15 / 41
第15話 それでも王太子は、納得できませんでした
しおりを挟む
第15話 それでも王太子は、納得できませんでした
沈黙の会議から三日後。
王宮は、表向きは平常運転を取り戻していた。
文官は書類を運び、神官は祈り、貴族たちは相変わらずの世間話をする。
――だが、水面下では、確実に“線”が引かれていた。
誰が中心で、
誰が周縁に追いやられたのか。
それを、皆が理解している。
◇
王太子エドワルド殿下は、その線を、どうしても受け入れられずにいた。
「……これは、一時的な混乱だ」
執務室で、殿下はそう呟く。
「感情に流されただけだ。
聖女も、貴族たちも……」
机の上には、山積みの報告書。
だが、どれも似た内容だった。
・聖女ミリエラの精神状態は安定
・聖力値は過去最高水準を維持
・民衆の支持は上昇傾向
――反論の余地は、ない。
「……理解できない」
殿下は、椅子に深く座り込む。
「私は、正しいことをしてきたはずだ」
国のため。
制度のため。
秩序のため。
それなのに。
「なぜ……
私が、外される……?」
彼の問いに、答える者はいない。
◇
一方、離宮では。
ミリエラは、庭の片隅で、静かに祈りを捧げていた。
形式ばった儀式ではない。
ただ、土に触れ、風を感じるだけ。
私は、少し離れた場所から、その様子を見守っていた。
「……不思議です」
祈りを終えた彼女が、ぽつりと言う。
「昔は、“何かをしなきゃ”って、
ずっと追われている気がしていました」
「今は?」
「……今は、“何もしなくても、ここにいていい”」
それは、聖女としてではなく、
一人の人としての安定だった。
「殿下は……どうなるんでしょうか」
彼女の声には、責める響きはなかった。
「どうにもなりません」
私は、正直に答える。
「ご自分で、折り合いをつけるしかない」
ミリエラは、少し考え――
小さく頷いた。
◇
その夜。
王太子は、ついに“最後の手段”に出た。
――国王代理への、直接の直訴。
「これは、国家運営の問題です」
殿下は、必死に訴える。
「感情に左右された制度は、
いずれ国を危うくします」
国王代理は、しばらく黙って聞いていた。
やがて、低く告げる。
「では、聞こう」
「……は?」
「“感情に左右されていない証拠”を、示せ」
殿下は、言葉に詰まった。
数字は、ミリエラ側にある。
安定も、成果も、民意も。
「……それは……」
「殿下」
国王代理は、静かに続ける。
「あなたは、
“理屈で動いているつもりの感情”を、
理性だと勘違いしている」
その言葉は、容赦がなかった。
「あなたは、“正しいはずだった自分”を、
手放せていないだけだ」
殿下の肩が、震える。
◇
翌朝。
王宮内に、短い通達が回った。
――王太子エドワルドは、
当面、聖女政策および宗教行政から外れる。
名目は、“職務整理”。
だが、誰もが理解していた。
――事実上の更迭だ。
◇
離宮で、その知らせを受け取ったミリエラは、静かに目を伏せた。
「……そう、ですか」
「あなたが背負う必要はありません」
私は、はっきりと言った。
「これは、彼自身の問題です」
彼女は、しばらく沈黙し――
やがて、そっと息を吐いた。
「……分かっています」
その声には、迷いはなかった。
◇
その頃、王太子エドワルド殿下は、
誰もいない執務室で、一人、立ち尽くしていた。
権限は残っている。
肩書きも、地位も。
けれど。
――“選ばれない”という現実だけが、
重く、確かに残っている。
「……納得できない」
それでも、そう呟くしかなかった。
彼はまだ、
“自分が間違った”のではなく、
“理解されなかった”と思っている。
そして私は知っている。
その考えこそが――
最後まで彼を縛り続ける、最大の罰になることを。
沈黙の会議から三日後。
王宮は、表向きは平常運転を取り戻していた。
文官は書類を運び、神官は祈り、貴族たちは相変わらずの世間話をする。
――だが、水面下では、確実に“線”が引かれていた。
誰が中心で、
誰が周縁に追いやられたのか。
それを、皆が理解している。
◇
王太子エドワルド殿下は、その線を、どうしても受け入れられずにいた。
「……これは、一時的な混乱だ」
執務室で、殿下はそう呟く。
「感情に流されただけだ。
聖女も、貴族たちも……」
机の上には、山積みの報告書。
だが、どれも似た内容だった。
・聖女ミリエラの精神状態は安定
・聖力値は過去最高水準を維持
・民衆の支持は上昇傾向
――反論の余地は、ない。
「……理解できない」
殿下は、椅子に深く座り込む。
「私は、正しいことをしてきたはずだ」
国のため。
制度のため。
秩序のため。
それなのに。
「なぜ……
私が、外される……?」
彼の問いに、答える者はいない。
◇
一方、離宮では。
ミリエラは、庭の片隅で、静かに祈りを捧げていた。
形式ばった儀式ではない。
ただ、土に触れ、風を感じるだけ。
私は、少し離れた場所から、その様子を見守っていた。
