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第8話:革命に必要なのは飢えですわ
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第8話:革命に必要なのは飢えですわ
フォーマルハウト公爵邸の地下室は、夜の静寂に包まれていた。
暖炉の炎がゆらゆらと揺れ、アルキオーネの白い髪を赤く染めている。
彼女は大きな地図を広げ、指で王都の流通ルートをなぞっていた。
硬質小麦の流れは、貴族商会が独占している赤い線で示され、庶民の市場はほとんど空白だった。
クラリスが、静かに報告書を差し出した。
「お嬢様。甘味断絶令が布告されてから、貴族たちの反応が激しくなっています。
舞踏会は台無し、紅茶に砂糖を入れられないという不満が爆発しています」
アルキオーネは、ゆったりと紅茶を啜った。
彼女自身も、甘味を断ち続けている。
その味は、苦く、しかし清々しかった。
「ふふ……ようやく気づき始めたのですわね。
スイーツが消えるというのは、ただの『贅沢の喪失』ではないのだと」
クラリスが心配そうに言った。
「お嬢様……貴族たちの反発が、軍を動かすかもしれません。
菓子工房の強奪はすでに五軒に達し、
王宮は本気で私たちを排除しようとしています」
アルキオーネは、カップを置いた。
ぱたり、という音が、静かな威圧となった。
「構いませんわ。
貴族たちは、菓子が高額で自分たちのものだと思い込んでいる。
だからこそ、甘味がなくなったときの絶望は大きい。
彼らの虚飾を剥がすには、飢えが必要なのですわ」
彼女は、地図に赤い線を引いた。
それは、次の標的となる菓子工房の場所だった。
「革命に必要なのは、刃ではなく飢えですわ。
貴族たちが本物の飢えを知れば、
彼らの思い込みは崩れます。
そして、民衆は、私の味方になる」
クラリスは、深く頭を下げた。
「お嬢様の覚悟、痛いほどわかります。
ただ……お体は大丈夫ですか?
甘味を断ち続け、麦粥だけで過ごす日々が続いています」
アルキオーネは、静かに微笑んだ。
「問題ありません。
民が飢えている間は、私も同じ苦しみを分かち合いますわ。
悪役令嬢とは、嫌われ、誤解され、そして――正義を通す者のことですわ」
彼女は、立ち上がり、窓辺に近づいた。
外は暗く、王都の灯りがまばらに揺れている。
その灯りの下で、飢えた民衆が眠っている。
「クラリス。
次の配給を大規模にしますわ。
今夜のうちに、六軒目の工房を強奪し、
クラッカーを王都全域に配給する。
民衆に、希望を与えますわ」
クラリスは、頷いた。
「承知いたしました。
私兵を手配します」
アルキオーネは、地図に指を置いた。
「貴族たちは、菓子が高級品だと思い込んでいる。
高額だからこそ価値があると。
けれど、私は証明しますわ。
菓子は、民の命を繋ぐものにもなり得ることを」
彼女は、静かに呟いた。
「馬鹿な貴族どもは、クラッカーでもかじってなさい。
1/4しかあげませんけど、ダイエットにちょうどいいですわ」
その言葉に、クラリスは小さく息を呑んだが、
すぐに微笑んだ。
「お嬢様の逆襲、必ず成功します」
夜が深まる中、
アルキオーネは馬車に乗り込んだ。
私兵たちが、闇に溶け込むように六軒目の工房へ向かった。
工房は、貴族街の奥深くにあった。
警備は厳重だったが、フォーマルハウト家の私兵は訓練された精鋭だった。
扉を静かに開き、内部に雪崩れ込む。
「何者だ!」
警備兵が剣を抜いたが、
私兵たちが一瞬で制圧した。
アルキオーネは、ゆっくりと工房の中へ入った。
甘い香りが充満し、
棚にはケーキ、タルト、クッキーが山積み。
軟質小麦の袋が積まれていた。
「素晴らしい在庫ですわね。
これをすべて、奪いますわ」
職人たちが、怯えた顔で立っていた。
一人の若い職人が、震える声で言った。
「お嬢様……これは伯爵の財産……」
アルキオーネは、優しく、しかし冷たく答えた。
「あなたたちの作った菓子は、貴族の贅沢品ではなく、
民の命を繋ぐものになりますわ。
誇りに思いなさい」
職人たちは、言葉を失っていた。
私兵たちが、材料と完成品を運び出す。
そのとき、伯爵の執事が飛び出してきた。
「何事だ!
