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第19話 それぞれの場所で、朝は平等に訪れます
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第19話 それぞれの場所で、朝は平等に訪れます
離宮を離れた翌朝、私は久しぶりに自分の屋敷で目を覚ました。
厚手のカーテン越しに差し込む光は、柔らかく、静かだ。
予定も、呼び出しもない。
――それなのに、不思議と不安はなかった。
「……これで、いい」
誰に言うでもなく、そう呟く。
◇
王宮では、いつも通りの朝が始まっていた。
ただ一つ違うのは、
“王太子の意向”を最優先に動く文官が、いなくなったことだ。
エドワルド殿下は、執務室で一人、窓の外を眺めていた。
人の流れは、変わらない。
鐘も鳴る。
政務も進む。
――自分を中心に回っていたはずの世界が、
実はそうではなかったと、
毎朝、少しずつ突きつけられる。
「……今日の予定は?」
殿下が問いかけると、若い文官が答える。
「午後に、地方税制の確認がございます。
宗教関連の議題は……ありません」
一瞬の沈黙。
「……分かった」
それだけだった。
◇
一方、離宮では。
ミリエラが、朝の庭を歩いていた。
誰に促されるでもなく、
誰の顔色を窺うでもなく。
「……今日は、風が冷たいですね」
付き添いの侍女が頷く。
「ですが、気持ちの良い朝です」
ミリエラは、小さく笑った。
彼女の周囲に、光は集まらない。
奇跡も、起きていない。
それでも、空気は穏やかで、澱みがない。
◇
昼前、私は古い知人――学院時代の研究官を訪ねていた。
「……戻ってきたと聞いて、驚いたよ」
「戻った、というより……
“終わった”だけです」
彼は、しばらく私を見つめ――
やがて、納得したように頷いた。
「君らしいな」
「そうでしょうか」
「権限を握ったまま去れる人間は、
そう多くない」
その言葉に、私は小さく息を吐いた。
◇
午後、王太子は評議の場に出席していた。
発言は、求められた分だけ。
反応も、必要最低限。
誰も彼を無視しているわけではない。
ただ、期待していないだけだ。
「……以上だ」
会議が終わり、人が散っていく。
殿下は、取り残されたように席に残った。
「……皆、前を向いている」
自分だけが、
“正しかったはずの過去”を抱えたまま。
◇
夕方、私は屋敷の庭で、ゆっくりと茶を淹れていた。
特別な香りではない。
ただ、慣れ親しんだ味。
「……忙しさは、役目の証ではなかったのね」
忙しさが消えた今、
残ったのは、静かな時間と、呼吸。
◇
夜。
ミリエラは、日誌を閉じ、灯りを落とす前に呟いた。
「……私、
ちゃんと一人で、朝を迎えられました」
それは、小さな達成だった。
◇
王太子エドワルド殿下も、
同じ夜を迎えていた。
灯りの消えた執務室で、
彼は、初めて理解する。
――誰かを失ったのではない。
自分が、中心ではなくなっただけだ。
それは、誰にも責められない罰。
◇
朝は、平等に訪れる。
前を向く者にも、
立ち止まる者にも。
ただ一つ違うのは――
次の一歩を踏み出すかどうか。
私は、静かに思う。
この物語は、
もう“ざまぁ”を語る段階を越えた。
それぞれが、
自分の場所で生き直す話へと、
移っているのだから。
離宮を離れた翌朝、私は久しぶりに自分の屋敷で目を覚ました。
厚手のカーテン越しに差し込む光は、柔らかく、静かだ。
予定も、呼び出しもない。
――それなのに、不思議と不安はなかった。
「……これで、いい」
誰に言うでもなく、そう呟く。
◇
王宮では、いつも通りの朝が始まっていた。
ただ一つ違うのは、
“王太子の意向”を最優先に動く文官が、いなくなったことだ。
エドワルド殿下は、執務室で一人、窓の外を眺めていた。
人の流れは、変わらない。
鐘も鳴る。
政務も進む。
――自分を中心に回っていたはずの世界が、
実はそうではなかったと、
毎朝、少しずつ突きつけられる。
「……今日の予定は?」
殿下が問いかけると、若い文官が答える。
「午後に、地方税制の確認がございます。
宗教関連の議題は……ありません」
一瞬の沈黙。
「……分かった」
それだけだった。
◇
一方、離宮では。
ミリエラが、朝の庭を歩いていた。
誰に促されるでもなく、
誰の顔色を窺うでもなく。
「……今日は、風が冷たいですね」
付き添いの侍女が頷く。
「ですが、気持ちの良い朝です」
ミリエラは、小さく笑った。
彼女の周囲に、光は集まらない。
奇跡も、起きていない。
それでも、空気は穏やかで、澱みがない。
◇
昼前、私は古い知人――学院時代の研究官を訪ねていた。
「……戻ってきたと聞いて、驚いたよ」
「戻った、というより……
“終わった”だけです」
彼は、しばらく私を見つめ――
やがて、納得したように頷いた。
「君らしいな」
「そうでしょうか」
「権限を握ったまま去れる人間は、
そう多くない」
その言葉に、私は小さく息を吐いた。
◇
午後、王太子は評議の場に出席していた。
発言は、求められた分だけ。
反応も、必要最低限。
誰も彼を無視しているわけではない。
ただ、期待していないだけだ。
「……以上だ」
会議が終わり、人が散っていく。
殿下は、取り残されたように席に残った。
「……皆、前を向いている」
自分だけが、
“正しかったはずの過去”を抱えたまま。
◇
夕方、私は屋敷の庭で、ゆっくりと茶を淹れていた。
特別な香りではない。
ただ、慣れ親しんだ味。
「……忙しさは、役目の証ではなかったのね」
忙しさが消えた今、
残ったのは、静かな時間と、呼吸。
◇
夜。
ミリエラは、日誌を閉じ、灯りを落とす前に呟いた。
「……私、
ちゃんと一人で、朝を迎えられました」
それは、小さな達成だった。
◇
王太子エドワルド殿下も、
同じ夜を迎えていた。
灯りの消えた執務室で、
彼は、初めて理解する。
――誰かを失ったのではない。
自分が、中心ではなくなっただけだ。
それは、誰にも責められない罰。
◇
朝は、平等に訪れる。
前を向く者にも、
立ち止まる者にも。
ただ一つ違うのは――
次の一歩を踏み出すかどうか。
私は、静かに思う。
この物語は、
もう“ざまぁ”を語る段階を越えた。
それぞれが、
自分の場所で生き直す話へと、
移っているのだから。
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