婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾

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第二十六話 削られる威光

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第二十六話 削られる威光

王宮の大広間で開かれた春の叙任式。

例年なら、王太子の一声で空気が変わる。

だが今年は、違った。

「南部再編の功績により、公爵家へ感謝状を授与する」

王の声が響く。

視線が一斉に集まる。

わたくしは静かに前へ進み、礼をする。

拍手が起こる。

それは形式的なものではない。

確かな評価に対する拍手。

カイルは隣に立っている。

だが、今日の主役ではない。

王太子の威光は、本来なら自然に注がれる。

けれど今、光は分散している。

それが一番、重い。


---

式の後、貴族たちの声がさざ波のように広がる。

「やはり実務は公爵家だ」

「安定が違う」

「王太子殿下はまだお若い」

表向きは穏やか。

だが、含みがある。

削られる威光。

誰かが奪ったわけではない。

自ら削ったのだ。

失点。

焦り。

準備不足。

その積み重ね。


---

執務室。

カイルは叙任式の報告書を閉じる。

「……感謝状か」

皮肉でも何でもない。

当然の評価。

だが胸は重い。

「殿下」

側近が静かに言う。

「威光は行動で戻せます」

「戻るか」

「積み重ねれば」

積み重ね。

最近、何度も聞く言葉。

簡単ではない。

だが、逃げられない。

「まずは内部の整理を」

責任体制。

役割の明確化。

焦らない。

彼は小さく頷く。


---

別邸。

侍女が嬉しそうに言う。

「お嬢様、見事でございました」

「形式よ」

「ですが皆様、本心から」

わたくしは微笑む。

嬉しさはある。

だが、浮かれない。

「威光は借り物ではないの」

「借り物、でございますか」

「積み上げた分だけ、光る」

王太子の威光も同じ。

血ではなく、行動。

それが削られれば、薄くなる。


---

その夜。

王は静かに独白する。

「評価は正直だ」

公爵家は加点。

王太子は減点。

だが、まだ終わりではない。

「削られた威光は、戻せるか」

それは本人次第。

王は感情では動かない。

だが、選別は進む。


---

数日後。

王太子府の内部整理が始まる。

実務担当を明確にし、書類の流れを統一。

小さな改善。

派手さはない。

だが、確実。

「遅いが、悪くない」

老臣が呟く。

威光は、声の大きさではない。

信頼の積み重ね。


---

別邸の窓辺。

夕暮れが差す。

削られる威光。

それは奪われたのではない。

自ら選んだ結果。

わたくしは奪っていない。

ただ、支えなかっただけ。

それだけで、光は移る。

華は一瞬。

威光は時間。

そして。

時間は、平等ではない。

積み重ねた者に、味方する。

静かに。

確実に。
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