ラノベでリアルに婚約破棄を描いてみたら、王家が傾いた

鷹 綾

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第十七話 責任の重さ

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第十七話 責任の重さ

 評議会の初会合は、王城の小広間で開かれた。

 かつて王命が絶対であった場所に、今は円卓が置かれている。
 誰が上座かは、あえて定められていなかった。

 それ自体が、今回の変化を象徴している。

「では、始めよう」

 国王の声は、落ち着いていた。

「本日の議題は一つ。
 次代の王に求める“条件”の確認だ」

 候補者の名前は、まだ出ない。
 まず定めるのは、人ではなく基準だった。

 宰相が、書類を開く。

「第一条件。
 国家条約および婚姻契約を、個人の感情より優先できること」

 誰も異を唱えない。

「第二条件。
 教会・諸侯・王家の三者の均衡を理解し、
 いずれかを利用して他を踏みつけないこと」

 司教が、静かに頷く。

「第三条件。
 過去において、重大な政治判断を“他人のせい”にしていないこと」

 ここで、空気がわずかに引き締まった。

 それは、マクシミリアンの名を直接出さずに、
 完全に否定する条件だったからだ。

「以上が最低条件です」

 宰相は、淡々と告げる。

「血統、性別、年齢は、この後の検討事項とします」

 数年前なら、暴動が起きていただろう。
 だが今は、誰も声を荒らげない。

 皆が、代償の重さを知っている。

 一方、エノー公爵邸。

 イザベル・ド・エノー公爵令嬢は、評議会の議事録写しに目を通していた。

「……随分と、現実的ですね」

 侍女の言葉に、イザベルは小さく頷く。

「感情を排した議論ができている。
 それだけで、大きな前進です」

 彼女は、ページを閉じる。

「でも――」

 侍女が、慎重に言葉を選ぶ。

「お嬢様の責任も、重くなりますね」

「ええ」

 否定はしなかった。

「沈黙すれば、誰かが勝手な物語を作る。
 なら、責任を引き受けたほうがいい」

 それは、王になる覚悟ではない。
 秩序の保証人になる覚悟だった。

 同じ頃、修道院。

 マクシミリアンは、修道士から渡されたパンを黙って受け取った。

 かつては、銀の皿に載せられていた食事だ。

「……評議会、か」

 低く呟く。

「王を、選ぶだと……?」

 彼の中で、怒りよりも先に湧いたのは困惑だった。

 理解できないのだ。

 生まれで決まるはずのものが、
 なぜ“選ばれる”対象になるのか。

「……愚かな制度だ」

 そう言いながらも、その声には力がない。

 愚かだったのは、制度ではなく、
 制度の意味を理解しようとしなかった自分だという事実から、
 彼は目を逸らし続けている。

 夜。

 王都の外れで、灯りが一つ、また一つと消えていく。

 戦争の準備ではない。
 平時の整理だ。

 公爵家連合の騎士団は、完全に解散し、各領へ戻っていた。
 剣は、ついに抜かれなかった。

 それでも、この国は一度、確かに「敗北」した。

 だからこそ、今度は間違えない。

 イザベルは、窓辺で静かに息を吐いた。

「責任は、重いですね」

 誰に向けた言葉でもない。

 だが、その重さを引き受ける覚悟がある者だけが、
 この国の未来に触れることを、彼女は知っていた。

 王は、もはや特別な存在ではない。
 特別な責任を負う者に過ぎない。

 その当たり前を、
 この国は高い代償で学んだ。

 そして今、
 その重さを知る者たちが、
 静かに次の時代を選ぼうとしている。
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