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8話 届かない確認
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8話 届かない確認
王宮の会議室は、珍しく人が少なかった。
長机の中央に置かれた書類には、短い件名が記されている。
――旧ノクティス伯令嬢に関する状況確認。
確認、という言葉が、ひどく曖昧だった。
「結局、何も分からないままか」
王太子が低く言うと、向かいに座る官僚が視線を落とした。
「所在秘匿条項が強固です。辺境伯側は、契約履行以外の発言を一切しておりません」
「生存確認すら?」
「“不要である”と」
王太子は、しばらく黙った。
彼女が姿を消してから、王都では何も問題が起きていない。
領地は安定している。
政務に穴はない。
噂だけが、騒がしい。
――問題がないことが、問題だ。
「確認できない、という状況自体が、不自然だ」
「しかし、違法ではありません」
官僚の声は、事実を述べるだけだった。
感情を挟む余地はない。
「……もういい」
王太子は、書類を閉じた。
「放っておけ」
それは、敗北宣言に近かった。
一方、山の家。
朝の光が、窓から差し込んでいる。
ファーファは、目を覚ましても、すぐには起き上がらなかった。
今日は、何をするでもない日だ。
起きる理由がないなら、もう少し横になっていてもいい。
誰に叱られるわけでもない。
しばらくして、ゆっくりと体を起こす。
外は晴れている。風も穏やかだ。
扉の外に、箱が置かれている。
「……届いてる」
確認というほどの行為でもない。
ただ、そこにあるから、そこにあると分かる。
箱を中に運び、開ける。
内容は前回と似ているが、少しだけ違う。乾燥果実が増え、塩の種類が変わっている。
季節が、進んでいる。
ファーファは必要な分だけを取り、残りを棚に置いた。
その動作は、もう習慣だった。
昼前、湯を沸かし、簡単な食事を取る。
味は、可もなく不可もない。
それで十分だ。
午後、窓辺に座り、外を眺める。
山は、今日も何も語らない。
誰かが生きているかどうかを、確かめる必要はない。
ここでは、生きていることが、特別な意味を持たない。
生きている。
それだけ。
王宮では、その“それだけ”を確認したがっている。
だが、確認は届かない。
契約の向こう側。
合理の内側。
そこに、ファーファ・ノクティスはいる。
夕方、雲が流れ、影が伸びる。
ファーファは、本を開き、数頁だけ読む。
閉じる。
今日も、確認されなかった。
それで、何の問題もない。
彼女は、灯りを落とし、静かに一日を終えた。
世界が知りたがっていることと、
彼女が生きていることは、
もう、関係がなかった。
王宮の会議室は、珍しく人が少なかった。
長机の中央に置かれた書類には、短い件名が記されている。
――旧ノクティス伯令嬢に関する状況確認。
確認、という言葉が、ひどく曖昧だった。
「結局、何も分からないままか」
王太子が低く言うと、向かいに座る官僚が視線を落とした。
「所在秘匿条項が強固です。辺境伯側は、契約履行以外の発言を一切しておりません」
「生存確認すら?」
「“不要である”と」
王太子は、しばらく黙った。
彼女が姿を消してから、王都では何も問題が起きていない。
領地は安定している。
政務に穴はない。
噂だけが、騒がしい。
――問題がないことが、問題だ。
「確認できない、という状況自体が、不自然だ」
「しかし、違法ではありません」
官僚の声は、事実を述べるだけだった。
感情を挟む余地はない。
「……もういい」
王太子は、書類を閉じた。
「放っておけ」
それは、敗北宣言に近かった。
一方、山の家。
朝の光が、窓から差し込んでいる。
ファーファは、目を覚ましても、すぐには起き上がらなかった。
今日は、何をするでもない日だ。
起きる理由がないなら、もう少し横になっていてもいい。
誰に叱られるわけでもない。
しばらくして、ゆっくりと体を起こす。
外は晴れている。風も穏やかだ。
扉の外に、箱が置かれている。
「……届いてる」
確認というほどの行為でもない。
ただ、そこにあるから、そこにあると分かる。
箱を中に運び、開ける。
内容は前回と似ているが、少しだけ違う。乾燥果実が増え、塩の種類が変わっている。
季節が、進んでいる。
ファーファは必要な分だけを取り、残りを棚に置いた。
その動作は、もう習慣だった。
昼前、湯を沸かし、簡単な食事を取る。
味は、可もなく不可もない。
それで十分だ。
午後、窓辺に座り、外を眺める。
山は、今日も何も語らない。
誰かが生きているかどうかを、確かめる必要はない。
ここでは、生きていることが、特別な意味を持たない。
生きている。
それだけ。
王宮では、その“それだけ”を確認したがっている。
だが、確認は届かない。
契約の向こう側。
合理の内側。
そこに、ファーファ・ノクティスはいる。
夕方、雲が流れ、影が伸びる。
ファーファは、本を開き、数頁だけ読む。
閉じる。
今日も、確認されなかった。
それで、何の問題もない。
彼女は、灯りを落とし、静かに一日を終えた。
世界が知りたがっていることと、
彼女が生きていることは、
もう、関係がなかった。
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