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第39話 帰る場所を選ぶ
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第39話 帰る場所を選ぶ
朝の村に、久しぶりに笑い声が戻り始めていた。
完全な回復ではない。
まだ隔離も続き、油断はできない。
それでも、空気は確かに変わっている。
ミリエラは、医師団の一人と並んで、
最後の記録を確認していた。
◇
「……これで、
こちらでできることは、ほぼ終わりです」
医師の言葉に、
ミリエラは小さく頷く。
「はい。
あとは、経過観察ですね」
その声に、
達成感はなかった。
安堵も、控えめだった。
◇
帰り支度をしていると、
村の人々が、少しずつ集まってくる。
果物を差し出す者。
手を合わせる者。
言葉を探して、立ち尽くす者。
◇
「……ありがとうございました」
誰かが、そう言った。
続けて、
別の声が重なる。
「助かりました」
ミリエラは、
胸の奥で何かが動くのを感じながらも、
深く頭を下げた。
「皆さん自身の力です」
それ以上は、言わない。
◇
馬車に乗り込む直前、
あの少女が、駆け寄ってきた。
「……行っちゃうんですか」
「ええ」
ミリエラは、目線を合わせる。
◇
「また……
聖女さま、来てくれますか?」
その問いに、
一瞬だけ、時間が止まった。
◇
ミリエラは、
静かに、しかしはっきりと答える。
「私は、
聖女ではありません」
少女の肩が、少し落ちる。
◇
「でも」
ミリエラは、続けた。
「もし、
私にできることがあって、
それを“私自身がやりたい”と思えたら……」
微笑みながら。
「その時は、
ミリエラとして、来ます」
◇
少女は、しばらく考え、
やがて、力強く頷いた。
「……それなら、いいです」
◇
馬車が、ゆっくりと動き出す。
村の風景が、
少しずつ後ろへ流れていく。
◇
道中、
ミリエラは窓の外を見ながら思う。
“戻らない”と決めた場所がある。
“行かない”と引いた線もある。
それでも――
行って、帰ってくる場所は、
自分で選べる。
◇
誰かに呼ばれたからではない。
期待されたからでもない。
自分の意思で、
足を運び、
自分の意思で、
帰る。
◇
それは、
縛られない関係。
それは、
奪われない生き方。
◇
夕方、離宮の屋根が見えた。
見慣れた庭。
変わらない回廊。
馬車が止まると、
ミリエラは、深く息を吸い込む。
◇
「……帰ってきました」
それは、
報告ではない。
自分自身への、
小さな確認だった。
◇
彼女は知っている。
ここが、
“選ばれて戻る場所”ではなく、
“自分で帰る場所”であることを。
◇
ミリエラは、
ゆっくりと一歩を踏み出す。
過去に戻らず、
役割に縛られず、
それでも人と関わる――
その距離を、
これからも、自分で選びながら。
彼女は、
静かな帰路の終わりに、
確かな居場所を見つめていた。
朝の村に、久しぶりに笑い声が戻り始めていた。
完全な回復ではない。
まだ隔離も続き、油断はできない。
それでも、空気は確かに変わっている。
ミリエラは、医師団の一人と並んで、
最後の記録を確認していた。
◇
「……これで、
こちらでできることは、ほぼ終わりです」
医師の言葉に、
ミリエラは小さく頷く。
「はい。
あとは、経過観察ですね」
その声に、
達成感はなかった。
安堵も、控えめだった。
◇
帰り支度をしていると、
村の人々が、少しずつ集まってくる。
果物を差し出す者。
手を合わせる者。
言葉を探して、立ち尽くす者。
◇
「……ありがとうございました」
誰かが、そう言った。
続けて、
別の声が重なる。
「助かりました」
ミリエラは、
胸の奥で何かが動くのを感じながらも、
深く頭を下げた。
「皆さん自身の力です」
それ以上は、言わない。
◇
馬車に乗り込む直前、
あの少女が、駆け寄ってきた。
「……行っちゃうんですか」
「ええ」
ミリエラは、目線を合わせる。
◇
「また……
聖女さま、来てくれますか?」
その問いに、
一瞬だけ、時間が止まった。
◇
ミリエラは、
静かに、しかしはっきりと答える。
「私は、
聖女ではありません」
少女の肩が、少し落ちる。
◇
「でも」
ミリエラは、続けた。
「もし、
私にできることがあって、
それを“私自身がやりたい”と思えたら……」
微笑みながら。
「その時は、
ミリエラとして、来ます」
◇
少女は、しばらく考え、
やがて、力強く頷いた。
「……それなら、いいです」
◇
馬車が、ゆっくりと動き出す。
村の風景が、
少しずつ後ろへ流れていく。
◇
道中、
ミリエラは窓の外を見ながら思う。
“戻らない”と決めた場所がある。
“行かない”と引いた線もある。
それでも――
行って、帰ってくる場所は、
自分で選べる。
◇
誰かに呼ばれたからではない。
期待されたからでもない。
自分の意思で、
足を運び、
自分の意思で、
帰る。
◇
それは、
縛られない関係。
それは、
奪われない生き方。
◇
夕方、離宮の屋根が見えた。
見慣れた庭。
変わらない回廊。
馬車が止まると、
ミリエラは、深く息を吸い込む。
◇
「……帰ってきました」
それは、
報告ではない。
自分自身への、
小さな確認だった。
◇
彼女は知っている。
ここが、
“選ばれて戻る場所”ではなく、
“自分で帰る場所”であることを。
◇
ミリエラは、
ゆっくりと一歩を踏み出す。
過去に戻らず、
役割に縛られず、
それでも人と関わる――
その距離を、
これからも、自分で選びながら。
彼女は、
静かな帰路の終わりに、
確かな居場所を見つめていた。
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