働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾

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第15話 「何もしないために、制度を作りました」

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第15話 「何もしないために、制度を作りました」


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 翌朝。

 セーラはベッドの中で、強い決意を固めていた。

 「今日は……本当に……何もしません」

 昨日は貴族会議、貴族向け指針の作成と、完全に“働きすぎ”だった。  これはいけない。前世の二の舞だ。

 ――今日は休む。  ――絶対に休む。

 そう心に誓い、ゆっくりと起き上がった瞬間。

 「奥様」

 控えめな声。

 (来ましたわね……)

 振り向くと、メイド長が少し申し訳なさそうな顔で立っていた。

 「屋敷の会計担当より、確認のお願いが……」

 「……五分だけですわ」

 セーラは即座に条件を付けた。

 「五分以上かかるなら、今日は対応しません」

 「かしこまりました!」


---

 結果から言うと――三分で終わった。

 セーラが帳簿を一瞥し、赤字になりかけている箇所を指摘し、改善案を一言添えただけだ。

 「これで、来月は問題ありません」

 「……すごい……」

 担当者が呆然とする中、セーラは立ち上がる。

 「はい、終了ですわ」

 (やれば早い。でも、やらない)

 これが、今の彼女のスタンスだった。


---

 朝食後、庭で紅茶を飲んでいると、リチャードが向かいに座った。

 「本当に、今日は休むつもりか?」

 「ええ。本気です」

 セーラは即答した。

 「だから、お願いが一つあります」

 「お願い?」

 「私に直接仕事を持ってこないでください」

 リチャードは、少し驚いたように目を瞬かせた。

 「……それは、珍しい要望だな」

 「理由は単純ですわ」

 セーラは、静かに続けた。

 「“私がいるから何とかなる”状態は、長期的に見て最悪です」

 「依存されますし、私も逃げられません」

 「だから――」

 彼女は、きっぱりと言った。

 「窓口を作ります」


---

 その日の午後。

 セーラは、最低限の労力で最大限の“仕事削減”を行うため、ある計画を実行に移した。

 名称はシンプル。

 『業務整理室』

 ・商人ギルド
 ・屋敷運営
 ・貴族からの相談

 すべての案件は、まずここを通す。

 内容を分類し、
 「即却下」「担当者に委任」「本人判断が必要」
 の三つに振り分ける。

 そして――

 「本人判断が必要」以外は、セーラの元へ来ない。


---

 リチャードは、その仕組みを見て、思わず感嘆した。

 「……これは」

 「はい。“私を守るための壁”です」

 セーラは、あっさり言った。

 「私は働きたくありません」

 「でも、全部断ると混乱が起きる」

 「だから、“考える余地”だけを残します」

 「考えた上で判断したい人だけ、私のところに来ればいい」

 「……なるほどな」

 リチャードは、深く頷いた。

 「君は、“親切”をやめたわけではない」

 「“整理した”だけだ」

 「そういうことですわ」


---

 数日後。

 驚くべき変化が起きた。

 ・些細な相談が激減
 ・自分たちで判断する商人が増加
 ・貴族からの曖昧な依頼が消滅

 そして、残った案件は――

 本当に重要なものだけ。

 「……静かですわ」

 セーラは、心から満足そうに呟いた。

 「ようやく、“休める空気”になりました」

 リチャードは、そんな彼女を見て微笑んだ。

 「だが、君はまた一段階、影響力を増したな」

 「え?」

 「誰もが、“君を通さないと話が進まない”と理解した」

 「……あ」

 セーラは、少しだけ固まった。

 「……でも」

 彼女はすぐに、肩をすくめる。

 「通さなくてもいい仕組みにしましたもの」

 「困るのは、“考えない人”だけです」

 リチャードは、小さく笑った。

 「君は、本当に――」

 「ええ、分かっています」

 セーラは、紅茶を一口飲みながら言った。

 「私は、働かないために“世界を整えている”んです」


---

 その夜。

 セーラは、久しぶりに何も考えず、ソファで本を読んでいた。

 仕事の書類はない。  相談もない。  予定もない。

 (これですわ……理想の生活)

 だが――

 遠くで、確実に歯車が回り始めている音を、彼女は感じていた。

 彼女が作った“整理された世界”は、
 これから――

 「セーラがいなくても回る世界」になる。

 それは同時に、
 「セーラの価値が制度として固定される世界」でもあった。

 そのことに、彼女はまだ気づいていない。

 ただ一つ確かなのは――

 彼女は今日も、満足そうにこう思っていた。

 「明日も、何もしませんわ」
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