公爵令嬢、こんなことをすれば、反逆罪だ!」
アルキオーネは、ゆっくりと振り返った。
「反逆罪?
ふふ……貴族たちが、民のパンを奪い、飢えさせていることの方が、
よほど罪深いと思いませんか?」
執事は、顔を真っ赤にした。
「民など知ったことか!
菓子は貴族のためのものだ!
高額だからこそ、価値がある!」
アルキオーネの瞳が、鋭く光った。
「高額だから価値がある?
それは、貴族たちの思い込みに過ぎませんわ。
今夜から、その思い込みは崩れます。
あなたたちの菓子は、民の手に渡るのですわ」
私兵たちが執事を押さえ、工房の扉を閉めた。
奪った材料と菓子は、馬車に積み込まれていく。
アルキオーネは、最後に職人たちに向き直った。
「あなたたちの作った菓子は、貴族の贅沢品ではなく、
民の希望になるのですわ」
職人たちは、言葉を失っていた。
アルキオーネは、馬車に戻り、静かに呟いた。
「馬鹿な貴族どもは、クラッカーでもかじってなさい。
1/4しかあげませんけど、ダイエットにちょうどいいですわ」
馬車は、王都の闇を抜け、配給所へと向かった。
夜明け前に、六軒目の強奪は成功した。
配給所では、すでに民衆が列をなしていた。
アルキオーネは、クラッカーを手に、
一人ひとりに配った。
「おいしい……!
ありがとう、公爵令嬢様……」
子どもが、涙を浮かべて言った。
「クラッカー様……」
アルキオーネは、優しく微笑んだ。
「これからは、毎日配給しますわ。
パンがないなら、お菓子を食べていただくのです」
民衆の歓喜が、王都に広がっていった。
一方、王宮では、セドリックが苛立った声を上げていた。
「あの女……
菓子を奪い続けているだと?
甘味断絶令など、意味がない!」
貴族たちは、顔を青ざめさせた。
「殿下……このままでは、舞踏会が……」
セドリックは、拳を握った。
「反逆者だ。
あの女を、すぐに捕らえろ!」
しかし、アルキオーネの逆襲は、
静かに、しかし確実に広がり始めていた。
フォーマルハウト公爵邸の地下室は、夜の静寂に包まれていた。
暖炉の炎がゆらゆらと揺れ、アルキオーネの白い髪を赤く染めている。
彼女は大きな地図を広げ、指で王都の流通ルートをなぞっていた。
硬質小麦の流れは、貴族商会が独占している赤い線で示され、庶民の市場はほとんど空白だった。
クラリスが、静かに報告書を差し出した。
「お嬢様。甘味断絶令が布告されてから、貴族たちの反応が激しくなっています。
舞踏会は台無し、紅茶に砂糖を入れられないという不満が爆発しています」
アルキオーネは、ゆったりと紅茶を啜った。
彼女自身も、甘味を断ち続けている。
その味は、苦く、しかし清々しかった。
「ふふ……ようやく気づき始めたのですわね。
スイーツが消えるというのは、ただの『贅沢の喪失』ではないのだと」
クラリスが心配そうに言った。
「お嬢様……貴族たちの反発が、軍を動かすかもしれません。
菓子工房の強奪はすでに五軒に達し、
王宮は本気で私たちを排除しようとしています」
アルキオーネは、カップを置いた。
ぱたり、という音が、静かな威圧となった。
「構いませんわ。
貴族たちは、菓子が高額で自分たちのものだと思い込んでいる。
だからこそ、甘味がなくなったときの絶望は大きい。
彼らの虚飾を剥がすには、飢えが必要なのですわ」
彼女は、地図に赤い線を引いた。
それは、次の標的となる菓子工房の場所だった。
「革命に必要なのは、刃ではなく飢えですわ。
貴族たちが本物の飢えを知れば、
彼らの思い込みは崩れます。
そして、民衆は、私の味方になる」
クラリスは、深く頭を下げた。
「お嬢様の覚悟、痛いほどわかります。
ただ……お体は大丈夫ですか?
