婚約破棄された悪役令嬢、パンがなかったので貴族から菓子を奪って民衆に食べさせますわ! 馬鹿な貴族どもは、クラッカーでもかじってなさい 1/4

鷹 綾

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第9話:第五王子レオニスの登場

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 第9話:第五王子レオニスの登場

王都の下町は、朝の霧に包まれていた。  
配給所には、すでに長い列ができていた。  
アルキオーネは黒いマントを羽織り、フードを深く被って、  
クラッカーの箱を抱えて立っていた。  
今日も、クラッカー配給の日だった。

民衆は、昨日よりも笑顔で並んでいた。  
子どもたちは母親の裾を握り、  
老人たちは杖に寄りかかり、  
皆の目に、希望の光が宿り始めていた。

「おはようございますわ。  
今日も、クラッカーをお配りしますわ」

アルキオーネは、優しく声をかけ、  
一人ひとりにクラッカーを手渡した。

「お嬢様……ありがとうございます」  
「クラッカー様……!」

民衆の声が、温かく響く。  
アルキオーネは、静かに微笑んだ。  
彼女の心は、冷たい氷の薔薇ではなく、  
優しい炎で燃えていた。

そのとき、列の端に、  
一人の青年が立っていた。  
よれたマント、砂埃まみれのブーツ。  
しかし、目元には不思議な威厳があった。

青年は、ゆっくりと列に並び、  
アルキオーネの前に立った。

「……失礼。  
アルキオーネ様」

アルキオーネの瞳が、わずかに細まる。

「どなたですの?」

「私の名は、レオニス。  
王宮に住まう者です」

クラリスが咄嗟に前に出る。

「王宮……!?  
貴族? 刺客かもしれません、お嬢様!」

アルキオーネは、静かに手を挙げた。

「落ち着きなさい、クラリス。  
レオニス、とおっしゃいましたね?  
第一王子派の方でなくて?」

青年――第五王子レオニスは、フードを取った。  
彼の顔は、穏やかで、しかし強い意志に満ちていた。

「兄たちの振る舞いを恥じているだけの末弟です。  
……今日、私は民の列に並び、クラッカーをいただきました」

アルキオーネは、静かに彼を見つめた。

「……それは、それは。王子にしては謙虚でいらっしゃる」

レオニスは、真剣な瞳で言った。

「アルキオーネ様。  
あれほど小さな菓子に、なぜ、あたたかさが宿るのですか?」

アルキオーネは、わずかに目を細めた。

「それはきっと、“飢え”を通ってきた人間にしか、焼けない味だからですわ」

レオニスは、静かに頷いた。

「飢えを、通る……」

アルキオーネは、ゆっくりと言った。

「そうです。  
食べるという行為は、命をつなぐ営みであると同時に、  
“誰かに与えられる”ことで、人は希望を感じるものですわ」

レオニスは、しばらく黙っていた。  
そして、ゆっくりと深く頭を下げた。

「私は、あなたに教えを請いたい。  
この国を救いたいのです。  
力を貸していただけますか?」

アルキオーネは、静かに彼を見つめた。

「……生意気なことを」

そう言いながらも、彼女の瞳には、  
初めて“対等な相手”を見たような光が宿っていた。

「では王子、条件がひとつ」

「……なんなりと」

「私のクラッカーを、“贅沢”とは呼ばせないでくださいな」

レオニスは、静かに頷いた。

「はい。――これは、命の味です」

アルキオーネは、クラッカーを一枚、レオニスに手渡した。  
彼は、ゆっくりと受け取り、一口かじった。

「……あたたかい」

アルキオーネは、優しく微笑んだ。

「貴族たちは、菓子が高額で自分たちのものだと思い込んでいる。  
けれど、私たちは証明しますわ。  
菓子は、民の命を繋ぐものにもなり得ることを」

レオニスは、静かに言った。

「私も、その証明に加わりたい。  
改革派の貴族や軍部に、声をかけています。  
王宮内部から、動きます」

アルキオーネは、静かに頷いた。

「では、王子。  
共に、この国を変えましょう」

レオニスは、深く頭を下げた。

「ありがとうございます、アルキオーネ様」

二人は、配給所の前で、  
静かに握手を交わした。  
民衆が、その光景を見て、  
歓声を上げた。

「クラッカー様と王子様……!」

アルキオーネは、クラッカーを配り続けながら、  
心の中で呟いた。

「貴族たちは、菓子が高級品だと思い込んでいる。  
けれど、今、私たちはその幻想を砕き始めましたわ」

配給は続き、  
民衆の列は長く続いた。  
レオニスも、列の端でクラッカーを受け取り、  
民衆と語らった。

「王子様……本当にありがとうございます」  
「クラッカー様と一緒にいてくださって……」

レオニスは、穏やかに微笑んだ。

「私も、クラッカー様に教えられたのです。  
飢えを知るということの意味を」

アルキオーネは、静かに見守っていた。  
彼女の心に、  
新しい同志の存在が、温かい光を灯した。

一方、王宮では、セドリックが苛立った声を上げていた。

「第五王子が、あの女と接触しただと?  
馬鹿な……  
あの末弟が、何を企んでいる」

貴族たちは、顔を青ざめさせた。

「殿下……このままでは、  
改革派が動き出すかもしれません」

セドリックは、拳を握った。

「反逆者だ。  
あの女とレオニスを、すぐに捕らえろ!」

しかし、アルキオーネの逆襲は、  
静かに、しかし確実に広がり始めていた。

配給所の朝は、  
希望の光で満ちていた。
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