働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾

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第40話「働かないつもりだったのに、私は幸せです」

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第40話「働かないつもりだったのに、私は幸せです」


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 春の朝は、静かだった。

 鳥のさえずりが庭に満ち、やわらかな光がカーテン越しに差し込む。  セーラはベッドの中で目を開け、しばらく天井を見つめていた。

 ――今日は、何をする予定もない。

 それは、かつての彼女にとって「ありえない一日」だった。  だが今は、心の底から安堵できる。

 「……何も、しなくていいのね」

 小さく呟き、セーラはゆっくりと起き上がった。


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 朝食は、いつもより遅めだった。

 執事も、使用人も、誰一人として急かさない。  屋敷はすでに、自律して動いている。

 「奥様、本日は特にご予定は?」

 そう尋ねられ、セーラは一瞬考え――微笑んだ。

 「いいえ。今日は、ただの“奥様”で過ごしますわ」

 その言葉に、使用人は少し驚き、そして深く一礼した。


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 庭に出ると、風が花びらを揺らしていた。

 セーラはベンチに腰を下ろし、紅茶を一口含む。  温かさが、ゆっくりと身体に染み渡る。

 ――かつての私は。

 「働かない人生」を夢見ていた。  何も背負わず、責任も持たず、ただ穏やかに生きることを。

 けれど現実は違った。

 気づけば、商業を変え、屋敷を変え、人を育てていた。

 「……結局、働いてしまいましたわね」

 だが、その言葉に後悔はなかった。


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 「それでも、君は“働かされて”はいなかった」

 不意に、隣から声がした。

 リチャードだった。  彼はいつの間にかベンチに腰掛け、同じ庭を眺めている。

 「君は、選んでいた」

 「やるか、やらないか」

 「続けるか、手放すか」


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 セーラは、静かに頷いた。

 「……ええ」

 「私は、“働かない”ことを目標にしていたわけではなかった」

 「“自分で選ぶ”ことが、欲しかったのです」


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 リチャードは、そっと彼女の手を取った。

 「そして今、君は選んだ」

 「支える側から降りることを」

 「そして、“妻として生きること”を」


---

 セーラは、彼の手を握り返す。

 「はい」

 「私はもう、世界を回さなくていい」

 「誰かの人生を背負わなくていい」

 「……あなたの隣で、笑っていられれば、それで十分ですわ」


---

 午後。

 二人は並んで屋敷を歩いた。  指示も命令もない、ただの散歩。

 使用人たちは遠巻きに見守り、決して踏み込まない。

 それが、今の距離感だった。


---

 夕暮れ。

 セーラは、テラスで空を見上げながら、ふと思う。

 「私、働かないつもりだったのに……」

 そして、くすりと笑った。

 「結局、たくさん働いてしまいましたわ」

 「でも――」


---

 彼女は、はっきりと言った。

 「私は、幸せです」


---

 リチャードは、その言葉に何も言わず、ただ微笑んだ。

 答えは、もう必要ない。


---

 夜。

 寝室の灯りを落とし、セーラは彼の隣で目を閉じる。

 世界は、今日も回っている。  自分が何もしなくても。

 それが、こんなにも穏やかで、安心できることだとは――
 かつての彼女は、知らなかった。


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 働かないつもりだった。
 でも、選び続けた結果――私は、ここにいる。

 それが、セーラの物語。

 静かで、確かで、何より自由な人生の、ひとつの答えだった。


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感想 1

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みんなの感想(1件)

sat
2026.01.15 sat

いや、なんか面白かった。淡々と進むのに妙に目が離せなくて、クスッと笑うところもあり、他のありふれた小説とちょっと違って飛ばし読みをせずに読めた。

解除

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