ラノベでリアルに婚約破棄を描いてみたら、王家が傾いた

鷹 綾

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第十話 廃嫡の宣告

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第十話 廃嫡の宣告

 王城の大広間に、重苦しい沈黙が満ちていた。

 玉座の前には、国王。
 その左右には宰相、重臣たち、そして教会の高位司教。

 誰もが、今日が何の日かを理解している。

 マクシミリアン王太子は、護衛に挟まれる形で入室した。
 歩みは乱れていない。
 だが、その表情には、苛立ちと不満が色濃く浮かんでいた。

「父上、これは何の茶番ですか」

 開口一番、その言葉だった。

「呼び出され、監視され、まるで罪人扱いだ。
 説明を求めます」

 国王は、すぐには答えなかった。
 ただ、静かにマクシミリアンを見つめる。

「お前は、まだ理解していないようだな」

「理解しています」

 即答。

「私は、愛を選んだだけです。
 古い契約よりも、未来を選んだ。それだけのこと」

 その言葉に、重臣の一人がわずかに顔を歪めた。
 だが、誰も口を挟まない。

 国王は、ゆっくりと立ち上がった。

「その“それだけのこと”が、この国をどこまで追い込んだか――
 今から、お前に告げる」

 宰相が一歩前に出る。

「王太子マクシミリアン。
 あなたによる婚約破棄宣言は、エノー公爵家との国家条約を一方的に破棄する行為と認定されました」

「そんなもの――」

「口を慎め」

 国王の低い声が、大広間に響いた。

 マクシミリアンは、初めて言葉を失う。

「公爵家連合は、正式な賠償請求を提出。
 教会は、破門を含む重い処分を検討中。
 王家の家臣の一部は、すでに公爵家側へと動いている」

 宰相の淡々とした報告が続く。

「つまり――
 あなたの判断は、王家を内外から孤立させました」

「……それは、公爵家が過剰反応しているだけだ」

 マクシミリアンは、なおも言い募る。

「父上が本気を出せば――」

「本気を出した結果が、これだ」

 国王は、感情を込めずに言った。

「私は、国を守らねばならぬ。
 息子の誤りを、国の滅びで償うわけにはいかん」

 大広間に、緊張が走る。

 国王は、一枚の書状を取り上げた。

「よって、ここに宣告する」

 その声は、はっきりとしていた。

「マクシミリアン・アルブレヒト。
 本日をもって、王太子の地位を剥奪する」

 一瞬、時間が止まった。

「……何?」

「王位継承権を廃する。
 これは、王命であり、国家の決定だ」

 マクシミリアンの顔から、血の気が引く。

「冗談でしょう……?」

 誰も笑わない。

「父上……私は、あなたの息子ですよ?」

「だからこそだ」

 国王の声が、初めてわずかに震えた。

「王になれぬ者を、王太子のままにはできん」

 司教が、一歩前に出る。

「なお、教会としても、この決定を支持します」

 その一言で、すべてが終わった。

 マクシミリアンは、ゆっくりと後ずさる。

「……そんな……
 私は、間違っていない……」

 だが、その言葉は、もはや誰にも届かない。

「連れて行け」

 国王の命令に、近衛兵が動く。

 その瞬間、マクシミリアンは叫んだ。

「イザベルはどうなる!?
 あの女こそ、すべての元凶だろう!」

 大広間が、静まり返る。

 宰相が、冷たく答えた。

「エノー公爵令嬢イザベル殿下は、
 国家条約の被害者です」

 その一言が、決定打だった。

 マクシミリアンは、力を失ったように崩れ落ちる。

 連行される背中を、誰も追わなかった。

 王城の外では、すでに公爵家連合の使者が待っている。
 廃嫡は、交渉の“第一歩”に過ぎない。

 夜、イザベル・ド・エノー公爵令嬢は、その報を静かに受け取った。

「……そうですか」

 それだけ言って、書簡を閉じる。

 廃嫡は、終わりではない。
 ようやく、話が通じる地点に来ただけだ。

 彼女は、窓の外を見つめた。

「ここからが、本題ですわ」

 王太子は、すべてを失った。
 だが、王家はまだ――
 代償を、支払っていない。
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