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第14話 再会の前触れ
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第14話 再会の前触れ
王宮からの視察団が来訪する――。
その報せは、シュヴァルツリッター公爵領に、静かな緊張をもたらしていた。
とはいえ、城内が慌ただしく混乱することはない。
以前なら「王宮」という言葉だけで身構えていた文官たちも、今は落ち着いて準備を進めている。
それ自体が、すでに変化の証だった。
「動線の確認は終わっています」 「資料の最終版も、こちらで問題ありません」
執務室で次々に報告を受けながら、私は淡々と頷いた。
「ありがとうございます。特別な演出は不要です。
いつも通りの運営を見せましょう」
それが、私の結論だった。
視察とは、本来そういうものだ。
取り繕った姿ではなく、日常を見せる。
王宮にいた頃は、決して許されなかったやり方。
「……エミリア様」
声をかけてきたのは、若い文官のトーマスだった。
「正直に申し上げて……緊張しています」
「そう?」
「はい。相手は、王宮ですから」
私は、彼の表情を見て、少しだけ微笑んだ。
「トーマス。あなたは、何かやましいことをしていますか?」
「いえ!」
即答だった。
「なら、大丈夫です」
それ以上の理由は、必要ない。
視察団が到着する前日。
ノアール・シュヴァルツリッター公爵から、私へ一つの伝言があった。
「王太子が、来る」
短い言葉。
けれど、その意味は、重い。
「……承知しました」
私は、それだけ答えた。
心が、揺れなかったわけではない。
だが、動揺はしなかった。
もう、以前の私ではない。
「無理をする必要はない」
ノアール公爵は、淡々と言う。
「会いたくなければ、表に出るな」
「いいえ」
私は、首を横に振った。
「補佐官として、務めを果たします」
それが、私の立場だ。
そして――
それ以上でも、それ以下でもない。
翌日。
城門前に、王宮の紋章を掲げた馬車が並んだ。
整然とした動きで降り立つ騎士たち。
その中心に立つ人物を、私は遠目に確認する。
エドワルド王太子。
以前より、少しだけ疲れたように見えた。
背筋は伸びているが、表情に余裕がない。
(……変わったのは、私だけじゃない)
視察は、形式的な挨拶から始まった。
ノアール公爵が前に立ち、簡潔に領地の現状を説明する。
「こちらが、現在の運営体制です」
そう言って、私の方を一瞥した。
「詳細は、補佐官であるエミリアが説明する」
一瞬、空気が張り詰めた。
王宮側の視線が、一斉に私へ向けられる。
驚き、戸惑い、そして――理解。
「……エミリア・ノルト」
エドワルドの口から、私の名がこぼれた。
私は、静かに一礼する。
「お久しぶりでございます、殿下」
それだけ。
感情のない、完璧な挨拶。
視察は、予定通り進んだ。
倉庫、交易所、税務局。
私は、必要な説明を、必要な分だけ行う。
数字は正確に。
言葉は簡潔に。
「……この改善は、いつから?」
王宮の官吏が尋ねる。
「三週間前です」
「短期間で、ここまで?」
「大規模な改革は行っていません。
無駄を減らしただけです」
その言葉に、何人かが顔を見合わせた。
――それが、できなかった。
王宮では。
視察の終盤、エドワルドが、私にだけ聞こえる声で言った。
「……話がしたい」
私は、視線を合わせないまま答える。
「公務の後でしたら」
それ以上でも、それ以下でもない距離。
視察が終わり、城内が再び落ち着きを取り戻した頃。
私は、一人、回廊を歩いていた。
そこへ、足音が重なる。
「……エミリア」
振り返ると、エドワルドが立っていた。
「時間を、もらえないか」
その声には、かつての傲慢さはない。
代わりにあるのは――躊躇。
私は、一瞬だけ考え、静かに答えた。
「短時間でしたら」
それは、許しではない。
拒絶でもない。
ただ――
立場が変わった者同士の、事務的な了承。
再会は、まだ始まっていない。
だが、その前触れは、確かにここにあった。
そして私は、はっきりと理解していた。
この再会が、