「……不思議です」
祈りを終えた彼女が、ぽつりと言う。
「昔は、“何かをしなきゃ”って、
ずっと追われている気がしていました」
「今は?」
「……今は、“何もしなくても、ここにいていい”」
それは、聖女としてではなく、
一人の人としての安定だった。
「殿下は……どうなるんでしょうか」
彼女の声には、責める響きはなかった。
「どうにもなりません」
私は、正直に答える。
「ご自分で、折り合いをつけるしかない」
ミリエラは、少し考え――
小さく頷いた。
◇
その夜。
王太子は、ついに“最後の手段”に出た。
――国王代理への、直接の直訴。
「これは、国家運営の問題です」
殿下は、必死に訴える。
「感情に左右された制度は、
いずれ国を危うくします」
国王代理は、しばらく黙って聞いていた。
やがて、低く告げる。
「では、聞こう」
「……は?」
「“感情に左右されていない証拠”を、示せ」
殿下は、言葉に詰まった。
数字は、ミリエラ側にある。
安定も、成果も、民意も。
「……それは……」
「殿下」
国王代理は、静かに続ける。
「あなたは、
“理屈で動いているつもりの感情”を、
理性だと勘違いしている」
その言葉は、容赦がなかった。
「あなたは、“正しいはずだった自分”を、
手放せていないだけだ」
殿下の肩が、震える。
◇
翌朝。
王宮内に、短い通達が回った。
――王太子エドワルドは、
当面、聖女政策および宗教行政から外れる。
名目は、“職務整理”。
だが、誰もが理解していた。
――事実上の更迭だ。
◇
離宮で、その知らせを受け取ったミリエラは、静かに目を伏せた。
「……そう、ですか」
「あなたが背負う必要はありません」
私は、はっきりと言った。
「これは、彼自身の問題です」
彼女は、しばらく沈黙し――
やがて、そっと息を吐いた。
「……分かっています」
その声には、迷いはなかった。
◇
その頃、王太子エドワルド殿下は、
誰もいない執務室で、一人、立ち尽くしていた。
権限は残っている。
肩書きも、地位も。
けれど。
――“選ばれない”という現実だけが、
重く、確かに残っている。
「……納得できない」
それでも、そう呟くしかなかった。
彼はまだ、
“自分が間違った”のではなく、
“理解されなかった”と思っている。
そして私は知っている。
その考えこそが――
最後まで彼を縛り続ける、最大の罰になることを。
0
あなたにおすすめの小説
学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
政略結婚の意味、理解してますか。
章槻雅希
ファンタジー
エスタファドル伯爵家の令嬢マグノリアは王命でオルガサン侯爵家嫡男ペルデルと結婚する。ダメな貴族の見本のようなオルガサン侯爵家立て直しが表向きの理由である。しかし、命を下した国王の狙いはオルガサン家の取り潰しだった。
マグノリアは仄かな恋心を封印し、政略結婚をする。裏のある結婚生活に楽しみを見出しながら。
全21話完結・予約投稿済み。
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『pixiv』・自サイトに重複投稿。
虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても
千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
必要ないと言われたので、私は旅にでます。
黒蜜きな粉
ファンタジー
「必要ない」
墓守のリリアはある日突然その職を失う。
そう命令を下したのはかつての友で初恋相手。
社会的な立場、淡い恋心、たった一言ですべてが崩れ去ってしまった。
自分の存在意義を見失ったリリアに声をかけてきたのは旅芸人のカイだった。
「来る?」
そうカイに声をかけられたリリアは、旅の一座と共に世界を巡る選択をする。
────────────────
2025/10/31
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞をいただきました
お話に目を通していただき、投票をしてくださった皆さま
本当に本当にありがとうございました
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
(完結)モブ令嬢の婚約破棄
あかる
恋愛
ヒロイン様によると、私はモブらしいです。…モブって何でしょう?
攻略対象は全てヒロイン様のものらしいです?そんな酷い設定、どんなロマンス小説にもありませんわ。
お兄様のように思っていた婚約者様はもう要りません。私は別の方と幸せを掴みます!
緩い設定なので、貴族の常識とか拘らず、さらっと読んで頂きたいです。
完結してます。適当に投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる