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第14話 拍手は起きず、沈黙だけが残りました
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第14話 拍手は起きず、沈黙だけが残りました
ミリエラの言葉が、会議室に落ちたあと。
誰一人として、すぐには声を発せなかった。
拍手もない。
怒号もない。
ただ、重く、逃げ場のない沈黙。
それが、この場に集まった者たちの――
結論の一致だった。
王太子エドワルド殿下は、しばらく口を開いたまま立ち尽くしていた。
信じられない、というより、理解できない、という表情。
「……君は」
ようやく絞り出した声は、かすれていた。
「本当に、それでいいのか?」
その問いは、命令でも、誘導でもなかった。
初めて、“個人としての問い”に聞こえた。
だが。
ミリエラは、一歩も引かなかった。
「はい」
短く、はっきりと。
「私は、自分で選びました」
それだけで、十分だった。
宰相が、ゆっくりと立ち上がる。
「……記録官」
「は」
「本日の発言を、すべて正式議事録として残せ」
その宣言が意味するものを、
ここにいる全員が理解した。
――これは感情論ではなく、制度上の決定になる。
王太子の肩が、わずかに揺れた。
「待て……!」
殿下は、反射的に声を上げる。
「こんな形で決めていいはずがない!
私は、まだ――」
「殿下」
国王代理が、静かに制した。
「“まだ選べる”のは、
選ばれる側に立っている者だけです」
その言葉は、剣よりも鋭かった。
殿下は、何かを言い返そうとして――
結局、何も言えなかった。
私は、その様子を横目に見ながら、心の中で思う。
(……これで、舞台は完全に移った)
もう、彼は中心ではない。
◇
会議は、予定よりも早く終わった。
結論は、簡潔だった。
――聖女ミリエラは、
本人の意思に基づき、
聖女統括補佐官リュシア・ヴァルモンの管理下で活動を続ける。
王太子の関与は、
正式な要請がない限り、制限される。
誰も「賛成」とは言わなかった。
誰も「反対」とも言わなかった。
それが、この国のやり方だった。
◇
会議室を出た廊下で、
ミリエラは、ふっと息を吐いた。
「……終わりましたね」
「一区切り、です」
私はそう答えた。
「完全な終わりではありません。
でも、“戻れない線”は越えました」
彼女は、少し考えてから、小さく笑う。
「……不思議です。
怖いはずなのに……軽いです」
「それは、
自分の足で立っている感覚ですよ」
その言葉に、ミリエラは何も言わず、ただ頷いた。
◇
一方。
誰もいなくなった会議室に、
王太子エドワルド殿下だけが残っていた。
豪奢な椅子。
磨かれた机。
そこにあるものは、何一つ変わっていない。
――変わったのは、
それらが彼の味方ではなくなったという事実だけだ。
「……なぜだ」
誰にともなく、呟く。
答えは、返らない。
彼はまだ理解していない。
自分が“負けた”のではなく――
選ばれなかったのだということを。
◇
夕方、離宮の庭。
西日が差し込み、影が長く伸びる。
ミリエラは、花壇の前で立ち止まり、ぽつりと言った。
「……私、やっと分かりました」
「何を、ですか?」
「“聖女”である前に、
私、私だったんだなって」
私は、微笑んだ。
「それを忘れなければ、
あなたは、もう壊れません」
遠くで、鐘が鳴る。
それは、勝利の音でも、祝福の音でもない。
一つの時代が、静かに終わったことを告げる音だった。
そして私は知っている。
この沈黙こそが――
王太子にとって、
最も残酷な“ざまぁ”なのだと。
ミリエラの言葉が、会議室に落ちたあと。
誰一人として、すぐには声を発せなかった。
拍手もない。
怒号もない。
ただ、重く、逃げ場のない沈黙。
それが、この場に集まった者たちの――
結論の一致だった。
王太子エドワルド殿下は、しばらく口を開いたまま立ち尽くしていた。
信じられない、というより、理解できない、という表情。
「……君は」
ようやく絞り出した声は、かすれていた。
「本当に、それでいいのか?」
その問いは、命令でも、誘導でもなかった。
初めて、“個人としての問い”に聞こえた。
だが。
ミリエラは、一歩も引かなかった。
「はい」
短く、はっきりと。
「私は、自分で選びました」
それだけで、十分だった。
宰相が、ゆっくりと立ち上がる。
「……記録官」
「は」
「本日の発言を、すべて正式議事録として残せ」
その宣言が意味するものを、
ここにいる全員が理解した。
――これは感情論ではなく、制度上の決定になる。
王太子の肩が、わずかに揺れた。
「待て……!」
殿下は、反射的に声を上げる。
「こんな形で決めていいはずがない!
私は、まだ――」
「殿下」
国王代理が、静かに制した。
「“まだ選べる”のは、
選ばれる側に立っている者だけです」
その言葉は、剣よりも鋭かった。
殿下は、何かを言い返そうとして――
結局、何も言えなかった。
私は、その様子を横目に見ながら、心の中で思う。
(……これで、舞台は完全に移った)
もう、彼は中心ではない。
◇
会議は、予定よりも早く終わった。
結論は、簡潔だった。
――聖女ミリエラは、
本人の意思に基づき、
聖女統括補佐官リュシア・ヴァルモンの管理下で活動を続ける。
王太子の関与は、
正式な要請がない限り、制限される。
誰も「賛成」とは言わなかった。
誰も「反対」とも言わなかった。
それが、この国のやり方だった。
◇
会議室を出た廊下で、
ミリエラは、ふっと息を吐いた。
「……終わりましたね」
「一区切り、です」
私はそう答えた。
「完全な終わりではありません。
でも、“戻れない線”は越えました」
彼女は、少し考えてから、小さく笑う。
「……不思議です。
怖いはずなのに……軽いです」
「それは、
自分の足で立っている感覚ですよ」
その言葉に、ミリエラは何も言わず、ただ頷いた。
◇
一方。
誰もいなくなった会議室に、
王太子エドワルド殿下だけが残っていた。
豪奢な椅子。
磨かれた机。
そこにあるものは、何一つ変わっていない。
――変わったのは、
それらが彼の味方ではなくなったという事実だけだ。
「……なぜだ」
誰にともなく、呟く。
答えは、返らない。
彼はまだ理解していない。
自分が“負けた”のではなく――
選ばれなかったのだということを。
◇
夕方、離宮の庭。
西日が差し込み、影が長く伸びる。
ミリエラは、花壇の前で立ち止まり、ぽつりと言った。
「……私、やっと分かりました」
「何を、ですか?」
「“聖女”である前に、
私、私だったんだなって」
私は、微笑んだ。
「それを忘れなければ、
あなたは、もう壊れません」
遠くで、鐘が鳴る。
それは、勝利の音でも、祝福の音でもない。
一つの時代が、静かに終わったことを告げる音だった。
そして私は知っている。
この沈黙こそが――
王太子にとって、
最も残酷な“ざまぁ”なのだと。
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