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第9話 公爵家からの招待状
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第9話 公爵家からの招待状
翌朝――。
フローレス邸の玄関に、優雅な黒馬車が停まった。
その馬車の紋章を目にした瞬間、
私は思わず胸に手を当てた。
(ヴァレンシア公爵家の……)
「アリアーナ様、使者がお越しです」
「……また?」
昨日も来たばかりなのに、今度は一層格式の高い騎士が馬車を守護している。
玄関に現れた使者は、荘厳な声で宣言した。
「フローレス家ご令嬢、アリアーナ様。
――アルト・ヴァレンシア公爵より、“本日の昼下がり、ヴァレンシア邸の茶会へご招待”とのことです」
「っ……!」
胸が高鳴る。
(こ、これは……! もうほとんど正式な……!
いやいや、落ち着いてアリアーナ!)
使者は、さらに続ける。
「本日の茶会は、アリアーナ様おひとりのために開かれると伺っております」
「わ、私の……ため……?」
「ご準備のほど、お頼み申し上げます」
使者は丁寧に一礼し、馬車へ戻っていく。
私は玄関で固まっていた。
そして背後で――
「アリアーナ。
……いよいよ、だな」
父が深くため息をついた。
「わ、わたし、まだ返事もしていないんですけど……!」
「返事をする前に“囲い込んでくる”タイプなのだろう」
「お父様!?」
「いや、悪い意味ではなく……
お前を大切にしたいからだ。
それに――」
父はにやりと微笑んだ。
「公爵殿は、お前に本気だ」
胸がさらに熱くなった。
---
◆◆◆
昼下がりの陽光の下、
私はヴァレンシア邸へ向かった。
王都のどの貴族邸よりも広く、
厳かで、荘厳で――
まるで美術館のような美しさ。
案内されるままに庭園へ出ると――
「来てくれたな、アリアーナ嬢」
そこには、黒い軍装ではなく、
落ち着いた深緑の上着を着たアルト公爵が立っていた。
(……っ。)
意図せず息を飲んでしまった。
軍装姿も凛々しいけれど、
今日の装いは不思議な親しみやすさがあって……
少し柔らかい印象に見える。
「本日は、お招きいただき……ありがとうございます」
「礼を言うのはこちらのほうだ。
君が来てくれて……嬉しい」
(うっ……こういう“さりげない甘さ”が心臓に悪い!)
公爵は笑みを浮かべ、手で庭の奥を示した。
「こちらへ。
君のために茶会を準備した」
案内されたのは、
庭園の奥にあるガゼボ――
白い柱が並ぶ東屋。
テーブルには、美しいティーセットと、
色とりどりの焼き菓子が並んでいる。
(……全部、私の好きなお菓子……?)
もちろん、好みを伝えた覚えはない。
私が驚いていると、アルト公爵は静かに言った。
「君が王都で好んでいた店の菓子を、取り寄せてもらった」
「ど、どうしてそれを……!?」
「調べた」
「ちょ、調べたんですの!?」
思わず声が裏返った。
公爵は動揺する私を楽しむように、少し笑った。
「安心しろ。
君を困らせるような調べ方はしていない。
ただ、君が“何を好むのか”を知りたかっただけだ」
(甘い……!
破壊力が強すぎますわ……!)
「それに――」
公爵はティーポットを手に取り、
自ら私のカップに紅茶を注いだ。
「君に喜んでほしい」
「っ……!」
耳まで赤くなるのが分かった。
落ち着こうと深呼吸したその時――
従者が何かを持って庭に入ってきた。
「公爵様、王宮より書状が届いております」
「王宮?」
アルト公爵が書状を受け取り封を切ると、
目を細め、低く呟いた。
「……なるほど」
「何か、問題が……?」
公爵は手紙を閉じ、私を見る。
「殿下の母后が……動いたらしい」
「……母后様が、ですか?」
「レオネル殿下の暴走と虚偽証言について、
“厳罰を求める声”が王宮内で高まっている。
母后はそれを押しとどめるため奔走しているようだが……」
そして、続けた。
「殿下を守りきれないだろうな」
静かに言い切ったその声は、
容赦なく……そして揺るぎない。
(殿下……本当に、終わり……?)
しかし、不思議と胸が痛むことはなかった。
むしろ――
(私には、もう……関係のないこと)
そう思える自分に気づいた。
公爵は私に目を戻し、
優しく表情を緩めた。
「殿下のことは、もう気にしなくていい。
……君は、君の未来だけを考えればいい」
「……はい」
私の返事に、公爵は満足げに頷いた。
そして――
「アリアーナ嬢。
君と向き合う準備が、整いつつある」
「っ……!」
「いずれ正式に、フローレス家へ伺う。
そのとき……改めて、君の答えを聞かせてほしい」
穏やかな声なのに、
言葉のひとつひとつが胸へ真っ直ぐ刺さってくる。
(こんなの……惚れないわけがありませんわ……)
静かな庭園で、
紅茶の香りに包まれながら――
私の心は、確実に揺れていった。
---
翌朝――。
フローレス邸の玄関に、優雅な黒馬車が停まった。
その馬車の紋章を目にした瞬間、
私は思わず胸に手を当てた。
(ヴァレンシア公爵家の……)
「アリアーナ様、使者がお越しです」
「……また?」
昨日も来たばかりなのに、今度は一層格式の高い騎士が馬車を守護している。
玄関に現れた使者は、荘厳な声で宣言した。
「フローレス家ご令嬢、アリアーナ様。
――アルト・ヴァレンシア公爵より、“本日の昼下がり、ヴァレンシア邸の茶会へご招待”とのことです」
「っ……!」
胸が高鳴る。
(こ、これは……! もうほとんど正式な……!
