働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾

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第12話 何もしないための仕組みづくり

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第12話 何もしないための仕組みづくり


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 セーラは、優雅に紅茶を飲みながら――頭の中では、猛烈に考えていた。

 (……おかしいですわ)

 (線を引いたはずなのに、なぜ仕事が減らないのかしら)

 確かに彼女は言った。

 「運営には関わらない」
 「決定はしない」
 「責任は負わない」

 ――だが、人は都合よく解釈する生き物である。

 「では、方針だけでも」  「方向性だけ、軽く」  「最終判断は我々がしますので!」

 (それが一番危ないのですわ……!)

 “軽く”
 “少しだけ”
 “ついでに”

 その積み重ねが、前世の自分を過労死に追い込んだのだ。

 セーラは、カップを置き、すっと背筋を伸ばした。

 (ならば――)

 (私は、自分が動かなくて済む仕組みを作りますわ)

 働かないためには、断るだけでは足りない。
 代わりに動く“仕組み”が必要なのだ。


---

 数日後。

 商人ギルドに、一枚の通達が貼り出された。

 『財務管理部・運用指針改訂』

 内容は、こうだった。

 ・顧問(セーラ)は、助言を「文章」でのみ行う
 ・即答、口頭相談は禁止
 ・判断は必ず担当者二名以上で行う
 ・顧問への問い合わせは、週一回に集約
 ・最終決定権は、必ずギルド側が持つ

 商人たちは、ざわついた。

 「……これ、奥様が考えたのか?」  「仕事を減らすための規則では……?」

 だが、読み進めるうちに、気づく。

 「いや、違う」  「むしろ、俺たちが“考える”ための形だ」

 その通りだった。

 セーラは、“答え”を奪ったのではない。  “自分で考える余地”を、強制的に作ったのだ。


---

 屋敷にて。

 リチャードは、その文書を読み、感心したように息をついた。

 「見事だな」

 「……何がです?」

 「君は、“仕事を減らす”と言いながら」

 「組織を一段、成熟させている」

 セーラは、むっとした顔になる。

 「私は、楽をしたいだけですわ」

 「その“楽”が、普通は一番難しい」

 リチャードは、くすりと笑った。

 「人は、便利な存在に依存する」

 「だが君は、依存させない仕組みを作った」

 「それは、指導者ではなく――」

 「……?」

 「“自由を尊重する人間”のやり方だ」

 セーラは、少しだけ目を丸くし――すぐに顔を逸らした。

 「大げさですわ」

 「いいえ」

 「君は、“働かないために世界を整えている”」


---

 その夜。

 セーラはベッドの中で、満足そうに伸びをした。

 (よし……)

 (これで、私が直接動く必要はなくなります)

 (あとは、紅茶とお菓子と、昼寝ですわ)

 しかし――。

 翌朝、執事が申し訳なさそうに告げた。

 「奥様……」

 「今度は、貴族の方々が“勉強会を”と……」

 セーラは、天井を見上げた。

 「……なぜ、仕組みを作ると、波及するのかしら」

 だが、すぐにふっと笑う。

 「仕方ありませんわね」

 「では、貴族向けにも“自分で考える仕組み”を作るだけです」

 そう。

 彼女は、まだ理解していなかった。

 この時点で――
 彼女はすでに「改革者」として認識されていることを。

 だが本人は、あくまでこう思っていた。

 「私は、働かないために動いているだけですわ」

 その姿勢こそが、
 最も厄介で、最も強力だということを――
 誰よりも、周囲が理解し始めていた。

 こうしてセーラは、今日も一歩前進する。

 何もしない未来のために。
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