ラノベでリアルに婚約破棄を描いてみたら、王家が傾いた

鷹 綾

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第十二話 受諾と条件

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第十二話 受諾と条件

 王城に、公爵家連合の返書が届いたのは夕刻だった。

 封は一つ。
 だが、重みはこれまでで最も大きい。

 国王は、宰相と司教を同席させたまま、ゆっくりと封を切った。
 紙の擦れる音が、やけに大きく響く。

 文面は短い。

――王家の対案、概ね了承する。
――ただし、以下の条件を追加する。

 国王の視線が、自然と下へ落ちる。

――第一。
――王家は、婚約破棄が国家条約違反であった事実を、王国史に明記すること。
――当該事案を、個人の逸脱ではなく、王家の統治責任として記録する。

 宰相が、低く息を吸った。

「……歴史に残せ、ということですな」

 国王は無言で続きを追う。

――第二。
――教会と王家の連名により、
――「真実の愛」を理由とする婚約破棄は正当な理由にならないと明文化すること。
――本法令は、王族を含むすべての貴族に適用される。

 司教が、静かに頷いた。

「我々の意向とも一致します」

 国王は、さらに読み進める。

――第三。
――マクシミリアン元王太子は、国外追放ではなく、王国内修道院への終身幽閉とする。
――名は残さず、血統としても政治的に断絶させる。

 その一文で、国王の指が止まった。

 国外追放ではない。
 逃げ場を、完全に断つ選択。

「……これは」

 言葉を探す国王に、宰相が答える。

「影響力の完全排除、です。
 国外に出せば、いずれ担ぎ上げる者が現れます」

 国王は、ゆっくりと頷いた。

 理解はできる。
 だが、受け入れるのは別だ。

――第四。
――賠償金の支払いと権限譲渡が完了するまで、
――公爵家連合は軍を動かさない。
――ただし、履行が滞った場合は、この限りではない。

 最後まで読み終え、国王は深く息を吐いた。

「……実に、冷静だな」

 怒りも、侮蔑もない。
 あるのは、条件と期限だけ。

「返書は、受諾という理解でよろしいか」

 宰相の問いに、国王はしばらく沈黙した後、答えた。

「受諾するしかあるまい」

 その言葉で、会議は終わった。

 一方、エノー公爵邸。

 イザベル・ド・エノー公爵令嬢は、返書の控えを机に置き、静かに目を閉じていた。

「王家は、受け入れます」

 側近の報告に、彼女は頷く。

「当然です。
 拒否すれば、王家が滅びますもの」

 冷たい言い方ではない。
 事実の確認だった。

「これで、戦争は避けられますか」

「ええ」

 イザベルは答える。

「ただし、“敗戦”として」

 誰かが息を呑んだ。

「剣を抜かずに負ける戦争です。
 でも、それで十分」

 彼女は、窓の外を見た。

 王都の灯りが、静かに瞬いている。

「大切なのは、前例を作らないこと。
 婚約を、軽く扱わせないこと」

 その言葉に、誰も異を唱えなかった。

 同じ頃、修道院の一室。

 マクシミリアンは、窓の外を見つめていた。
 鉄格子越しの空は、狭い。

 扉が開き、司祭が入ってくる。

「……処遇が決まりました」

 マクシミリアンは、振り返らなかった。

「国外追放か?」

「いいえ」

 司祭は、淡々と告げる。

「ここで、終身です」

 沈黙。

「……私は、何も悪いことはしていない」

 司祭は、答えない。

 答えは、すでに出ているからだ。

 夜、王城では、国王が署名を終えた書類を見つめていた。

 賠償。
 権限譲渡。
 法令公布。
 幽閉命令。

 すべてが、整った。

「これで……終わりだ」

 誰に向けた言葉か、自分でも分からなかった。

 遠く、鐘の音が鳴る。

 それは、勝利の鐘ではない。
 敗北を受け入れた国が、次へ進むための合図だった。

 そしてイザベルは知っている。

 これは終わりではない。
 秩序が、再び固定された瞬間なのだと。
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