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第40話 毎日違うものが食べたいだけですわ
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第40話 毎日違うものが食べたいだけですわ
朝は、やはりいつも通りだった。
温度は一定。 湿度も安定。 遮光魔法はやや弱めに設定され、柔らかい光が寝室に差し込んでいる。
エオリア・フロステリアは、ゆっくりと目を開けた。
「……今日は、プリンの気分ですわね」
それは深い意味のある言葉ではなかった。 天啓でもなければ、使命感でもない。 ただ、そう思っただけだ。
起き上がり、寝室続きの厨房へ向かう。 全自動チョコレート製造魔法は相変わらず稼働中。 冷却箱では、昨日のバニラアイスとチョコレートアイスが静かに冷やされている。
「……少し、飽きましたわね」
贅沢な言葉だが、事実だった。 毎日同じものを食べ続けるのは、さすがに退屈である。
エオリアは制御盤の前に立ち、少しだけ考えた。
「……プリンを作れば、解決ですわ」
問題はなかった。 必要な材料は揃っている。 卵、牛乳、砂糖、バニラ。 火加減も、蒸し時間も、すべて魔法で制御できる。
ならば――作らない理由がない。
彼女は新しい魔法陣を書き始めた。 複雑さはない。 目的は明確。 効率も追求しない。
ただ「美味しいプリンを、安定して作る」ためだけの魔法。
数分後。
全自動プリン製造魔法が、静かに起動した。
「……よろしいですわね」
出来上がったプリンを一つ取り出し、スプーンを入れる。 とろりとした感触。
一口。
「満足ですわ」
その瞬間、彼女の中で次の欲が生まれた。
「……噛むものも、欲しいですわね」
エオリアは椅子に座り、少しだけ考える。
「ビスケット」 「クリーム入り」 「チョコチップも、捨てがたい」
結論は、早かった。
まず、全自動ビスケット製造魔法。 次に、全自動バニラクリームサンドビスケット製造魔法。 さらに、全自動チョコチップクッキー製造魔法。
どれも、用途は同じ。 自分が食べたい。 それだけ。
魔法陣が増え、厨房の稼働音がわずかに重なる。 しかし騒がしさはない。 すべてが自動で、淡々と進んでいく。
エレナが、控えめに声をかけた。
「……お嬢様、また新しい魔法を……?」
「ええ。毎日、同じものでは飽きますでしょう?」
「……確かに」
「それだけですわ」
誰かを癒やすためではない。 誰かを救うためでもない。 評価されるためでも、褒められるためでもない。
ただ、自分のため。
昼前。 厨房には、プリン、ビスケット、クリームサンド、チョコチップクッキーが整然と並んでいた。
明らかに多い。
「……余りましたわね」
「はい」
「捨てるのは、論外ですわ」
「はい」
「配るのは、面倒ですわ」
「……はい」
結論は、変わらない。
「売りましょう」
条件も、いつも通り。 販売は一日一回。 時間は固定。 購入は一人一回。 購入量は、制限なし。 説明なし。 質問対応なし。 売り切れたら、その日は終わり。
屋敷の門前。 屋内管理された机の上に、新しい箱が並ぶ。
プリン。 ビスケット。 バニラクリームサンド。 チョコチップクッキー。
札は、相変わらず簡素だった。
余りました。 一箱 銅貨一枚。
人々は、静かに並び、静かに買い、静かに帰っていく。 誰も理由を聞かない。 誰も意味を求めない。
それでいい。
屋敷の中で、エオリアはプリンを食べながら、ビスケットをかじる。
「……今日は、なかなか良いですわ」
ライルが苦笑しながら言う。
「また、新しい魔法ですね」
「ええ。毎日違うものが食べたいので」
「無駄な魔法が、どんどん増えていきますね」
エオリアは、首をかしげた。
「無駄……?」
少し考えてから、即座に否定する。
「いいえ。全部、必要ですわ」
「……ですよね」
夕方。 販売は終わり、門前は静まり返る。 残った箱は、ほとんどない。
エオリアはソファに戻り、満足そうに言った。
「明日は、何にしましょうか」
プリンもいい。 クッキーもいい。 まだ作っていない甘いものは、いくらでもある。
毎日、新しい無駄な魔法が生まれていく。 世界から見れば、きっと無駄。 だが――
本人にとっては、どれも必要不可欠だった。
「また余りましたわね」
少し間を置き、結論を口にする。
「まぁ……売ればいいでしょう」
彼女は、最後まで変わらない。 頑張らない。 反省しない。 成長もしない。
