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第18話 役目を終えた補佐官は、静かに席を譲ります
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第18話 役目を終えた補佐官は、静かに席を譲ります
朝の離宮は、いつもより少しだけ騒がしかった。
使用人たちが慌ただしく動き、文官が何人も出入りしている。
けれど、そこに緊張はない。
あるのは、新しい日常が定着しつつある気配だけだった。
私は、その様子を少し離れた場所から眺めていた。
(……ここまで来たのね)
◇
執務室では、ミリエラが一人、机に向かっていた。
書類を確認し、必要なところに自分の意見を書き添える。
以前のように、私が横から指示を出すことはない。
「……これで、よし」
彼女は小さく呟き、顔を上げた。
「リュシア様?」
「はい」
「確認、お願いしなくても……大丈夫ですよね」
その問いに、私は一瞬だけ目を細め――
ゆっくりと頷いた。
「ええ。
もう、私が確認する必要はありません」
ミリエラは、驚いたように目を瞬かせる。
「……それって……」
「役目を終えた、ということです」
空気が、すっと静まった。
◇
私は、彼女の前に立ち、深く一礼する。
「聖女統括補佐官リュシア・ヴァルモンは、
本日をもって、第一線から退きます」
「……どうしてですか?」
ミリエラの声には、不安よりも戸惑いが滲んでいた。
「必要なくなったからです」
私は、はっきりと言った。
「あなたはもう、
誰かに守られながら立つ段階を終えました」
彼女は、唇を噛みしめる。
「でも……私は……」
「大丈夫」
私は、柔らかく続ける。
「私は消えません。
ただ、前には立たなくなるだけです」
補佐官とは、
永遠に横にいる存在ではない。
自分で立てるようになった瞬間に、
一歩引く役目だ。
◇
しばらく沈黙が続き――
やがて、ミリエラは、深く息を吸った。
「……分かりました」
その声は、震えていなかった。
「私、ちゃんと……立てていますよね」
「ええ」
私は微笑んだ。
「今のあなたは、
誰にも依存していません」
それを聞いて、彼女は小さく笑った。
◇
その日の午後、簡潔な通達が出された。
――聖女統括補佐官リュシア・ヴァルモンは、
補佐業務を後進に引き継ぎ、
顧問として距離を置く立場へ移行する。
誰も反対しなかった。
誰も引き止めなかった。
それが、正しい流れだったから。
◇
一方、王宮。
王太子エドワルド殿下は、その報告書を手にしていた。
「……退く、だと?」
彼は、しばらく文字を見つめ――
やがて、力なく息を吐く。
「……逃げたわけでは、ないのか」
それは、初めて浮かんだ疑問だった。
彼女は、権力を得たまま去った。
勝ったから去った。
それが、余計に理解できなかった。
◇
夕方、離宮の庭。
ミリエラは、私と並んで歩きながら、ぽつりと言った。
「……寂しいです」
「それは、自然なことです」
「でも……」
彼女は、前を見たまま続ける。
「だからって、
戻ってほしいとは思いません」
私は、その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなった。
「それで、いいんです」
◇
日が沈み、空が群青に染まる。
私は、離宮の門を出る前に、一度だけ振り返った。
そこにあるのは、
もう私が前に立たなくても回る世界。
そして、私は知っている。
本当のざまぁとは、
誰かを叩き潰すことではない。
――必要とされなくなった者と、
役目を終えて去れる者。
その違いが、
これ以上なく、はっきりと示された瞬間だった。
朝の離宮は、いつもより少しだけ騒がしかった。
使用人たちが慌ただしく動き、文官が何人も出入りしている。
けれど、そこに緊張はない。
あるのは、新しい日常が定着しつつある気配だけだった。
私は、その様子を少し離れた場所から眺めていた。
(……ここまで来たのね)
◇
執務室では、ミリエラが一人、机に向かっていた。
書類を確認し、必要なところに自分の意見を書き添える。
以前のように、私が横から指示を出すことはない。
「……これで、よし」
彼女は小さく呟き、顔を上げた。
「リュシア様?」
「はい」
「確認、お願いしなくても……大丈夫ですよね」
その問いに、私は一瞬だけ目を細め――
ゆっくりと頷いた。
「ええ。
もう、私が確認する必要はありません」
ミリエラは、驚いたように目を瞬かせる。
「……それって……」
「役目を終えた、ということです」
空気が、すっと静まった。
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本日をもって、第一線から退きます」
「……どうしてですか?」
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「必要なくなったからです」
私は、はっきりと言った。
「あなたはもう、
誰かに守られながら立つ段階を終えました」
彼女は、唇を噛みしめる。
「でも……私は……」
「大丈夫」
私は、柔らかく続ける。
「私は消えません。
ただ、前には立たなくなるだけです」
補佐官とは、
永遠に横にいる存在ではない。
自分で立てるようになった瞬間に、
一歩引く役目だ。
◇
しばらく沈黙が続き――
やがて、ミリエラは、深く息を吸った。
「……分かりました」
その声は、震えていなかった。
「私、ちゃんと……立てていますよね」
「ええ」
私は微笑んだ。
「今のあなたは、
誰にも依存していません」
それを聞いて、彼女は小さく笑った。
◇
その日の午後、簡潔な通達が出された。
――聖女統括補佐官リュシア・ヴァルモンは、
補佐業務を後進に引き継ぎ、
顧問として距離を置く立場へ移行する。
誰も反対しなかった。
誰も引き止めなかった。
それが、正しい流れだったから。
◇
一方、王宮。
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「……退く、だと?」
彼は、しばらく文字を見つめ――
やがて、力なく息を吐く。
「……逃げたわけでは、ないのか」
それは、初めて浮かんだ疑問だった。
彼女は、権力を得たまま去った。
勝ったから去った。
それが、余計に理解できなかった。
◇
夕方、離宮の庭。
ミリエラは、私と並んで歩きながら、ぽつりと言った。
「……寂しいです」
「それは、自然なことです」
「でも……」
彼女は、前を見たまま続ける。
「だからって、
戻ってほしいとは思いません」
私は、その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなった。
「それで、いいんです」
◇
日が沈み、空が群青に染まる。
私は、離宮の門を出る前に、一度だけ振り返った。
そこにあるのは、
もう私が前に立たなくても回る世界。
そして、私は知っている。
本当のざまぁとは、
誰かを叩き潰すことではない。
――必要とされなくなった者と、
役目を終えて去れる者。
その違いが、
これ以上なく、はっきりと示された瞬間だった。
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