甘味を断ち続け、麦粥だけで過ごす日々が続いています」
アルキオーネは、静かに微笑んだ。
「問題ありません。
民が飢えている間は、私も同じ苦しみを分かち合いますわ。
悪役令嬢とは、嫌われ、誤解され、そして――正義を通す者のことですわ」
彼女は、立ち上がり、窓辺に近づいた。
外は暗く、王都の灯りがまばらに揺れている。
その灯りの下で、飢えた民衆が眠っている。
「クラリス。
次の配給を大規模にしますわ。
今夜のうちに、六軒目の工房を強奪し、
クラッカーを王都全域に配給する。
民衆に、希望を与えますわ」
クラリスは、頷いた。
「承知いたしました。
私兵を手配します」
アルキオーネは、地図に指を置いた。
「貴族たちは、菓子が高級品だと思い込んでいる。
高額だからこそ価値があると。
けれど、私は証明しますわ。
菓子は、民の命を繋ぐものにもなり得ることを」
彼女は、静かに呟いた。
「馬鹿な貴族どもは、クラッカーでもかじってなさい。
1/4しかあげませんけど、ダイエットにちょうどいいですわ」
その言葉に、クラリスは小さく息を呑んだが、
すぐに微笑んだ。
「お嬢様の逆襲、必ず成功します」
夜が深まる中、
アルキオーネは馬車に乗り込んだ。
私兵たちが、闇に溶け込むように六軒目の工房へ向かった。
工房は、貴族街の奥深くにあった。
警備は厳重だったが、フォーマルハウト家の私兵は訓練された精鋭だった。
扉を静かに開き、内部に雪崩れ込む。
「何者だ!」
警備兵が剣を抜いたが、
私兵たちが一瞬で制圧した。
アルキオーネは、ゆっくりと工房の中へ入った。
甘い香りが充満し、
棚にはケーキ、タルト、クッキーが山積み。
軟質小麦の袋が積まれていた。
「素晴らしい在庫ですわね。
これをすべて、奪いますわ」
職人たちが、怯えた顔で立っていた。
一人の若い職人が、震える声で言った。
「お嬢様……これは伯爵の財産……」
アルキオーネは、優しく、しかし冷たく答えた。
「あなたたちの作った菓子は、貴族の贅沢品ではなく、
民の命を繋ぐものになりますわ。
誇りに思いなさい」
職人たちは、言葉を失っていた。
私兵たちが、材料と完成品を運び出す。
そのとき、伯爵の執事が飛び出してきた。
「何事だ!
公爵令嬢、こんなことをすれば、反逆罪だ!」
アルキオーネは、ゆっくりと振り返った。
「反逆罪?
ふふ……貴族たちが、民のパンを奪い、飢えさせていることの方が、
よほど罪深いと思いませんか?」
執事は、顔を真っ赤にした。
「民など知ったことか!
菓子は貴族のためのものだ!
高額だからこそ、価値がある!」
アルキオーネの瞳が、鋭く光った。
「高額だから価値がある?
それは、貴族たちの思い込みに過ぎませんわ。
今夜から、その思い込みは崩れます。
あなたたちの菓子は、民の手に渡るのですわ」
私兵たちが執事を押さえ、工房の扉を閉めた。
奪った材料と菓子は、馬車に積み込まれていく。
アルキオーネは、最後に職人たちに向き直った。
「あなたたちの作った菓子は、貴族の贅沢品ではなく、
民の希望になるのですわ」
職人たちは、言葉を失っていた。
アルキオーネは、馬車に戻り、静かに呟いた。
「馬鹿な貴族どもは、クラッカーでもかじってなさい。
1/4しかあげませんけど、ダイエットにちょうどいいですわ」
馬車は、王都の闇を抜け、配給所へと向かった。
夜明け前に、六軒目の強奪は成功した。
配給所では、すでに民衆が列をなしていた。
アルキオーネは、クラッカーを手に、
一人ひとりに配った。
「おいしい……!
ありがとう、公爵令嬢様……」
子どもが、涙を浮かべて言った。
「クラッカー様……」
アルキオーネは、優しく微笑んだ。
「これからは、毎日配給しますわ。
パンがないなら、お菓子を食べていただくのです」
民衆の歓喜が、王都に広がっていった。
一方、王宮では、セドリックが苛立った声を上げていた。
「あの女……
菓子を奪い続けているだと?
甘味断絶令など、意味がない!」
貴族たちは、顔を青ざめさせた。
「殿下……このままでは、舞踏会が……」
セドリックは、拳を握った。
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