婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾

文字の大きさ
27 / 32

第二十七話 決定的な減点

しおりを挟む
第二十七話 決定的な減点

王都に、ひとつの知らせが駆け巡った。

――西方辺境で、小規模な反乱未遂。

規模は小さい。
兵は動いていない。
だが、放置すれば火種になる。

王は即座に評議を開いた。

「原因は」

「増税への不満と、流通遅延の余波かと」

流通遅延。

北西部の失敗ではない。

だが、王家の信用が揺れた時期と重なる。

「初動を誤るな」

王の声は低い。

「王太子、対処案を」

視線が集まる。

カイルは一瞬、息を吸う。

「辺境伯に鎮圧を命じ、示威行動を」

即断。

強い姿勢を見せる。

主導。

今度こそ、示す。

だが。

老臣が静かに口を開く。

「兵を動かせば、反発が拡大いたします」

「弱腰に見せるわけにはいかぬ」

「示威は、原因を解消いたしませぬ」

沈黙。

王は視線を動かさない。

「他に案は」

静かな問い。

カイルは言葉を探す。

税の一部凍結。
流通再保証。
直接交渉。

だが準備がない。

数字も、裏付けも。

「……兵を」

再び同じ案。

王の目が細くなる。

「それは初動か、結論か」

痛い問い。

焦りが滲む。


---

別邸。

反乱未遂の報せは、すぐ届いた。

「兵を動かすご意向のようです」

侍女が不安そうに言う。

わたくしはゆっくりと首を振る。

「悪手ね」

「助言を」

「求められていない」

対等。

干渉しない。

だが、心は静かに計算する。

辺境の不満は税と物流。

武力は火に油。

小さな火種は、踏めば消える。

叩けば、広がる。


---

王宮。

評議は続く。

「公爵家はどう見る」

王の問いに、わたくしは静かに立つ。

助言を求められた。

ならば、答える。

「原因は経済的不満でございます」

「鎮圧は」

「最終手段に」

「代案は」

「税の一部猶予と、物流保証の即時発表」

具体的な数字を提示する。

猶予期間。

保証額。

補填源。

準備は整っている。

静かな説明。

感情はない。

理だけ。

老臣が頷く。

「妥当」

王はカイルを見る。

「どうだ」

沈黙。

数秒が長い。

「……その案で進めます」

低い声。

兵は動かない。

まず、経済。

火種は、踏んで消す。


---

数日後。

辺境の不満は沈静化。

兵を動かさず、収束。

王都に広がるのは安堵。

だが同時に、明確な印象。

「公爵令嬢の案だ」

「冷静だ」

「王太子は焦った」

声は小さい。

だが、広がる。

今回の減点は、小さくない。

兵を動かそうとした判断。

結果的に採用されなかった。

主導は、再び示せなかった。


---

夜。

カイルは一人、執務室に残る。

机に置かれた報告書。

沈静化成功。

だが、胸は重い。

「まただ」

焦り。

早さ。

強さ。

それが裏目に出る。

対して。

冷静な判断。

準備された数字。

説得力。

差は、はっきりしている。

「決定的、か」

小さな呟き。

まだ廃嫡ではない。

だが、減点は積み重なる。

評価は動く。

止まらない。


---

別邸。

夜風が窓を揺らす。

わたくしは灯りを落とす。

助言は求められた。

答えただけ。

支えたのではない。

対等に、案を出しただけ。

それでも。

差は広がる。

今回の減点は、重い。

威光ではなく、信頼の減点。

それは静かに、深く響く。

そして。

選別は、いよいよ終盤に近づいている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

捨てられた令嬢と、選ばれなかった未来

鍛高譚
恋愛
「君とは釣り合わない。だから、僕は王女殿下を選ぶ」 婚約者アルバート・ロンズデールに冷たく告げられた瞬間、エミリア・ウィンスレットの人生は暗転した。 王都一の名門公爵令嬢として慎ましくも誠実に彼を支えてきたというのに、待っていたのは無慈悲な婚約破棄――しかも相手は王女クラリッサ。 アルバートと王女の華やかな婚約発表の裏で、エミリアは社交界から冷遇され、"捨てられた哀れな令嬢"と嘲笑される日々が始まる。 だが、彼女は決して屈しない。 「ならば、貴方たちが後悔するような未来を作るわ」 そう決意したエミリアは、ある人物から手を差し伸べられる。 ――それは、冷静沈着にして王国の正統な後継者、皇太子アレクシス・フォルベルト。 彼は告げる。「私と共に来い。……君の聡明さと誇りが、この国には必要だ」

『「君は飾りだ」と言われた公爵令嬢、契約通りに王太子を廃嫡へ導きました』

ふわふわ
恋愛
「君は優秀だが、王妃としては冷たい。正直に言えば――飾りとしては十分だった」 そう言って婚約者である王太子に公然と切り捨てられた、公爵令嬢アデルフィーナ。 さらに王太子は宣言する。 「王家は外部信用に頼らない」「王家が条文だ」と。 履行履歴も整えず、契約も軽視し、 新たな婚約者と共に“強い王家”を演出する王太子。 ――ですが。 契約は宣言では動きません。 信用は履歴の上にしか立ちません。 王命が止まり、出荷が止まり、資材が止まり、 やがて止まったのは王太子の未来でした。 自ら押した承認印が、 自らの継承権を奪うことになるとも知らずに。 公然侮辱から始まる、徹底的な強ザマァ。 救済なし。 やり直しなし。 契約通りに処理しただけですのに―― なぜか王太子が廃嫡されました。

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢マリオンの婚約者アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

王太子に婚約破棄されたけど、私は皇女。幸せになるのは私です。

夢窓(ゆめまど)
恋愛
王太子に婚約破棄された令嬢リリベッタ。 「これで平民に落ちるのかしら?」――そんな周囲の声をよそに、本人は思い出した。 ――わたし、皇女なんですけど? 叔父は帝国の皇帝。 昔のクーデターから逃れるため、一時期王国に亡命していた彼女は、 その見返りとして“王太子との婚約”を受け入れていただけだった。 一方的に婚約破棄されたのをきっかけに、 本来の立場――“帝国の皇女”として戻ることに決めました。 さようなら、情けない王太子。 これからは、自由に、愛されて、幸せになりますわ!

【完結】恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう

冬馬亮
恋愛
「恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?」 セシリエの婚約者、イアーゴはそう言った。 少し離れた後ろの席で、婚約者にその台詞を聞かれているとも知らずに。 ※たぶん全部で15〜20話くらいの予定です。 さくさく進みます。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

処理中です...