永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる(オリジナルバージョン)

鷹 綾

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2-1 『帝国からの招待状と、年寄り皇帝の悪戯』

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イソファガス家の朝は、いつも通り静かに始まった。
山々に囲まれたこの領地は、王都よりもわずかに気温が低く、季節の変わり目には澄んだ空気が屋敷の隅々まで行き渡る。窓を開ければ、冷たさを含んだ風が頬を撫で、自然と背筋が伸びるような清々しさがあった。

 そんな穏やかな朝のひととき。
 キクコ・イソファガスは、珍しく書斎で紅茶を楽しんでいた。瑠璃色の瞳で窓の外をぼんやりと眺めながら、ふっと小さくため息をつく。

「こんなに穏やかな朝だと……逆に、面倒な手紙が届く予感がするのよね……」

 まるでその言葉を待っていたかのように、扉が軽くノックされる。
 次の瞬間、現領主である“お祖父様”が姿を現した。もちろん、実際にはキクコの弟の孫にあたる人物だが、表向きの関係では、彼女の祖父ということになっている。

「キクコ、また厄介なものが来たぞ」

「また求婚状? それとも、聖女復帰の打診かしら?」

「どちらでもない。今度は……帝国からの招待状だ」

「帝国? ……まさか」

「その“まさか”だ。ネオ皇帝陛下から、お前を名指しでの招待状だ」

 キクコは眉をひそめ、手にしていた紅茶のカップをそっとソーサーに戻した。

「……あの爺さん、まだ生きてたの? もう百歳は優に越えてるでしょう」

「お前が言うな。お前だって三百年は越えているだろう」

「失礼ね。私は永遠の十七歳です」

 即答するキクコに、現領主は思わず額を押さえた。

「で、どうするつもりだ。さすがに断るわけにもいかんだろう」

「もちろん行くわ。面白そうだもの」

「……また何か企んでいるな?」

「お祖父様、人聞きの悪いことを言わないでくださいな。私はただ、礼儀正しく祝賀に参加するだけですわ」

 その微笑みを見た瞬間、現領主は確信した。
 ——この令嬢は、間違いなく何かをやらかす。

 キクコは招待状を受け取り、丁寧に封を切った。
 中には、金の縁取りが施された格式高い文面と、皇帝自らの筆跡と思しき短いメッセージが添えられている。

『愛しきキクコ嬢へ。
 そろそろ我が孫をもらってくれても良い頃合いではないか?
 君ならば、あの年寄りじみた私の孫にも、ちょうど良いスパイスになるだろう』

「……くだらないわね」

 そう呟きながらも、キクコは少し考え込むように視線を落とす。

「そういえば……その孫とやらから、最近やけに贈り物が届いていたわね……。何を目論んでいるのか、知るにはちょうどいい機会かもしれないわ」

 くすりと、楽しげに笑う。
 ネオ皇帝とは、かつて戦乱の時代に幾度も戦場を共に駆け抜けた因縁の相手だ。長年の悪友——いや、戦友と呼ぶべき存在。
 ロリババァなどと揶揄されることもあったが、不思議と憎めない相手でもあった。

「ふむ……舞踏会、ね。赤いドレスでも引っ張り出すべきかしら」

 独りごちながら、キクコはふと遠くを見るような目になる。

(……でも、この招待状。どう考えても、単なる社交で終わる気がしないわね)

 三百年前と変わらぬ姿のまま、イソファガス家の令嬢が帝国の舞踏会に姿を現す。
 その意味を正しく理解している者は、もはやこの世にそう多くは残っていない。

 そして、それがどれほど大きな波紋を呼ぶのか——。

 けれど、キクコはどこか楽しそうだった。

「さて……帝国の坊やは、私に一体、何を贈ってくれるのかしら」

 その言葉には、期待と皮肉、そしてほんのわずかな寂しさが、静かに溶け込んでいた。
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