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第1話 婚約破棄されましたが、お昼はどうしましょう
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第1話 婚約破棄されましたが、お昼はどうしましょう
「……以上の理由により、君との婚約は破棄する」
王宮の謁見の間。
王太子の口から、淡々と告げられたその言葉に、場の空気がわずかにざわめいた。
「君の魔法は、あまりにも実用性に欠ける。戦えず、治せず、国の役にも立たない。
その点、彼女は若く、優秀で、聖女としての資質も十分だ」
そう言って、王太子は隣に立つ少女へ視線を向ける。
白を基調とした神殿装束に身を包んだ、新しい“聖女候補”。
その光景を前にして、エオリア・フロステリアは――
「……あの」
ぽつりと声を出した。
王太子が、いかにも哀れみを含んだ表情でこちらを見る。
「何か、言い残すことがあるなら聞こう。君も納得してくれるだろう?」
エオリアは少しだけ考え、そして首を傾げた。
「お昼は、ここで出るのでしょうか?」
「……は?」
思わず漏れた王太子の間の抜けた声に、謁見の間が完全に静まり返った。
「いえ。朝から呼び出されていましたでしょう?
このまま帰るのなら、途中で何か食べないと……」
本気で悩んでいる声だった。
「き、君……今、自分が何を言われたかわかっているのか?」
「婚約破棄、ですわよね?」
エオリアはあっさり頷いた。
「役に立たない魔法しか使えないから、いらない、と。
それで、新しい方とご一緒になる。そういうお話でしたわ」
「……なら、なぜそんなに落ち着いている」
「落ち着いて、いけませんの?」
むしろ不思議そうに問い返され、王太子は言葉に詰まる。
エオリアは内心、別のことを考えていた。
(このあと、厨房に寄れるかしら……。
昨日の残りのパン、まだあったはず……)
彼女の魔法は、確かに王太子の言う通りだった。
・部屋の温度を一定に保つ魔法
・香りを良くする魔法
・飲み物をちょうどいい温度に冷ます魔法
戦場では役に立たない。
怪我も治せない。
国を救うような奇跡も起こさない。
――だが。
(不便な生活を我慢しろと言われるほうが、よほど理不尽ですわ)
エオリアにとって、魔法とはそもそもそういうものだった。
「誰かのため」よりも、「自分が快適に生きるため」。
「君は追放だ」
王太子が、ようやく威厳を取り戻したように言い放つ。
「南方の未開地へ向かってもらう。
暑く、湿気が多く、魔獣も多い。
だが――君には、それが相応しい」
未開地。
普通の貴族令嬢なら、泣き崩れる言葉だっただろう。
だがエオリアは、少しだけ眉を寄せただけだった。
「……暑い、のですか?」
「そうだ」
「湿気も?」
「ああ」
「……それは、困りますわね」
王太子は勝ち誇ったように頷いた。
「後悔するがいい。君の“無駄遣いの魔法”など、何の役にも立たない場所だ」
その瞬間、エオリアは小さく息をついた。
(エアコン、作らないと……)
不快な環境は、我慢するものではない。
改善するものだ。
「では、荷造りをいたしますわ」
エオリアは深く一礼した。
「これまでのお世話、ありがとうございました。
……あ、最後に一つだけ」
「まだ何か?」
「厨房に寄ってから出発しても、よろしいでしょうか?」
「……なぜだ」
「お腹が空きましたの」
堂々と言い切られ、王太子は完全に言葉を失った。
◆
こうして、エオリア・フロステリアは王宮を後にした。
婚約破棄されたことに、未練はなかった。
怒りも、悲しみも、復讐心も――正直、浮かばなかった。
それよりも。
(南方……暑いなら、冷たいものが欲しくなりますわね)
馬車の中で、エオリアはすでに次のことを考えていた。
冷たい飲み物。
甘いお菓子。
できれば、毎日食べたい。
(自分が美味しいものを食べるために、魔法を使う。
それだけですわ)
それが結果的に、誰かを喜ばせることになろうと。
国を揺るがすことになろうと。
そんなことは――
(余ったら、売ればいいだけですもの)
まだ、この時の彼女は知らなかった。
自分の「ついで」が、どれほどの騒ぎを呼ぶことになるのかを。
だが一つだけ、確かなことがあった。
エオリアは、これからも――
働くつもりは、まったくなかった。
「……以上の理由により、君との婚約は破棄する」
王宮の謁見の間。
王太子の口から、淡々と告げられたその言葉に、場の空気がわずかにざわめいた。
「君の魔法は、あまりにも実用性に欠ける。戦えず、治せず、国の役にも立たない。
その点、彼女は若く、優秀で、聖女としての資質も十分だ」
そう言って、王太子は隣に立つ少女へ視線を向ける。
白を基調とした神殿装束に身を包んだ、新しい“聖女候補”。
その光景を前にして、エオリア・フロステリアは――
「……あの」
ぽつりと声を出した。
王太子が、いかにも哀れみを含んだ表情でこちらを見る。
「何か、言い残すことがあるなら聞こう。君も納得してくれるだろう?」
エオリアは少しだけ考え、そして首を傾げた。
「お昼は、ここで出るのでしょうか?」
「……は?」
思わず漏れた王太子の間の抜けた声に、謁見の間が完全に静まり返った。
「いえ。朝から呼び出されていましたでしょう?
