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第7話 私は何も言っていない
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第7話 私は何も言っていない(※重要)
翌朝。
私は、いつもより早く目が覚めた。
理由は簡単だ。
嫌な予感である。
「……今日は、何も起きませんように」
そう祈りながらカーテンを開けた瞬間、屋敷の中庭がやけに騒がしいことに気づいた。
人が多い。
いつもより、明らかに。
「……マーガレット?」
呼ぶと、完璧なタイミングで侍女が現れた。
「お目覚めでございますか、お嬢様。本日は――」
一拍、間があった。
「“視察日”でございます」
「初耳よ?」
マーガレットは、にこやかに答える。
「はい。ですが領地側では“既定事項”として共有されております」
頭が痛い。
聞けば、昨夜のうちに――
・農園
・商会
・加工場
・物流担当
それぞれが集まり、「お嬢様は直接介入せず、全体の流れを“見る”おつもりだ」という結論に至ったらしい。
(私は、寝てたわよ)
着替えを終えて中庭に出ると、そこには簡易的ながら立派な行程表まで用意されていた。
「午前:ぶどう園」
「昼:加工場」
「午後:商会」
……観光かな?
「お嬢様」
農園責任者が深く頭を下げる。
「“余計な口出しをなさらない”という方針、現場として大変ありがたく思っております」
「え?」
「我々を信じ、判断を委ねてくださっている。これは、最高の統治です」
違う。
それはただの放置。
だが、誰一人として疑っていない。
ぶどう園では、職人たちが以前より活き活きと働いていた。
「お嬢様が細かい指示を出さないおかげで、責任の所在が明確になりました!」
「現場で決めていい、という安心感があります!」
私は、何もしていない。
なのに、評価だけが積み上がっていく。
加工場では、新しい試作品が並べられていた。
「こちら、“お嬢様の沈黙”をヒントに開発したジュースです」
「沈黙、万能すぎない?」
商会では、帳簿を見せられながら説明を受けた。
「介入がない分、判断が速くなりました」
「結果、利益率が上がっております」
数字は、確かに良かった。
(……成果だけ見ると、文句が言えないのが一番困る)
屋敷へ戻ると、父が待っていた。
「どうだ、視察は」
「私は、なにもしてません」
「それが一番怖い」
父は本気の顔で言った。
「今のところ、お前は“有能な上位存在”として扱われている」
「やめて」
「もう遅い」
夕方、王宮からの書簡が届いた。
「アーデルハイド領の安定と発展について、高く評価する」
私は、机に突っ伏した。
「……評価基準、バグってない?」
マーガレットが紅茶を置きながら、ぽつりと呟く。
「お嬢様が何もおっしゃらないからこそ、皆、自分で考えるのですわ」
「それ、理想論でしょ」
「ですが、現実になっております」
その夜、私はノートに大きく書いた。
『私は、何も言っていない』
二重線で、強調して。
――しかし翌日。
そのノートの存在すら、「深い自己戒律」と解釈される未来が、すでに近づいていることを、私はまだ知らない。
翌朝。
私は、いつもより早く目が覚めた。
理由は簡単だ。
嫌な予感である。
「……今日は、何も起きませんように」
そう祈りながらカーテンを開けた瞬間、屋敷の中庭がやけに騒がしいことに気づいた。
人が多い。
いつもより、明らかに。
「……マーガレット?」
呼ぶと、完璧なタイミングで侍女が現れた。
「お目覚めでございますか、お嬢様。本日は――」
一拍、間があった。
「“視察日”でございます」
「初耳よ?」
マーガレットは、にこやかに答える。
「はい。ですが領地側では“既定事項”として共有されております」
頭が痛い。
聞けば、昨夜のうちに――
・農園
・商会
・加工場
・物流担当
それぞれが集まり、「お嬢様は直接介入せず、全体の流れを“見る”おつもりだ」という結論に至ったらしい。
(私は、寝てたわよ)
着替えを終えて中庭に出ると、そこには簡易的ながら立派な行程表まで用意されていた。
「午前:ぶどう園」
「昼:加工場」
「午後:商会」
……観光かな?
「お嬢様」
農園責任者が深く頭を下げる。
「“余計な口出しをなさらない”という方針、現場として大変ありがたく思っております」
「え?」
「我々を信じ、判断を委ねてくださっている。これは、最高の統治です」
違う。
それはただの放置。
だが、誰一人として疑っていない。
ぶどう園では、職人たちが以前より活き活きと働いていた。
「お嬢様が細かい指示を出さないおかげで、責任の所在が明確になりました!」
「現場で決めていい、という安心感があります!」
私は、何もしていない。
なのに、評価だけが積み上がっていく。
加工場では、新しい試作品が並べられていた。
「こちら、“お嬢様の沈黙”をヒントに開発したジュースです」
「沈黙、万能すぎない?」
商会では、帳簿を見せられながら説明を受けた。
「介入がない分、判断が速くなりました」
「結果、利益率が上がっております」
数字は、確かに良かった。
(……成果だけ見ると、文句が言えないのが一番困る)
屋敷へ戻ると、父が待っていた。
「どうだ、視察は」
「私は、なにもしてません」
「それが一番怖い」
父は本気の顔で言った。
「今のところ、お前は“有能な上位存在”として扱われている」
「やめて」
「もう遅い」
夕方、王宮からの書簡が届いた。
「アーデルハイド領の安定と発展について、高く評価する」
私は、机に突っ伏した。
「……評価基準、バグってない?」
マーガレットが紅茶を置きながら、ぽつりと呟く。
「お嬢様が何もおっしゃらないからこそ、皆、自分で考えるのですわ」
「それ、理想論でしょ」
「ですが、現実になっております」
その夜、私はノートに大きく書いた。
『私は、何も言っていない』
二重線で、強調して。
――しかし翌日。
そのノートの存在すら、「深い自己戒律」と解釈される未来が、すでに近づいていることを、私はまだ知らない。
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2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
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※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
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