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7話 噂だけが歩く
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7話 噂だけが歩く
王都では、噂が先に歩く。
事実よりも速く、確かめられることもなく、都合のいい形に変わりながら、人の口から口へと渡っていく。
「ノクティス家の令嬢、逃げたらしい」 「いや、幽閉されたとか」 「聖女に逆らった罰だろう」
どれも、正しくない。
だが、正しくなくても噂は止まらない。
王城の回廊で、王太子は苛立った足取りで歩いていた。
側近が、書類を抱えて追いつく。
「殿下、再度の照会ですが……辺境伯からは、やはり非開示との回答です」
「……生きているのか、死んでいるのか、それすら分からないのか」
「契約上、回答できないと」
王太子は舌打ちをした。
婚約破棄を告げた時、彼女が泣かなかったことが、今になって引っかかる。
怒りも、縋りも、なかった。
まるで、最初から“降りる予定”だったかのように。
「探せ」
「ですが……」
「噂でいい。証言でいい。痕跡を集めろ」
側近は、言いにくそうに言葉を選ぶ。
「すでに、屋敷も、爵位も、領地も……すべて正式に処理されています。
違法性はありません。探査魔法も、条項違反になります」
――違法。
その言葉が、王太子の顔を歪めた。
一方で、街の噂は勝手に広がる。
ファーファ・ノクティスは不幸になったはずだ。
後悔して戻るはずだ。
助けを求めているはずだ。
そうでなければ、話が合わない。
だが、その噂のどれ一つとして、本人に届くことはなかった。
山の家では、昼下がりの光が床に落ちている。
ファーファは、椅子に座り、窓の外を眺めていた。
本は閉じたまま。読む気分ではない。
静かだ。
風が木々を揺らす音と、鳥の羽音だけがある。
王都でどんな物語が作られているか、知る由もない。
知ったところで、直す気もない。
「……勝手に言えばいいわ」
誰かの理解を得るために、生きているわけではない。
夕方、扉の外に箱が置かれている。
いつも通りだ。
中身を確認し、必要な分だけ取り出す。
残りは、棚へ。
噂は、ここまで来ない。
契約も、事務も、正確だ。
夜になると、遠くで雷が鳴った。
雨の気配がする。
ファーファは、早めに灯りを落とし、寝台に横になる。
王都では、今日も誰かが彼女を語る。
だがそれは、彼女の不在を前提にした物語だ。
本人は、ただ静かに呼吸をしている。
消息不明。
その言葉の裏で、
ファーファ・ノクティスは、何も変わらない一日を終えた。
王都では、噂が先に歩く。
事実よりも速く、確かめられることもなく、都合のいい形に変わりながら、人の口から口へと渡っていく。
「ノクティス家の令嬢、逃げたらしい」 「いや、幽閉されたとか」 「聖女に逆らった罰だろう」
どれも、正しくない。
だが、正しくなくても噂は止まらない。
王城の回廊で、王太子は苛立った足取りで歩いていた。
側近が、書類を抱えて追いつく。
「殿下、再度の照会ですが……辺境伯からは、やはり非開示との回答です」
「……生きているのか、死んでいるのか、それすら分からないのか」
「契約上、回答できないと」
王太子は舌打ちをした。
婚約破棄を告げた時、彼女が泣かなかったことが、今になって引っかかる。
怒りも、縋りも、なかった。
まるで、最初から“降りる予定”だったかのように。
「探せ」
「ですが……」
「噂でいい。証言でいい。痕跡を集めろ」
側近は、言いにくそうに言葉を選ぶ。
「すでに、屋敷も、爵位も、領地も……すべて正式に処理されています。
違法性はありません。探査魔法も、条項違反になります」
――違法。
その言葉が、王太子の顔を歪めた。
一方で、街の噂は勝手に広がる。
ファーファ・ノクティスは不幸になったはずだ。
後悔して戻るはずだ。
助けを求めているはずだ。
そうでなければ、話が合わない。
だが、その噂のどれ一つとして、本人に届くことはなかった。
山の家では、昼下がりの光が床に落ちている。
ファーファは、椅子に座り、窓の外を眺めていた。
本は閉じたまま。読む気分ではない。
静かだ。
風が木々を揺らす音と、鳥の羽音だけがある。
王都でどんな物語が作られているか、知る由もない。
知ったところで、直す気もない。
「……勝手に言えばいいわ」
誰かの理解を得るために、生きているわけではない。
夕方、扉の外に箱が置かれている。
いつも通りだ。
中身を確認し、必要な分だけ取り出す。
残りは、棚へ。
噂は、ここまで来ない。
契約も、事務も、正確だ。
夜になると、遠くで雷が鳴った。
雨の気配がする。
ファーファは、早めに灯りを落とし、寝台に横になる。
王都では、今日も誰かが彼女を語る。
だがそれは、彼女の不在を前提にした物語だ。
本人は、ただ静かに呼吸をしている。
消息不明。
その言葉の裏で、
ファーファ・ノクティスは、何も変わらない一日を終えた。
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