彼にとっては“過去への未練”であり、
私にとっては“通過点”に過ぎないということを。
王宮からの視察団が来訪する――。
その報せは、シュヴァルツリッター公爵領に、静かな緊張をもたらしていた。
とはいえ、城内が慌ただしく混乱することはない。
以前なら「王宮」という言葉だけで身構えていた文官たちも、今は落ち着いて準備を進めている。
それ自体が、すでに変化の証だった。
「動線の確認は終わっています」 「資料の最終版も、こちらで問題ありません」
執務室で次々に報告を受けながら、私は淡々と頷いた。
「ありがとうございます。特別な演出は不要です。
いつも通りの運営を見せましょう」
それが、私の結論だった。
視察とは、本来そういうものだ。
取り繕った姿ではなく、日常を見せる。
王宮にいた頃は、決して許されなかったやり方。
「……エミリア様」
声をかけてきたのは、若い文官のトーマスだった。
「正直に申し上げて……緊張しています」
「そう?」
「はい。相手は、王宮ですから」
私は、彼の表情を見て、少しだけ微笑んだ。
「トーマス。あなたは、何かやましいことをしていますか?」
「いえ!」
即答だった。
「なら、大丈夫です」
それ以上の理由は、必要ない。
視察団が到着する前日。
ノアール・シュヴァルツリッター公爵から、私へ一つの伝言があった。
「王太子が、来る」
短い言葉。
けれど、その意味は、重い。
「……承知しました」
私は、それだけ答えた。
心が、揺れなかったわけではない。
だが、動揺はしなかった。
もう、以前の私ではない。
「無理をする必要はない」
ノアール公爵は、淡々と言う。
「会いたくなければ、表に出るな」
「いいえ」
私は、首を横に振った。
「補佐官として、務めを果たします」
それが、私の立場だ。
そして――
それ以上でも、それ以下でもない。
翌日。
城門前に、王宮の紋章を掲げた馬車が並んだ。
整然とした動きで降り立つ騎士たち。
その中心に立つ人物を、私は遠目に確認する。
エドワルド王太子。
以前より、少しだけ疲れたように見えた。
背筋は伸びているが、表情に余裕がない。
(……変わったのは、私だけじゃない)
視察は、形式的な挨拶から始まった。
ノアール公爵が前に立ち、簡潔に領地の現状を説明する。
「こちらが、現在の運営体制です」
そう言って、私の方を一瞥した。
「詳細は、補佐官であるエミリアが説明する」
一瞬、空気が張り詰めた。
王宮側の視線が、一斉に私へ向けられる。
驚き、戸惑い、そして――理解。
「……エミリア・ノルト」
エドワルドの口から、私の名がこぼれた。
私は、静かに一礼する。
「お久しぶりでございます、殿下」
それだけ。
感情のない、完璧な挨拶。
視察は、予定通り進んだ。
倉庫、交易所、税務局。
私は、必要な説明を、必要な分だけ行う。
数字は正確に。
言葉は簡潔に。
「……この改善は、いつから?」
王宮の官吏が尋ねる。
「三週間前です」
「短期間で、ここまで?」
「大規模な改革は行っていません。
無駄を減らしただけです」
その言葉に、何人かが顔を見合わせた。
――それが、できなかった。
王宮では。
視察の終盤、エドワルドが、私にだけ聞こえる声で言った。
「……話がしたい」
私は、視線を合わせないまま答える。
「公務の後でしたら」
それ以上でも、それ以下でもない距離。
視察が終わり、城内が再び落ち着きを取り戻した頃。
私は、一人、回廊を歩いていた。
そこへ、足音が重なる。
「……エミリア」
振り返ると、エドワルドが立っていた。
「時間を、もらえないか」
その声には、かつての傲慢さはない。
代わりにあるのは――躊躇。
私は、一瞬だけ考え、静かに答えた。
「短時間でしたら」
それは、許しではない。
拒絶でもない。
ただ――
立場が変わった者同士の、事務的な了承。
再会は、まだ始まっていない。
だが、その前触れは、確かにここにあった。
そして私は、はっきりと理解していた。
この再会が、
彼にとっては“過去への未練”であり、
私にとっては“通過点”に過ぎないということを。
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