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第十五話 選ばれる未来
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第十五話 選ばれる未来
王城の執務室に、新しい名が記された文書が積み上がっていた。
王位継承に関する検討資料。
そこには、もはやマクシミリアンの名はない。
「……空白は、恐ろしいものだな」
国王は、そう呟きながら書類を閉じた。
だが、その声に迷いはなかった。
空白は、埋められるべきものではない。
選ばれるべきものだ。
「候補は?」
国王の問いに、宰相が即座に答える。
「血統だけを見れば、複数おります。
ですが……今回の件以降、基準が変わりました」
「理解している」
国王は、ゆっくりと頷いた。
「契約を守れる者。
自分の感情より、国の存続を優先できる者だ」
宰相は、静かに視線を落とす。
「……エノー公爵家から、非公式の助言が届いております」
国王は、わずかに眉を動かした。
「助言、か」
「はい。
“誰を王にするか”ではなく、“どのような王を選ぶか”について」
その言葉に、国王は短く笑った。
「皮肉だな。
王家が学び、公爵家が教えるとは」
「ですが――」
宰相は続ける。
「今の王国にとって、最も必要な構図です」
一方、エノー公爵邸。
イザベル・ド・エノー公爵令嬢は、父と並び、数通の書簡を確認していた。
差出人は、侯爵家、伯爵家、そして遠縁の王族。
内容は、すべて似ている。
――今後の婚約制度について、
――公爵令嬢のご見解を賜りたい。
「……皆、不安なのですね」
イザベルは、静かに言った。
「ええ」
エノー公爵は、頷く。
「そして、次に誰が秩序を示すのかを、見ている」
イザベルは、少し考えてから答えた。
「わたくしは、王にはなりません」
公爵は、驚かなかった。
「だろうな」
「ですが――」
彼女は、言葉を続ける。
「王を選ぶ場に、沈黙はしません」
それは、宣言だった。
王になる意志ではない。
王を選ぶ責任を、放棄しないという意思だ。
同じ頃、修道院。
マクシミリアンは、祈祷室の片隅で跪いていた。
祈りの言葉は、もはや意味を持たない。
だが、跪くという行為だけが、彼に残された。
「……もし、あの時」
言葉は、途中で途切れる。
“もし”は、許されない。
この場所では、未来も過去も、等しく沈黙する。
一方、王都では、密やかな会合が開かれていた。
王家の重臣、公爵家の代表、教会の使者。
かつてなら、あり得ない顔ぶれだ。
「次代の王は、象徴であってはならない」
イザベルの声が、静かに響く。
「判断し、責任を負い、
そして――契約を守る者でなければなりません」
誰も否定しない。
それが、この国が流した代償から導き出された、唯一の結論だった。
「感情で婚約を破棄した王太子は、
国を滅ぼしかけました」
イザベルは、淡々と事実を述べる。
「同じことを繰り返さないために、
次は“理解している者”を選ぶべきです」
沈黙ののち、司教が頷いた。
「神も、同意されるでしょう」
その言葉で、会合は終わった。
夜。
イザベルは、書斎で一人、窓の外を眺めていた。
星は、変わらず瞬いている。
「……未来は、選べるのですね」
小さく呟く。
誰かに与えられるものではない。
力で奪うものでもない。
責任を引き受けた者だけが、選べるものだ。
王太子は、愛を選んだつもりだった。
だが、実際には、責任から逃げただけだった。
だからこそ、未来は彼を選ばなかった。
王国は、次の一歩を踏み出す。
それは、栄光に満ちた道ではない。
だが、崩れない道だ。
そしてその道の先には――
誰もが「当たり前」を疑わずに生きられる、
静かで、強い国の姿があった。
王城の執務室に、新しい名が記された文書が積み上がっていた。
王位継承に関する検討資料。
そこには、もはやマクシミリアンの名はない。
「……空白は、恐ろしいものだな」
国王は、そう呟きながら書類を閉じた。
だが、その声に迷いはなかった。
空白は、埋められるべきものではない。
選ばれるべきものだ。
「候補は?」
国王の問いに、宰相が即座に答える。
「血統だけを見れば、複数おります。
ですが……今回の件以降、基準が変わりました」
「理解している」
国王は、ゆっくりと頷いた。
「契約を守れる者。
自分の感情より、国の存続を優先できる者だ」
宰相は、静かに視線を落とす。
「……エノー公爵家から、非公式の助言が届いております」
国王は、わずかに眉を動かした。
「助言、か」
「はい。
“誰を王にするか”ではなく、“どのような王を選ぶか”について」
その言葉に、国王は短く笑った。
「皮肉だな。
王家が学び、公爵家が教えるとは」
「ですが――」
宰相は続ける。
「今の王国にとって、最も必要な構図です」
一方、エノー公爵邸。
イザベル・ド・エノー公爵令嬢は、父と並び、数通の書簡を確認していた。
差出人は、侯爵家、伯爵家、そして遠縁の王族。
内容は、すべて似ている。
――今後の婚約制度について、
――公爵令嬢のご見解を賜りたい。
「……皆、不安なのですね」
イザベルは、静かに言った。
「ええ」
エノー公爵は、頷く。
「そして、次に誰が秩序を示すのかを、見ている」
イザベルは、少し考えてから答えた。
「わたくしは、王にはなりません」
公爵は、驚かなかった。
「だろうな」
「ですが――」
彼女は、言葉を続ける。
「王を選ぶ場に、沈黙はしません」
それは、宣言だった。
王になる意志ではない。
王を選ぶ責任を、放棄しないという意思だ。
同じ頃、修道院。
マクシミリアンは、祈祷室の片隅で跪いていた。
祈りの言葉は、もはや意味を持たない。
だが、跪くという行為だけが、彼に残された。
「……もし、あの時」
言葉は、途中で途切れる。
“もし”は、許されない。
この場所では、未来も過去も、等しく沈黙する。
一方、王都では、密やかな会合が開かれていた。
王家の重臣、公爵家の代表、教会の使者。
かつてなら、あり得ない顔ぶれだ。
「次代の王は、象徴であってはならない」
イザベルの声が、静かに響く。
「判断し、責任を負い、
そして――契約を守る者でなければなりません」
誰も否定しない。
それが、この国が流した代償から導き出された、唯一の結論だった。
「感情で婚約を破棄した王太子は、
国を滅ぼしかけました」
イザベルは、淡々と事実を述べる。
「同じことを繰り返さないために、
次は“理解している者”を選ぶべきです」
沈黙ののち、司教が頷いた。
「神も、同意されるでしょう」
その言葉で、会合は終わった。
夜。
イザベルは、書斎で一人、窓の外を眺めていた。
星は、変わらず瞬いている。
「……未来は、選べるのですね」
小さく呟く。
誰かに与えられるものではない。
力で奪うものでもない。
責任を引き受けた者だけが、選べるものだ。
王太子は、愛を選んだつもりだった。
だが、実際には、責任から逃げただけだった。
だからこそ、未来は彼を選ばなかった。
王国は、次の一歩を踏み出す。
それは、栄光に満ちた道ではない。
だが、崩れない道だ。
そしてその道の先には――
誰もが「当たり前」を疑わずに生きられる、
静かで、強い国の姿があった。
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