしくて、
 視線を落とす。

「嫌いでは、ありませんわ……
 むしろ……その……
 とても優しくて……素敵な方だと思います」

 父は小さく笑った。

「……分かった。
 それなら、お前の未来を応援する」

「お父様……!」

「ではアリアーナ。
 正式訪問に備えて、フローレス家としても準備をしよう」

 胸が高鳴る。

(ついに本当に……未来が動き出すのね)


---

◆◆◆

 その夜――フローレス邸に届いた一通の書状。

 差出人は、アルト・ヴァレンシア公爵。

> 『フローレス家へ
 正式訪問の日取りが整いました。
 三日後、正午に伺います。
 アリアーナ嬢へ。
 どうか、その日を恐れず待っていてください。
             アルト』



 三日後――

アルト公爵が、正式にアリアーナの家を訪れる。

それが意味するものは、
誰が見ても明らかだった。

(……公爵様に、会いたい)

 胸に手を当てながら、
 私は小さく呟いた。

(そして……私も答えを出さなくては)

 婚約破棄で失ったと思っていた未来が、
 今、まったく別の煌めきで形になりつつあった。


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