ただ、美味しいものを食べ続ける。
そして―― それだけで、最後まで勝ち続けた。
朝は、やはりいつも通りだった。
温度は一定。 湿度も安定。 遮光魔法はやや弱めに設定され、柔らかい光が寝室に差し込んでいる。
エオリア・フロステリアは、ゆっくりと目を開けた。
「……今日は、プリンの気分ですわね」
それは深い意味のある言葉ではなかった。 天啓でもなければ、使命感でもない。 ただ、そう思っただけだ。
起き上がり、寝室続きの厨房へ向かう。 全自動チョコレート製造魔法は相変わらず稼働中。 冷却箱では、昨日のバニラアイスとチョコレートアイスが静かに冷やされている。
「……少し、飽きましたわね」
贅沢な言葉だが、事実だった。 毎日同じものを食べ続けるのは、さすがに退屈である。
エオリアは制御盤の前に立ち、少しだけ考えた。
「……プリンを作れば、解決ですわ」
問題はなかった。 必要な材料は揃っている。 卵、牛乳、砂糖、バニラ。 火加減も、蒸し時間も、すべて魔法で制御できる。
ならば――作らない理由がない。
彼女は新しい魔法陣を書き始めた。 複雑さはない。 目的は明確。 効率も追求しない。
ただ「美味しいプリンを、安定して作る」ためだけの魔法。
数分後。
全自動プリン製造魔法が、静かに起動した。
「……よろしいですわね」
出来上がったプリンを一つ取り出し、スプーンを入れる。 とろりとした感触。
一口。
「満足ですわ」
その瞬間、彼女の中で次の欲が生まれた。
「……噛むものも、欲しいですわね」
エオリアは椅子に座り、少しだけ考える。
「ビスケット」 「クリーム入り」 「チョコチップも、捨てがたい」
結論は、早かった。
まず、全自動ビスケット製造魔法。 次に、全自動バニラクリームサンドビスケット製造魔法。 さらに、全自動チョコチップクッキー製造魔法。
どれも、用途は同じ。 自分が食べたい。 それだけ。
魔法陣が増え、厨房の稼働音がわずかに重なる。 しかし騒がしさはない。 すべてが自動で、淡々と進んでいく。
エレナが、控えめに声をかけた。
「……お嬢様、また新しい魔法を……?」
「ええ。毎日、同じものでは飽きますでしょう?」
「……確かに」
「それだけですわ」
誰かを癒やすためではない。 誰かを救うためでもない。 評価されるためでも、褒められるためでもない。
ただ、自分のため。
昼前。 厨房には、プリン、ビスケット、クリームサンド、チョコチップクッキーが整然と並んでいた。
明らかに多い。
「……余りましたわね」
「はい」
「捨てるのは、論外ですわ」
「はい」
「配るのは、面倒ですわ」
「……はい」
結論は、変わらない。
「売りましょう」
条件も、いつも通り。 販売は一日一回。 時間は固定。 購入は一人一回。 購入量は、制限なし。 説明なし。 質問対応なし。 売り切れたら、その日は終わり。
屋敷の門前。 屋内管理された机の上に、新しい箱が並ぶ。
プリン。 ビスケット。 バニラクリームサンド。 チョコチップクッキー。
札は、相変わらず簡素だった。
余りました。 一箱 銅貨一枚。
人々は、静かに並び、静かに買い、静かに帰っていく。 誰も理由を聞かない。 誰も意味を求めない。
それでいい。
屋敷の中で、エオリアはプリンを食べながら、ビスケットをかじる。
「……今日は、なかなか良いですわ」
ライルが苦笑しながら言う。
「また、新しい魔法ですね」
「ええ。毎日違うものが食べたいので」
「無駄な魔法が、どんどん増えていきますね」
エオリアは、首をかしげた。
「無駄……?」
少し考えてから、即座に否定する。
「いいえ。全部、必要ですわ」
「……ですよね」
夕方。 販売は終わり、門前は静まり返る。 残った箱は、ほとんどない。
エオリアはソファに戻り、満足そうに言った。
「明日は、何にしましょうか」
プリンもいい。 クッキーもいい。 まだ作っていない甘いものは、いくらでもある。
毎日、新しい無駄な魔法が生まれていく。 世界から見れば、きっと無駄。 だが――
本人にとっては、どれも必要不可欠だった。
「また余りましたわね」
少し間を置き、結論を口にする。
「まぁ……売ればいいでしょう」
彼女は、最後まで変わらない。 頑張らない。 反省しない。 成長もしない。
ただ、美味しいものを食べ続ける。
そして―― それだけで、最後まで勝ち続けた。
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