公爵令嬢、学校をつくる。 ―学院のない世界に学院を作りますわ!―

鷹 綾

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第14話 最初の卒業生

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第14話 最初の卒業生

 学院に「卒業」という概念を導入したのは、私だった。

 徒弟制度には修了の儀はあるが、明確な区切りは曖昧だ。修道院には誓約があるが、世俗へ戻る者の扱いは一定ではない。

 学院は違う。

 一定期間を学び、一定の基準を満たした者に「修了」を与える。

 それは形だけの儀式ではない。

 評価の証明だ。

 最初の一期生が、規定年限を終えた。

 広間に整列する若者たちを見ながら、私は胸の奥に静かな高揚を感じていた。

 彼らは、学院がなければそれぞれの家で家庭教師のもと学び、家格の枠内で進路を決められていたはずだ。

 だが今は違う。

 同じ基準で評価され、同じ修了証を手にする。

 父が壇上に立つ。

「トレイルブレイザー公爵家の試行に参加し、規定課程を修めたことをここに認める」

 父の声は落ち着いている。

 だが、その言葉はこの国に新しい線を引く。

 修了証が一人ずつ手渡される。

 男爵家の次男が証書を受け取るとき、私はほんの一瞬だけ彼の目を見た。

 そこには自信があった。

 家格ではなく、自分の力で得た自信。

 式が終わった後、私は父の書斎に向かう。

「始まりました」

「何がだ」

「学院出身、という肩書きが」

 父は小さく笑う。

「ブランド化を望まぬと言ったのは誰だ」

「望みません」

 私はすぐに答える。

「ですが、評価は自然に生まれます」

 すでに仕官先から問い合わせが来ている。

 王宮の下級官吏局。

 商会連合。

 地方領主。

「学院出身者を優先的に紹介してほしい」

 その文面を見たとき、私は深く息を吸った。

 これは危うい。

 選抜の場になってしまう可能性がある。

「どうする」

 父が問う。

「紹介はいたします。ただし優先はいたしません」

「平等に扱う」

「はい」

 学院は踏み台ではない。

 機会の場だ。

 修了後の道は、本人が選ぶ。

 数日後、最初の正式な仕官が決まった。

 男爵家の次男が、王宮の会計補佐に任じられる。

 試験成績と学院での評価が決め手だった。

 王宮内でざわめきが起こる。

「学院出身者は使えるらしい」

 その噂は広がる。

 私は庭を歩きながら、静かに思う。

 成果は出た。

 だが、それは目的の一部に過ぎない。

 夜、母が私の部屋を訪れた。

「誇らしいでしょう」

「少しだけ」

 私は正直に答える。

「でも、怖くもあります」

「なぜ」

「学院出身というだけで期待される」

 母は微笑む。

「期待は重いわね」

「はい」

「でも、それを支えるために規律を作ったのでしょう」

 私は母を見つめる。

 政略結婚でこの家に来た人。

 だが父の自由さに惹かれ、自分も自由を与えられた人。

「お母様は、後悔していらっしゃいますか」

「何を」

「政略結婚を」

 母は静かに首を振る。

「あなたの父が、私に自由をくれたから」

 私は胸の奥が温かくなるのを感じた。

 自由。

 それは私の原点。

 学院も、その延長にある。

 翌日、修了生の一人が私を訪ねてきた。

「令嬢様」

「どうしました」

「学院がなければ、私は家業を継ぐだけでした」

「それが悪いことではありません」

「ですが、今は違う道を選べます」

 彼は深く頭を下げる。

 私はその姿を見つめながら、静かに言う。

「選んだ道で結果を出しなさい。それが学院への礼です」

 彼は力強く頷いた。

 広間に一人残り、私は空を見上げる。

 最初の卒業生。

 制度は証明された。

 だが私は忘れない。

 これは選ばれた者の物語ではない。

 底上げ。

 より多くの機会。

 学院出身が誇りになるなら、それは努力の誇りであってほしい。

 未来はまだ分からない。

 だが今日、確かに一つの成果が生まれた。

 学院は、社会に足跡を残し始めている。

 そして私は、その足跡がどこへ向かうのかを見届ける覚悟を固めていた。
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