このまま帰るのなら、途中で何か食べないと……」
本気で悩んでいる声だった。
「き、君……今、自分が何を言われたかわかっているのか?」
「婚約破棄、ですわよね?」
エオリアはあっさり頷いた。
「役に立たない魔法しか使えないから、いらない、と。
それで、新しい方とご一緒になる。そういうお話でしたわ」
「……なら、なぜそんなに落ち着いている」
「落ち着いて、いけませんの?」
むしろ不思議そうに問い返され、王太子は言葉に詰まる。
エオリアは内心、別のことを考えていた。
(このあと、厨房に寄れるかしら……。
昨日の残りのパン、まだあったはず……)
彼女の魔法は、確かに王太子の言う通りだった。
・部屋の温度を一定に保つ魔法
・香りを良くする魔法
・飲み物をちょうどいい温度に冷ます魔法
戦場では役に立たない。
怪我も治せない。
国を救うような奇跡も起こさない。
――だが。
(不便な生活を我慢しろと言われるほうが、よほど理不尽ですわ)
エオリアにとって、魔法とはそもそもそういうものだった。
「誰かのため」よりも、「自分が快適に生きるため」。
「君は追放だ」
王太子が、ようやく威厳を取り戻したように言い放つ。
「南方の未開地へ向かってもらう。
暑く、湿気が多く、魔獣も多い。
だが――君には、それが相応しい」
未開地。
普通の貴族令嬢なら、泣き崩れる言葉だっただろう。
だがエオリアは、少しだけ眉を寄せただけだった。
「……暑い、のですか?」
「そうだ」
「湿気も?」
「ああ」
「……それは、困りますわね」
王太子は勝ち誇ったように頷いた。
「後悔するがいい。君の“無駄遣いの魔法”など、何の役にも立たない場所だ」
その瞬間、エオリアは小さく息をついた。
(エアコン、作らないと……)
不快な環境は、我慢するものではない。
改善するものだ。
「では、荷造りをいたしますわ」
エオリアは深く一礼した。
「これまでのお世話、ありがとうございました。
……あ、最後に一つだけ」
「まだ何か?」
「厨房に寄ってから出発しても、よろしいでしょうか?」
「……なぜだ」
「お腹が空きましたの」
堂々と言い切られ、王太子は完全に言葉を失った。
◆
こうして、エオリア・フロステリアは王宮を後にした。
婚約破棄されたことに、未練はなかった。
怒りも、悲しみも、復讐心も――正直、浮かばなかった。
それよりも。
(南方……暑いなら、冷たいものが欲しくなりますわね)
馬車の中で、エオリアはすでに次のことを考えていた。
冷たい飲み物。
甘いお菓子。
できれば、毎日食べたい。
(自分が美味しいものを食べるために、魔法を使う。
それだけですわ)
それが結果的に、誰かを喜ばせることになろうと。
国を揺るがすことになろうと。
そんなことは――
(余ったら、売ればいいだけですもの)
まだ、この時の彼女は知らなかった。
自分の「ついで」が、どれほどの騒ぎを呼ぶことになるのかを。
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エオリアは、これからも――
働くつもりは、まったくなかった。
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