ラノベでリアルに婚約破棄を描いてみたら、王家が傾いた

鷹 綾

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第十九話 辞退という勇気

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第十九話 辞退という勇気

 評議会の第三回会合は、夜明け前に始まった。

 窓の外は、まだ薄暗い。
 だが、円卓に集まった者たちの顔には、迷いよりも覚悟があった。

「本日は、三名の候補者から意思を確認する」

 国王の声は、低く、しかし明瞭だった。

「受諾か、辞退か。
 理由は問わない」

 それが、今回の選び方だった。

 最初に呼ばれたのは、北方伯の嫡男だった。

 若く、堅実で、評判も悪くない。

 彼は一歩前に出て、短く頭を下げた。

「辞退いたします」

 一瞬、空気が揺れた。

 だが、誰も驚かなかった。

「理由を述べても?」

 宰相の問いに、彼は首を振る。

「述べれば、誰かの判断に影を落とします。
 それは、今後の国にとって不要です」

 その言葉に、司教が小さく祈りを捧げた。

「勇気ある判断です」

 二人目は、南方の侯爵家当主。

 実務能力は高く、教会との関係も良好。

 だが、彼もまた、辞退を選んだ。

「私は、王を支える側に向いています。
 決断の最終責任を負う器ではない」

 それは、謙遜ではない。
 自己理解だった。

 円卓の空気が、さらに引き締まる。

 残るは、一名。

 名を呼ばれた人物は、しばらく沈黙したまま立っていた。

「……受諾します」

 声は、静かだった。

「ただし、条件があります」

 国王は、頷く。

「述べよ」

「私は、独断で国を動かしません。
 評議会の合議を、形式ではなく実質として尊重する」

 その言葉に、誰かが小さく息を呑んだ。

 王権を縛る宣言。
 だが、それを聞いても、反対は出ない。

「もう一つ」

 彼は続ける。

「婚姻については、国家条約としてのみ扱う。
 感情は、私の私生活に留める」

 誰もが、理解していた。

 この国が支払った代償の、核心だ。

 国王は、ゆっくりと立ち上がった。

「……よろしい」

 それ以上の言葉は、不要だった。

 一方、エノー公爵邸。

 イザベル・ド・エノー公爵令嬢は、会合の結果を知らされ、短く息を吐いた。

「二人が辞退し、一人が受諾……」

 侍女が、慎重に尋ねる。

「驚きませんか?」

「いいえ」

 イザベルは、首を横に振る。

「むしろ、安心しました」

 辞退できる者がいる。
 辞退を許される空気がある。

 それこそが、この国が変わった証だ。

「王になりたい者が王になる国は、危うい」

 イザベルは、静かに言う。

「王になってもいい、と覚悟した者が選ばれるべきです」

 同じ頃、修道院。

 マクシミリアンは、写本室で黙々と筆を動かしていた。

 外の出来事は、ほとんど伝えられない。
 だが、噂だけは、どうしても耳に入る。

「……二人が辞退?」

 小さく呟く。

「そんなことが……許されるのか」

 かつての彼には、想像すらできなかった。

 選ばれることを拒む自由。
 それを、制度が認めるという発想。

 彼は、ふと筆を止める。

「……私には、なかった」

 いや、あったのだ。

 だが、見ようとしなかった。

 夜。

 王城の高台から、灯りが一つ、また一つとともされる。

 それは、祝賀ではない。
 次の朝を迎えるための、静かな準備だ。

 イザベルは、遠くの灯りを見つめながら、心の中で確信していた。

 この国は、ようやく――
 王を“欲しがらない”という強さを手に入れたのだと。

 そしてそれこそが、
 最も壊れにくい未来への、一歩だった。
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