ラノベでリアルに婚約破棄を描いてみたら、王家が傾いた

鷹 綾

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第十六話 静かな承継

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第十六話 静かな承継

 王都に、新しい噂は流れなかった。

 それ自体が、異例だった。
 政変のあとには、必ず尾ひれのついた話が飛び交う。
 だが今回は違う。

 人々は、様子を見ている。

 それが、この国が一段階成熟した証でもあった。

 王城では、承継に向けた準備が、粛々と進められていた。

 国王は、重臣と司教、そして公爵家連合の代表を前に、短く告げる。

「王位継承について、私の意思を示す」

 誰も息を呑まない。
 拍手もない。

 ただ、聞くべき言葉を待つ沈黙があった。

「次代の王は、血統のみで決めない」

 その一言で、空気が引き締まる。

「契約を理解し、
 感情と責任を切り分け、
 国を“個人の物語”にしない者を選ぶ」

 国王は、視線を上げた。

「よって、継承者は――
 評議会の合議によって定める」

 これは、王権の一部を自ら差し出す決断だった。

 だが、誰も反対しなかった。

 むしろ、宰相が静かに頷く。

「それが、今回の代償に対する、最も誠実な回答でしょう」

 教会の司教も、短く祈りの言葉を添えた。

「神は、傲慢よりも責任を好まれます」

 一方、エノー公爵邸。

 イザベル・ド・エノー公爵令嬢は、その報を淡々と受け取っていた。

「評議会承継……ですか」

 侍女の声に、イザベルは頷く。

「王家が、学んだということです」

 そこに皮肉はない。

 失敗から学ぶならば、失敗は無駄ではない。

 父であるエノー公爵が、穏やかに言う。

「お前の意見が、反映されたな」

「意見ではありません」

 イザベルは首を振る。

「現実を、言葉にしただけです」

 彼女は、机の上の書類を整理する。

 そこには、複数の候補者の評価表があった。

 血筋。
 婚姻関係。
 条約理解度。
 教会との関係。
 そして――過去の判断履歴。

「“恋愛遍重”の兆候がある者は、最初から除外です」

 淡々と告げるその声に、周囲は誰も異を唱えなかった。

 愛を否定しているのではない。
 愛を政治に持ち込む危険を、誰もが理解しただけだ。

 同じ頃、修道院。

 マクシミリアンは、夕刻の鐘を聞きながら、庭の隅に腰を下ろしていた。

 彼の名が、評議会で話題に上ることは、もうない。

 完全に、切り離された。

「……王を選ぶ、か」

 誰に聞かせるでもなく呟く。

「私は、生まれながらに選ばれていたはずなのに」

 だが、返ってくるのは風の音だけだった。

 選ばれることと、選ばれ続けることは違う。

 その違いを、彼は最後まで理解できなかった。

 夜、王都の高台。

 イザベルは、遠くに灯る城の明かりを眺めていた。

「……静かですね」

 侍女の言葉に、彼女は微笑む。

「ええ。
 だからこそ、良い」

 革命ではない。
 喝采もない。

 だが、国は確実に一歩、前へ進んでいる。

 剣を抜かず、血を流さず、
 それでも秩序を守り直した。

 それは、派手な物語ではない。
 けれど、最も壊れにくい結末だった。

 イザベルは、心の中で静かに区切りをつける。

 婚約破棄は、終わった。
 王太子の時代も、終わった。

 そして今――
 理解する者たちの時代が、始まろうとしている。
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