いやいや、落ち着いてアリアーナ!)
使者は、さらに続ける。
「本日の茶会は、アリアーナ様おひとりのために開かれると伺っております」
「わ、私の……ため……?」
「ご準備のほど、お頼み申し上げます」
使者は丁寧に一礼し、馬車へ戻っていく。
私は玄関で固まっていた。
そして背後で――
「アリアーナ。
……いよいよ、だな」
父が深くため息をついた。
「わ、わたし、まだ返事もしていないんですけど……!」
「返事をする前に“囲い込んでくる”タイプなのだろう」
「お父様!?」
「いや、悪い意味ではなく……
お前を大切にしたいからだ。
それに――」
父はにやりと微笑んだ。
「公爵殿は、お前に本気だ」
胸がさらに熱くなった。
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◆◆◆
昼下がりの陽光の下、
私はヴァレンシア邸へ向かった。
王都のどの貴族邸よりも広く、
厳かで、荘厳で――
まるで美術館のような美しさ。
案内されるままに庭園へ出ると――
「来てくれたな、アリアーナ嬢」
そこには、黒い軍装ではなく、
落ち着いた深緑の上着を着たアルト公爵が立っていた。
(……っ。)
意図せず息を飲んでしまった。
軍装姿も凛々しいけれど、
今日の装いは不思議な親しみやすさがあって……
少し柔らかい印象に見える。
「本日は、お招きいただき……ありがとうございます」
「礼を言うのはこちらのほうだ。
君が来てくれて……嬉しい」
(うっ……こういう“さりげない甘さ”が心臓に悪い!)
公爵は笑みを浮かべ、手で庭の奥を示した。
「こちらへ。
君のために茶会を準備した」
案内されたのは、
庭園の奥にあるガゼボ――
白い柱が並ぶ東屋。
テーブルには、美しいティーセットと、
色とりどりの焼き菓子が並んでいる。
(……全部、私の好きなお菓子……?)
もちろん、好みを伝えた覚えはない。
私が驚いていると、アルト公爵は静かに言った。
「君が王都で好んでいた店の菓子を、取り寄せてもらった」
「ど、どうしてそれを……!?」
「調べた」
「ちょ、調べたんですの!?」
思わず声が裏返った。
公爵は動揺する私を楽しむように、少し笑った。
「安心しろ。
君を困らせるような調べ方はしていない。
ただ、君が“何を好むのか”を知りたかっただけだ」
(甘い……!
破壊力が強すぎますわ……!)
「それに――」
公爵はティーポットを手に取り、
自ら私のカップに紅茶を注いだ。
「君に喜んでほしい」
「っ……!」
耳まで赤くなるのが分かった。
落ち着こうと深呼吸したその時――
従者が何かを持って庭に入ってきた。
「公爵様、王宮より書状が届いております」
「王宮?」
アルト公爵が書状を受け取り封を切ると、
目を細め、低く呟いた。
「……なるほど」
「何か、問題が……?」
公爵は手紙を閉じ、私を見る。
「殿下の母后が……動いたらしい」
「……母后様が、ですか?」
「レオネル殿下の暴走と虚偽証言について、
“厳罰を求める声”が王宮内で高まっている。
母后はそれを押しとどめるため奔走しているようだが……」
そして、続けた。
「殿下を守りきれないだろうな」
静かに言い切ったその声は、
容赦なく……そして揺るぎない。
(殿下……本当に、終わり……?)
しかし、不思議と胸が痛むことはなかった。
むしろ――
(私には、もう……関係のないこと)
そう思える自分に気づいた。
公爵は私に目を戻し、
優しく表情を緩めた。
「殿下のことは、もう気にしなくていい。
……君は、君の未来だけを考えればいい」
「……はい」
私の返事に、公爵は満足げに頷いた。
そして――
「アリアーナ嬢。
君と向き合う準備が、整いつつある」
「っ……!」
「いずれ正式に、フローレス家へ伺う。
そのとき……改めて、君の答えを聞かせてほしい」
穏やかな声なのに、
言葉のひとつひとつが胸へ真っ直ぐ刺さってくる。
(こんなの……惚れないわけがありませんわ……)
静かな庭園で、
紅茶の香りに包まれながら――
私の心は、確実に揺れていった。
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